初めてのお茶会 姫様の場合 下準備編
私は初めてのお茶会が開かれることに浮かれていた。同年代(?)の女の子とおしゃべりができるのが楽しみだったのだ。その浮かれっぷりは準備段階から発揮される。
「招待状の紙はこれで良いかしら?」
「はい。シンプルですが柄も紙の質も良いものですし、色合いも良いと思います」
筆頭さんのお墨付きをもらって私はなるべく丁寧を心がけ招待したい旨を書いていく。
男性である隊長さんは私の楽しみ具合が理解できないようだ。準備に気合が入る事が理解できない様子が見て取れる。加えて友人もそんなに必要なのか? と疑問に思っているようだ。そう聞かれた時、筆頭さんの、穏やかでありながら凄みのある笑顔が印象的だった。
「男性である隊長様には理解できないかもしれませんが。どんなに子供でも、女性は女性なのです。その事に年齢は関係ありません。特に今から学校に通われる姫様にお友達は必要です。絶対に。ご理解ください」
「え、ええ。わかりました」
凄みのある筆頭さんの笑顔に呑まれた隊長さんは、引きつった笑顔を浮かべながら頷いた。そしてこの手の話題に触れてはいけない、という男性の通過儀礼を受けていた。
良い教訓だと思う。
あまり隊長さんに意見する事が少ない筆頭さんなので、このお茶会は大事なものだと悟ったようで、自分が口出しをしてはいけないと感じ取ったようだ。
女性の話に首を突っ込むのは良くないよ。隊長さん。
そうしていると出席の返事が来て。予定は取ってあったから当たり前だけど、やっぱり嬉しいものだと思う。
そして気になるのは服装。子供同士のお茶会でも、やっぱりそれなりの服装ではないといけないと思う。招待状にドレスコードは書いておいたけど、それに合わせたドレスを選ぶのは大事な事だと思う。なんでも良いと言うわけにはいかないはずだから。そこは頼りになる筆頭さん。
「服装はどうしたらいい? お菓子やお茶の葉はどんなものを用意したら良いのかしら? 茶器も気にした方が良いわよね? 場所は? サロンが良い? わからない事ばっかりだわ」
「落ち着いて下さい。姫様。一つづつ用意していきましょう。まずは服装から。今回は略式ですのでデイドレスで問題ありません。その旨もお知らせしていますので。皆様も合わせて来てくださいます。お茶の葉はお菓子に合わせて選びましょう。茶器は可愛らしいものでよろしいかと。場所は応接室で問題ありません。可愛らしい応接室もありましたので、そちらでいかかでしょうか? お菓子はどうなさいますか? 商人殿に注文されますか?」
「? 注文? 私は作るつもりだけど?」
「そう仰ると思っていました。ですが、今回はお取り寄せのものでお願いいたします。姫様のお手作りを出すのは早いかと考えています」
「ダメなの?」
「はい。姫様もご理解されていらっしゃると思いますが、基本的に高位の家の方でなくとも、学園に通うようなお家の方々が料理をすることはありません。そのような中で、姫様のお手作りをいただくということがどれだけ特別か。おわかりいただけますね?」
「理由は分かるけど、私が初めて招待する方たちだわ。せっかくですもの。おもてなしをしたいと思うわ」
「姫様らしいお気持ちだと存じますし、お気持ちも理解できます。ですので、これから先ずっと作らないでください、と申し上げるつもりはございません。今回は初めてですので、見送ってください、とお願いいたします。これから何回もお茶会を行う機会はございます。お二人が末永く姫様とご友人になっていただけるのなら、その時には姫様のお好きなお菓子をおつくりになって振舞って差し上げればよろしいかと」
やんわりと窘めてくる(注意ではない)筆頭さんの言う意味は理解ができる。要は始めから特別扱いはいけない、ということで、見極める必要があると言いたいのだろう。筆頭さんの教え子でも、管理番の姪っ子でも、私と気が合うかは分からない。だからこそ慎重さが必要だと言いたいのだと思う。確かにその意見は理解できる。少し話した感じでは大丈夫だと思うけど、付き合ってみないと分からない事も出てくるものだ。言いたいことは分かるのだが。
何を作ろうかと楽しみにしていた私は肩が落ちる。理解はできるが残念で仕方がない。お菓子を何種類か作るつもりで材料も厨房に頼んでいたのだ。私はしょんぼりしながらその事を筆頭さんに相談する。話を聞いた筆頭さんは苦笑いだ。まさか材料が発注されているとは思っていなかったようで、気が早いと思われただろうか。
「わたくしは料理はしないので詳しくは分かりませんが、すぐに傷むようなものなのですか?」
「そこまでではないけど。卵はだめになりやすいかも。ほかは粉だから大丈夫だと思うけど」
「では、卵だけ使うことは可能ですか?」
「プリンとか作れば大丈夫だけど。問題はそこじゃないの。作るのはどうにでもなるけど。消費をどうしようかと思って。作っても食べきれないでしょう? 問題にしているのは消費の方よ」
「食べきれないほどできてしまうのですか?」
「練習も兼ねて発注したから」
筆頭さんは少し困っていた。私もどうしようかと悩む。離宮のスタッフに配る事も考えたけど、現在の離宮はスタッフが多い。そこに十分回るだけの数があるかと言われると難しいと思う。かと言っていつものメンツだけでは少しだけど持て余す。隊長さんや商人に多く渡してもいいけど、そうすると後からバレたときに不公平感が出て良くない気がする。
そうして筆頭さんと頭を悩ましていると良いことを思いついた。
「そうだわ。筆頭さん。ご夫君は甘いものは大丈夫かしら?」
「はい。なんでも大丈夫ですが?」
「良かったら。プリンを食べて貰えないかしら。先日のお礼も兼ねて。筆頭さんのお休みの前の日に作るわ」
「姫様。今申し上げましたのに」
「これはお礼だもの。お礼ならいいでしょう? 私に足を踏まれて痛い思いをしたのだから。ぜひお詫びとお礼をしたいわ」
押し付けるみたいだけど、お礼をしたかったのでご了承ください。
ご夫君が喜んでくれると良いのだけど。大丈夫かな?