閑話 初めてのお茶会
閑話 初めてのお茶会 (姪っ子ちゃんの場合)
「叔父様。どうしよう。本当に招待状が来たわ」
私は招待状を手に叔父様のところに駆け込んでいた。明日はお休みと聞いていたので、父に連れてきてもらったのだ。その父も顔を青くしている。姫様から招待状が来ると、私と叔父様から聞いてはいても、本当だと思ってはいなかったと思う。当たり前だと思うし、私も気持ちは同じだもの。相手は離宮の姫様だから。招待が本当に来るとは思わないと思う。私ぐらいの身分なら皆そうじゃないかな?
会場でお誘いを受けたときは本当に嬉しくて、お優しいお言葉をかけてくださった姫様に感動して、そのお優しさにお応えしたいと思って、お誘いに頷いたけど。家に帰ってから気がついてしまった。会場は華やかだったから忘れていたけど、そんな華やかさとは違う普通の自分の家を見て、こんな私に姫様がお友達になりたいなんて思うはずがない、そうわかってしまったから。だから軽く考えていて。それなのに本当に招待状が届いて。どうしたらいいんだろう。嬉しいどころではなくて舞い上がる前に、どうしたらいいかわからなくなって。お父様にお願いして叔父様のところに連れてきてもらったのに。
叔父様。どうして驚かないの?
「叔父様。聞いている? 姫様から本当に来たの。招待状が。本当なの。これを見て」
信じてもらいたくて招待状を叔父様の前に差し出す。叔父様は呆れたような顔をしながら受け取ってくれた。やっと招待状を見てくれて、ホッとしていたら、叔父様に座るように言われたけど、落ち着けるはずがなかった。邪魔なのは分かっていたけど落ち着かなくて叔父様の前を行ったり来たりしてしまう。
「落ち着きなさい。わかっていたことだろう? 招待してくださるって姫様は言われていたし。お前も頷いたじゃないか」
「そうだけど。本当に来るなんて思わないじゃない? 姫様は本気だったの? だって私じゃおかしくない? 他にもたくさんいるのに」
私は叔父様の前をウロウロする事をやめられない。混乱の極みにいた私は変な事を口走っていた。もう一度座る様に言われたけど無理だった。私の意味として成り立っていない言葉を叔父様は理解してくれたみたい。
「姫様は口にされたことは守る方だし、その場しのぎのことを言われる方じゃないよ」
「じゃ、本当に私は離宮に行くの?」
「そうだね。今更断るとはいわないだろう? 姫様は楽しみにされていたようだから、がっかりされるだろう。そんな事をしたら私はお前を許せないと思うよ」
「そんなことはしないわ。私なんかにも優しくしてくださる方だもの。でも、ビックリして。本当に私が行ってもいいのかな? 招待状があるから追い返されたりしないよね? 離宮に行くときは叔父様も一緒に来てくれるのよね?」
「そうだね。流石に離宮にいきなり一人では行かせられないからね」
「良かった」
離宮に一人で行くことにならなくて、私は心の底からホッとした。そして驚いてもいる。私は叔父様には可愛がられている方だと思う。大体のワガママは聞いてくれるし。いつも私には甘いほうだと思ってたけど、今回のデビューも付き合ってくれていたし。それなのに、私に【許せないと思う】、なんて初めて聞いた。身分だけでそんな事を言う叔父様じゃないから、本当に姫様の事を大事にしているんだと思う。姫様のおかげで今の仕事も続いてるって言ってたし、隊長様とも仲良くなれたと言ってたけど。本当に姫様ってどんな方なんだろう。この前は私にも謝ってくれて。普通はあんなことはしない。子供の私でもわかることだ。
でも、なんか少し複雑。今まで叔父様の一番は私だと思ってたのに。
でも、それよりも今はもっと大事なことがある。
「叔父様。何を着て行けばいいの? 普段着じゃだめだよね。新しく買ったほうが良い? それに何か持っていた方が良いの? 何を持って行った方が良いのかな? お菓子?」
何を着て行けば良いんだろう。アクセサリーもいるのかな?
私を見た叔父様は呆れた顔をしていたけど、だって仕方ない。分からないんだもん。
その叔父様が何かに気が付いたみたい。
「ん? 侯爵令嬢も一緒にと書いてあるけど。何か聞いているかい?」
「え?? 知らないわ。本当に?」
私は叔父様に渡した招待状を覗き込み、血の気が引くのが分かった。
閑話 お茶会(ご令嬢の場合)
「お嬢様。離宮よりお手紙が、招待状が届いております」
「ありがとう」
わたくしは侍女から招待状をもらい、蝋封をみる。姫様のお国の紋章が入っている。やはり、姫様からだ。先日、わたくしを招待したいと言ってくださったのは本気だったらしい。あの姫様の評判を聞く限り、社交辞令をおっしゃるような方ではない、そう思っていたけど。やはり招待してくださった。予定されていた事でも招待状が届いたことで安心できた。
わたくしは招待状を手に踊りだしたいくらい嬉しくなってしまう。
ちゃんとしたお友達ができるかもしれない。物語に出てくるような身分に捕らわれない、自分の本当の気持ちを話せる友達が。わたくしは期待に大きく胸を膨らませる。
わたくしは貴族の中でも有力貴族と呼ばれる家に生まれています。そのためか、わたくしの周囲には親から言われたであろう、お友達候補が大勢いました。母からはそういった人たちとも仲良くする必要がある、と言われ表面上は仲良くしておくようにと言われていました。それと同時に本心を打ち明けてはいけないとも。その気持ちを利用されるから、と何度も注意されていました。そのため、仲良くするお友達は大勢いるし、お茶会やお買い物に行くお友達も大勢いるけれど、悩みを打ち明けられるお友達は一人もいません。
わたくしが読む本の中では、身分に関わらず仲良くなる子たちが大勢いてとても羨ましく思っていました。わたくしもそんなお友達がほしくて、周囲を見回して目をこらして探してみますが、見つかりません。
仕方がないとも思います。成長するにつれて家の力関係。利益の関係を考えると無理な事だと理解ができました。わたくしは諦めながら学校生活を送る事にしました。
わたくしは殿下と同じ年に生まれていて。家柄の関係上、殿下と話す機会が多くありました。光栄な事に初のデビューではエスコートを殿下にお願いすることができ、それ以来話をする機会が更に増えていきました。後から知った事でしたが、わたくしのエスコートをお願いしたのは、父だったようです。どうしてお願いをしたのか、理由は今でも教えてもらっていません。
その殿下とは総会も同じとなり、お話をしてみると殿下もわたくしと同じような悩みを抱えているような感じがしてなりませんでした。ですが、本心を聞くことはできないでいました。
殿下には隊長様がいらしたから。殿下は何かと隊長様に相談されていて、わたくしは羨ましくてたまりませんでした。わたくしにも相談できて、頼りになる従姉妹や姉がいたら良かったのにとそう思いますが、わたくしには誰もいなくて寂しいものです。
そんなときに離宮の姫様の話を耳にする事が多くなっていきました。陛下に直接意見をされたとか、宰相閣下に無理難題を通された、とか。わたくしより年下なのに考えられない、信じられないような噂話が多く聞こえてきました。その話に貴族間でも意見は分かれていて、父は姫様の事は慎重に考えなければいけないと言っていました。わたくしがお茶会に招待されたことを伝えると、反対はされませんでしたが、ただ一言、帰ったらお茶会の話を教えて欲しいとだけ言われました。噂ではない姫様のお人柄を知りたいのだと感じました。
もしかしたらこの父の件は、姫様のご迷惑になるかもしれません。迷いましたが、姫様とのお茶会に行かないという気持ちにはなれませんでした。わたくしも、どうしてもお友達が欲しいと思ってしまったのです。
姫様にご迷惑になるような事があれば、その時は正直に謝罪をしようと決め、参加の返事をしたためる事にしました。返事を書きながら、姫様は頼りになる方のような気がする。それに他国の方なら国内の力関係は気にする必要なくなる。もちろん国同士の問題が出てくるかもしれないけど、留学生なら、その可能性は低くなるかもしれない。
わたくしはその事に希望を見出します。
父の事は別にして、もしも本当のお友達になれたら。
お話に出てきた主人公たちのようにおしゃべりをしてみたい。お泊り会とか。そんな事をしてみたいと思ってしまい、期待をしてしまいます。本当にそんな事ができたら良いのに。
姫様を快く思っていない殿下が、思いもよらない事をしてしまいましたが、姫様のお心は広かった。何一つ気にされていないようで。わたくしの責任はないと、その上お茶会に誘ってくださって、お友達になりたいって言ってくださったその事が嬉しくて仕方がない。
なんとなく話がうまく進みすぎて心配ですが。でも、それでも姫様とお話がしてみたいという気持ちが消えることはありません。あの方の話す様子は周囲の子たちとは違う気がするから。
わたくしは早く、と思いながらお茶会の日が待ちきれませんでした。
招待状を読み返すと最後の文面に気がつきます。
「あら? わたくしともう一方招待された方がいらっしゃるのね。どんな方なのかしら?」
お茶会まで、あと数日。