厨房でお料理教室 2
コロッケの話を書いていて、コロッケが食べたくなりました。
ボス戦の前に腹ごしらえが出来なかった姫様
応援、お願いいたします
料理人たちは手際よくコロッケを丸めてくれている、私はその際に形に拘る必要がない事を説明していた。今日はお料理教室だ、自分の好きな形を作って楽しんでもらいたいと思っている。人に出すものは気を使うものだが、自分が楽しくなければ料理そのものが嫌になるのではないかと思ったのだ。
「姫様。本当にわたくしの好きな形でよろしいのですか?」
不安そうに一人の料理人が聞いてくる。言葉だけでは不安は拭えないようなので、私は実践して見せることにした。コロッケの種をもらうといろいろな形を作る。パン粉はつけにくいと思うが星形やハートも作って見せた。
「ほら、こんな形も楽しいと思わない?」
「よくは分かりませんが可愛い形ですね。子供たちが喜びそうです」
「そうね。こんなのはどうかしら?」
ついでとばかりに一口コロッケも作って見せる。他の料理人たちものぞき込んでいた。その上で好きな形を作る事、中に何かを入れても良い事も追加で説明する。これも実践しないと分からないと思うので、チーズをもらうと中にチーズを入れる。その事に刺激を受けたのか料理人たちはアイデアを出しながら、成形を始めていた。楽しそうなので水を差すことはせず、料理長のところへ行く。
陛下たちに出すものを作る前に、試食タイムだ。自分たちが作ったものを食べて、味を覚えてもらう必要がある。私はさっき作った一口コロッケを揚げてもらう事にした。一口ならその場ですぐに食べることが出来るし、大体の食感も感じてもらう事が出来るからだ。ついでに夕食分の種を冷やす時間が出来るので、一石二鳥だ。
そして料理長に揚げてもらう事にした。揚げる感触を一番に覚えてもらう必要があるからだ。今後、指導をするにしても自分が理解していなければ教えることは出来ない。
私が料理長を指名すると、他の料理人が自分がと、言い出しそうな雰囲気があった。だが料理長が視線で黙らせていた。眼光一閃と言うやつである。
私にはない迫力で羨ましい。これがあれば読書の時間を邪魔された時に有効活用できるのではないだろうか? 邪な考えを持ってしまった。しかし、これを見ると厨房が料理長の城という事が感じられる瞬間である。私はその事には触れず、料理長にいくつかの注意点を伝える。なにより大事なことは油を多めに使う事だ。
油の量を少なくして揚げ焼きでも美味しいものだが、多めに入れた油で泳がすように揚げる方が油の温度が一定になるので多く作るときは必要だと思っている。
その辺も注意しつつ料理長にコロッケを揚げてもらう。料理長もコロッケを揚げるのは初めてなためか何度も触ろうとするので、何度も触る必要はない事を説明する。爆発したり、衣が剥がれたりするのであまり良い事ではない。私の言葉に返事はするのだが頭に入っているのかは別問題だ。油の熱さだけではないであろう、額に汗が浮かんでいる。緊張もあるのかもしれない。そこには触れず淡々と進めていく。部下がこれだけいる中で注意ばかりされるのは料理長も立場がないだろう。
そうこうしているうちに、一口コロッケが揚がって行く。私は揚がった傍から味見をするように料理人たちに配っていく。試食は料理人の特権だ。
そして予想はしていたが、熱い視線を感じる。が、ないものはない。
作ってない人たちの分はありません。物欲しそうに見ても隊長さんの分はありません。表面上は無表情を装っている隊長さんだが、私にはわかる。あの目はコロッケを狙っている。
でも、あげません。ありません。という思いを視線に込めて見つめ返す。思いは伝わったのだろう。視線を外された。ついでとばかりに筆頭さんと小声で話しているのが見えるが、私からは何を話しているのかは分からない。その様子を気にしていると定番の声が上がった。
「熱っ」
「うまっ」
「なんか伸びるぞ」
最後の一人はチーズだな。その他にも、『俺もだ』とか『それ、美味そう』、『いいな』なんて言いあっている声が聞こえてくる。概ね好評の様だ。良かった。この間に夕食用の種は冷えているはずだから本番の分を作っていく予定だ。皆が練習で作った分は賄いに回してもらう予定になっている。私が作った物は当然離宮に持ち帰らせてもらう。私の夕食にする予定。それくらいは特権だと胸を張って言いたい。
「お味はどうかしら?」
私は少しふざけて聞いて見せる。料理人たちも話し方でふざけているのを感じたのだろう。笑顔で『美味しいです』と返ってきた。感覚も掴んでいるようなので職員用の分は遠慮なくお任せする事にして、陛下たちの分を料理長と作ることにする。と言っても料理長も問題はないので私は眺めているだけだ。やはりプロは違うなと思って眺めていると料理長から小声で話しかけてきた。
「姫様。昨日は申し訳ございませんでした。このような形でお話させていただくご無礼をお許しください」
「いいのよ。私に気を使ってくれているのは分かるわ」
私も小声で返しておく。こんな話を他の料理人に聞かれたらせっかくの良い空気が霧散してしまう。それは本意ではない。料理長も改めてお詫びをしてくれたし、この話はこれで終わりだ。私はその事を示すために一つの提案をする。
「料理長。私がコロッケを作る提案をしたのは理由があるの。今度から私がコロッケを食べたくなったら厨房で作ってもらいたいわ」
「勿論です。ぜひ我々にお声掛けください。喜んで作らせていただきます。他の料理も教えて頂ければわたくし共で作らせていただきます」
料理長も何かを感じてくれたのか笑顔で太鼓判を押してくれた。今後も良い関係性が作れそうである。
「ありがとう。ではこれからもよろしく」
「はい。こちらこそよろしくお願いいたします」
これで今後は厨房とも仲良くやっていけそうだ。
ホッと胸をなで降ろすことが出来た。