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新人君を迎え入れよう

再び離宮へ歩き出した私を隊長さんが失礼します、と抱き上げてくれる。私が不思議そうに見上げたら笑みを零してくれた。

「さすがに離宮まで歩くのは姫様のお身体では大変ですので」

意外に真面目な理由だった。確かにここから更に歩くのかと少しうんざりしていたのでありがたい。そう思っていたら隊長さんから小声でこれからどうするのですか? と、もう一度聞かれた。

私が変な事をしないか気にしてくれているのかもしれない。心配をかけるのは本意ではないので、同じように小声で耳元に離宮に着いたら説明すると返しておく。廊下でさんざん話しておいてなんだが、こんな場所でする話ではないと思ったのだ。頷きを返してくれた隊長さんはそれ以上は何も言わず黙々と、離宮まで私を抱っこして歩いてくれた。筆頭さんはいつもの無表情に戻り私の後をついてくる。もちろんおしゃべりなんてする事はなかった。


季節は寒い季節になっている。だが私は別な意味で寒さを感じていた。特に後ろから。

離宮に着くまでの我慢だ。着いたら着いたで大変だが、取り合えず身体だけは温めることが出来るだろう。

どうしてだろう。私は穏やかなスローライフを望んでいただけなのに、スローライフになってない。

納得できない案件だ。

やっぱりこれは陛下が悪い。陛下が絡んでから騒動に巻き込まれている気がする。

もしかしたら、離れにいた時の方がのんびりできていたように感じる。

横領の問題はあったけど、実質私の問題点は食事事情だけで、ドレスとかはいらないから気にしてなかったし。鉄格子はあったけど防犯用と自分に言い聞かせていたし、離宮に移ってからはのんびりできてないな。

今のところは思いつかないけど、何か今後の対策を考えた方が良いかもしれない。

私は隊長さんが代わりに歩いてくれるのを良い事に自分の考えに没頭していた。


そうしている間に離宮に着いた私はサロンで一息。目の前には隊長さんと筆頭さんがいる。二人には私の考えを説明しておくべきだろう。もちろん嫁候補から外れようという考えを除いて、である。


「二人ともあの見習い君を入れるのは反対かしら?」

「賛成はできませんね。姫様のお考えは立派なものですが、警備上身元を確認していない者を離宮に入れるのは反対です」

「そう。筆頭さんは?」

「わたくしも反対でございます。姫様はあの子のしたことを小さな嫉妬からとおっしゃいましたが、同じ事を繰り返さない保証はございません。加えて姫様のお客様がいらしたときに思い違いをして何かをしないとも限りません。その結果の責任は姫様に向かいます。今回の姫様のように理解をしてくださる方が相手とは限りません。その事を思えば子供とはいえ責任をしっかり自分で取らせるべきです。姫様が責任を負う必要はないのですから。それに一番不愉快な思いをしたのは姫様ではありませんか。その姫様が庇う必要はないと思いますが?」

二人のいう事は一々もっともだ、私は自分本位の気持ちが芽生えていたことを申し訳なく思うほどに考えてくれていた。

ここは自分の問題には一度蓋をして、真面目な話をしよう。邪な(嫁候補から外れたいという)思いもあるが、あの子の将来を思う気持ちもあるのは本当なのだから。


「二人ともありがとう。その気持ちを無視するつもりはないのだけど、あの子を離宮に入れる気持ちは変わらないわ」

「「姫様」」

珍しく二人が同時に厳しい声を出す。一瞬それにひるみかけたけど、気持ちを奮い立たせる。


「わかるわ。二人のいう事は尤もだもの。正しいわ」

「そうおっしゃっていただけるのなら、お考え直しください」

「毒を身の内に抱える必要はないかと思います」

翻意を促す二人はかなり本気の訴えだ。そこに絆されそうになるが、それでは今日の事は無意味になるので堪える。

私は二人を説得にかかる。正直に言えば隊長さんも反対だとは思っていなかった。厨房では涼しい顔をしていたので、私の意見に賛成してくれていると勝手に思っていたのだ。予想外だった。


「二人ともよく聞いて。あの子はまだ15歳なのよ。一度の失敗で今後の人生を棒に振ってしまう事になる。それはあんまりじゃない? この失敗であの子は学んだはず。自分のした事で周囲に迷惑をかけてしまう事を。同じ過ちは繰り返さないと思うけど。どうかしら?」

「姫様。わたくしの前任の侍女長には裁判を求めたと耳にしております。その時と対応が余りにも格差があると思いますが?」

「確かにそうよ。あの時は明らかな犯罪だったし。対象は成人した大人たちだった。でも、今度は違うでしょう?あの子は子供で、未成年。今度は犯罪ではないわ。子供のいたずらよ。それに対して大人が目くじらを立てるのはどうかと思うの。どうかしら?」

「いたずらですか?」

「そうよ。子供のいたずら。被害者の私が言うんだもの。間違いないわ」

私のいたずら発言に二人は何言ってるの? という顔になった。無理もない。私に違う料理を出すという事は国際問題でもあるし、下手をしたら毒殺を疑われる事になる。本来なら相手が子供でも重罪に問われる内容だろう。それに心配してくれている二人に向かって、いたずらだから見逃せと言っているのだ。

ふざけるな、と思われても仕方がない事だと思う。私の信用問題にも関わって来るだろう。だが、あの子の問題を軽く済ませるにはいたずらだというしかないのだ。


私も考えが甘かったとも思う、そこは反省するべき点だ。二人が私の安全面にここまで神経を使ってくれているとは考えていなかったのだ。


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人質生活から始めるスローライフ2
― 新着の感想 ―
[気になる点] この新人君は、料理に何をするかわかりません 料理を入れ替える時点で変態っていう事なので。
[良い点] 感想欄には色んな意見がありますが、私は面白いと思っています。
[一言] 15歳が子どもか?大人か?という話題がこの感想欄にもありましたけれど。 管理番が第55話で >「姫様、お忘れかもしれませんが、姫様はまだ9歳です。成人までまだ半分です。」 と言っていましたか…
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