災難は朝食とともにやって来る
誤字報告、コメントありがとうございます。
私は爽やかな朝を迎えていた。
陛下との昼食会も終え、今後は自分のためだけに時間を使えることが出来る。と言ってもマナーとダンスの特訓という課題がある。どこのスポコン漫画だ、というような状況になるのだが。そこは自分のためという事で我慢するしかない。だが、その時間以外は自由だ。本を読んだり、散歩したり、ボーッとしたり、なんでもできる。実は私には密かな野望がある。料理が趣味な人に多いあるあるだが、家庭菜園を作りたいのだ。前の生活の時には私は簡単な葉物やトマトなんかは自分でベランダ菜園をしていた。その趣味を復活できないか目論んでいる。もちろん大きくするつもりはない。本当に小さく自分が使う分を、簡単な物だけを作りたいと思っている。今の段階で、行動を開始すると、自分のキャパオーバーになるのは分かっているので、胸の内だけで検討している段階だ。今度商人が離宮に来たら種や苗があるのか確認はしようと思っている。まあ、その時点で隊長さんにはバレてしまうのだろうけど。隊長さんは黙っていてくれると信じている。これが成功すれば私のスローライフはまた一歩進むことが出来るのだ。ニヤニヤが止まらない。
自分の密かな野望を胸に朝食の席に着く。ダイニングの用意は滞りなく整えられていた。
朝だけは侍女さんズに用意を整えてもらう事になっているからだ。私は席に着く前からテーブルに違和感を感じている。何が違うのと言われたら困るが、なんとなく違うのだ。侍女さんズは気にしていないようだが、私はその違和感に首を傾げていた。
席についても食事を始めない私に侍女さん達は不思議そうだ。
「姫様、どうかなさいましたか?なにか不手際でも?」
「いえ、大丈夫よ」
説明のできない違和感を言葉にすることは出来ず、私は食事を始めることにした。カトラリーをもち、食事を始めようとするのだが、手が進まない。
もちろん、こちらの食事は私の好みではないので、美味しいとは思わない。でも、食べられないという事はないのだが、一口目を口にして違和感の正体がわかった。
いつも以上に味がしっかりしていないのだ。全体的にぼんやりしているし、パンのパサパサ感もひどいものがある。
私は完全に一口目から手が止まってしまった。出されたものは完食するのが私の主義だ。作ることを趣味にしているからこそ、作る人の気持ちがわかる。食べてもらえない事が一番悲しいのだ。そんなことはしたくないので、今までも頑張って食べてきた。しかし、これはいつも以上にひどい。食べられるものではなかった。食材に対する尊敬がない、あんまりだと思った。これがお店なら、調理人を呼び出すレベル(やったことはないが)だと思う。
動きの固まった私に侍女さんが心配してくれたのだろう。様子を伺いながら声を掛けてくれた。
「姫様?今日は体調でも?何かございましたか?」
「いいえ。大丈夫よ」
心配をかけるわけにもいかず、頬を緩めて見せるがどうすればいいのかわからない。
よく見るとスープの中に入っている野菜も形が不ぞろいだったり、完全に火が入っていないようなものもある。
どういう事?いつも美味しいとは思っていないけど、これはひどい。いつもと違う方向性のひどさ。これってどうすればいいだろう?食べられないんですけど。完食が私の主義だけど。さすがに無理。
その事を口にするわけにはいかず、胸の内で嘆いているがこのままなわけにもいかず。私はスプーンを動かす。
美味しくない事をなるべく表情に出さないように注意しつつ、食事を進めるのがつらかった。水を飲み飲み、時間をかけても完食した私を自分で褒めたい、と思える程の辛さだ。
私の様子がいつもと違うので侍女さんを本気で心配させてしまったようだ。
「姫様。朝食に問題でも?毒見では問題ないとの事でしたが」
「毒見?」
私は初めて聞く話に侍女さんを振り仰ぐ。私の驚き様に侍女さんの方も驚いたのか、少し目を大きく開いていた。私に説明をしてくれる。
「姫様ですもの。毒見が付くのは当然です。先ほど別なものに毒見をさせております。問題はなかったと聞いていますが?」
「そう」
私は毒見をされている事を知らなかったが、私が知らないだけで当たり前の様についていたのだろう。
この食事に疑問は持たなかったのだろうか?毒見と味は別問題?味が悪ければ毒は疑われない?それともこの味は普通なレベル?私の感覚がおかしい?本当にこの料理、作ったの誰?今までとは違う格段のひどさ、作った人を聞くぐらいは許されると思う。
私はやはりこの味に納得ができず侍女さんに調理人を確認するようお願いしていた。
「侍女さん。ここに運ばれてくる料理は誰が作っているの?まさか、見習いの人ってことは無いわよね?」
「もちろんです。姫様にお出しするものです。そんなことはありえません」
「そうよね。ありえないわよね」
私の立場は一応『姫』だ。見習いが料理を出すことはありえないはずだ。ではこれは誰が作ったのか?
私は疑問を抱きつつ侍女さんへ確認をお願いしていた。
これが更なる問題を大きくすることを私は知らなかった。