バレンタイン 小話
今日はバレンタインデーなので、バレンタインの小話を書いてみました。
本編とは関係のないお話です。設定もチョコと同じく甘いです。
お正月と同じくあら~、と思っていただけたら幸いです。
少しでも楽しんでいただけたら嬉しく思います。
ハッピーバレンタイン
今日はバレンタインデーだ。私が日本で生きていたころは女性から男性にチョコを送るのが定番だった。この世界にバレンタインデーの習慣はもちろんない。それでも日ごろお世話になっている人たちに、何かしたいと思うのは人情だと思う。
前々日までいろいろ考えたが、チョコを日ごろのお礼としてみんなに渡すことにした。そう考えると日ごろお世話になっている人は多岐にわたる。離宮のみんなもそうだし、私個人としてはトリオには、特に助けてもらっていると思う。しかし、トリオに渡すとなれば当然陛下たちの耳にも入ると思う。そうなると商人は城下だから問題ないし、隊長さんは陛下と親戚だから大丈夫だと思うけど、城に勤めている管理番は面倒な立場になることに気が付いた。チョコごときでと、思わない事もないが、偉い人は自分だけないと拗ねる事ある。そうなると後が本当に面倒くさい。それは嫌なので、陛下と宰相にもチョコを用意することにした。気持ちは籠っていないが、そこは言わなければバレないし、私的には間違いなく義理チョコだ。一昔前に流行った、チョコの上に義理と漢字で書きたい気分だ。書いても読めないからバレないかもしれないが、材料も馬鹿にならないのでしないけど。
トリオと陛下たちに贈るものは後で考えるとして、離宮の侍女さん達と護衛騎士さんたちに渡すチョコの事を検討する。何せ人数がいる。チョコを買ってくるわけにもいかないので、材料としてあるものを加工する必要もある。そうなると数も馬鹿に出来ない。私としては申し訳ないが手間暇もかかる。そこは少し省きたい気持ちもなくはない。
しばらく悩んだ結果、トリオと陛下たちにはチョコクッキーを、離宮の侍女さんと護衛騎士さんたちはホットチョコレートを作ることにした。お汁粉と同じでカップで飲むこともできるし、作るのも片付けるのも簡単だ。トリオと陛下たちが同じチョコクッキーでよいかは悩んだが、そこは日ごろの感謝の気持ちで渡すトリオたちより、義理で渡す陛下たちの方が豪華なのは私が納得出来なかったし、お菓子のレパートリー少ないので同じにすることにした。
バレンタインデー当日はお願いして隊長さんは休みにしてもらう。これには理由がある。私は以前より行動範囲が広がっている。頼めば城下に出ることはできると思うが、護衛の事やみんなの手間を考えるとチョコを渡すために出かけることはためらわれた。加えて管理番や陛下の仕事場に出向くことはできない。そこで隊長さんの出番だ。お願いしてチョコクッキーををみんなに届けてもらうつもりなのだ。隊長さんなら、どこにでも行くことが出来る。陛下の執務室もノープロブレムだ。咎められる事もない。良いアイデアだと思う。
「姫様。お呼びですか?」
休みの日に来てもらったにも関わらず、隊長さんに不機嫌な様子はない。気楽な様子でダイニングに顔を出してくれた。私は隊長さんに感謝とお詫びを口にする。いつも感謝を口にすることは大事にしたい。
「お休みなのにごめんね。来てくれてありがとう」
「いいえ。休みに離宮に来るといい思いをすることが多いので。気になりませんよ」
隊長さんは私が気にすることのないように軽口をたたいてくれた。私はそれに苦笑しか返すことが出来ないが、良い思いをする、という事を現実にできると願いたい。そうなる事を祈りながらテーブルの上にある、ラッピングされた紙袋を指し示す。隊長さんは不思議そうにその袋を眺めた。
「この袋は?」
「隊長さんにお願いがあるの」
私のお願い発言に、隊長さんはさらに不思議そうな顔をしていたが、そのまま話を聞く姿勢を見せてくれる。
「私、いつもみんなにお世話になっているでしょう?だからね、いつもありがとう、ってお礼を言いたくて。少しだけどお礼にクッキーを作ったの」
「みんなとは?」
「隊長さん、管理番と商人。あと、陛下と宰相閣下」
「なるほど」
テーブルの上の紙袋に納得してもらえたようだ。そして私のお願いも理解されたようだ。休みを依頼した事と話が繋がったのだろう。
「私はこれを届ければいいわけですね?」
「うん。お願いできる?」
「もちろんです。陛下や管理番は構いませんが。商人にもあるのですか?」
隊長さんは商人にもあるのか、とつまらなさそうな顔になるが私は知っている。これはフェイクだ。
「そんな不機嫌そうに言ってもダメよ。商人にもお世話になっているもの。一人だけないなんてできないわ。それに隊長さんも本気ではないでしょう?」
私の言葉に頷きはしなかったが否定もしなかった。隊長さんはそのままテーブルの方に行くと渡すものの確認を始める。だが印が無いので誰に何を渡せばいいのかわからないようだ。
「姫様これは?誰に渡すか印が無いようですが?」
「そうよ。渡される人がどれがいいのか決めてもらうのよ」
「どういうことですか?」
隊長さんは意味が分からず聞き返してくる。プレゼントは渡す相手が決まっているものなのに、相手が決めるとは意味が分からないだろう。仕方のない事だと思う。そこは理解しているので意味を説明していく。
「この袋の中身はクッキーなの。でもね、味は同じだけど形が違うの。二つだけ丸いクッキーで。残りは四角。丸いクッキーを選んだ人は当たりという事よ。良い事があるかも」
「なるほど。面白いですね。自分で選ぶから人に文句も言えませんしね」
隊長さんは楽しそうだ。いたずらをするような気分かもしれない。隊長さんはもう一つの事に気が付いた。紙袋は6個あるのだ。数が合わない。
「袋が多いようですが?」
「そうよ。最後の人は選べないでしょう?それは楽しくないもの。だから一つ多いの。最後の一つは隊長さんに上げるわ。隊長さんは一番初めに選んで、最後の一つは忙しい思いをお願いするからお詫びよ」
「私だけ二つもいただいて良いのですか?」
「私の代わりにあちこち行ってもらうもの。お詫びも兼ねてるから」
「では、ありがたくいただきますね」
隊長さんは今からあちこち行くのに、面倒な様子も見せずに楽しそうに言ってくれた。私は改めて隊長さんにお使いと、くじの話を伝言する。日ごろのお礼はメッセージカードをつけている。ちなみに文言は全員同じ内容にした。違うものを書いて間違えたものを渡したら事故になってしまうからだ。そのことも併せて説明しておく。
「隊長さん。お願いね」
「お任せください」
その言葉とともに隊長さんはメッセンジャーになってくれた。ちなみに、一番初めに選んだ隊長さんは当たりのクッキーではなかった。その後、残念そうにしながら滞りなく全員に届けてくれたようだ。
私は皆からお礼の言葉が返ってきた。一つだけ予想外の事があった。当たりを引いた人から当たりの報告を受けると思っていたのだが、誰からもその報告がなかった。誰か聞きたかったのだが、言い出さないものを聞き出しにくく答えは謎のままだ。
誰があたりを引いたのか、気になる・・・
答えは闇の中。
追記
侍女さんと護衛騎士さんたちに振舞ったホットチョコレートは好評だった。
前回の教訓を生かし、今回は全員に行きわたる様に告知をしておいたのだ。
教訓は大事だと思う。
管理番の独り言
「姫様。ご厚意は嬉しいのですが、絶対、絶対、誰にも言えない。私のクッキーが丸い形をしていたなんて。内緒にして少しずつ食べよう」
管理番に良い事がありますように。
ハッピーバレンタイン
皆様に良いことがありますように