魚料理(泣)
私なら少しずつ沢山の種類を食べたいと思うけど、その方が味が変わって楽しいと思うんだけど、違うのかな?
疑問をそのまま口にしてみる。
「少しづつ沢山の種類を食べる方が楽しくない?」
「そうですか?自分の好きな物を沢山食べたいと思いますけど」
とは商人だった。やはり考え方の違いらしい。そこは仕方のないことなので追求するのはやめておこう。
「じゃ、今度は味わって食べて感想を聞かせてね。忘れないでよ?」
料理に手を伸ばす面々に私は念を押す。忘れ去られているようだが今日は試食なのだ。ただ美味しいで終わってもらっては困る。そこは忘れないでいただきたい。
「「もちろんです。ご安心ください」」
商人、隊長さんから気合いの入った発言があるが。
本当かな?つい疑いの眼差しが出てしまうのは仕方がないと、理解してもらいたい。それでも気持ち良く食べて欲しいので、余計な事は言わない事にする。
三人が、それぞれに食べていない料理を口にするのを確認する。それを確認してから、私も自分の分を食べ始めることにした。
先ずはチーズオムレツからだ。卵やチーズは火が入りすぎたり、時間が経つと固くなることがあるので、そこには気を使っている。
トロトロとした食感が大事だと思っているので、気を使って作ったつもりだ。作り立てではないので少し冷えてしまっている。こうなると中も余熱で火が通ってしまっただろうか?そうなると固くなって美味しさが半減してしまう。
いや、冷えた状態を確認できて良かったとプラスに捉えるべきかもしれない。
私はプラス思考に切り替えると、チーズオムレツをわざと真ん中から割る。
中からチーズは出てこなかった。やはり少し冷えた事によって固まったらしい。そこは残念だ。火が入りすぎてもダメ。入りなさすぎもダメ。なかなか難しい。
私は所詮素人だ。プロみたいにはできないことも多い。もう少し技術が欲しい、と思いながらオムレツを口に入れる。バターの匂いがほのかに香り、卵の味が後からほのかに広がってくる。中の固さは別にして味付けそのものは満足だ。
次は豚骨の味噌煮だ。私はこの味噌煮が大好きなので気分が舞い上がってしまう。自分で作ったものとはいえ、好きな物が食べれるのは嬉しいものだ。メインは豚骨だが一緒に煮てある野菜も美味しいのだ。
商人は順調に野菜類も見つけてくれている。どこで見つけたとかは教えてもらえているが、手に入れるときに困った事があった、とかは教えてもらえない。
いつも交渉が上手く行くはずはないのに、その辺の事は教えてもらえず。私にはただ、見つかりましたよ、と結果だけを渡してもらっている。
もちろん、大変だったことを聞いても私には何もできないが。
商人が頑張って見つけてくれた野菜、その中でも特に人参を有り難く思いながら口に入れる。野生味があるのか甘味が強く嬉しくなる。甘味が強い人参は私の好みだからだ。他にも大根や玉ねぎ等も入っている。本当なら厚揚げも入っていると美味しいのだが、豆腐は自作をしなければならないので、今回はそこまでの手は回らなかった。残念ながら諦めたのだ。それでも久しぶりに豚骨の味噌煮込みを食べられて満足感があった。
最後は魚の醤油煮だ。正直に言うと私は魚料理が得意ではない。魚の処理が上手くないのだ。魚を捌くときにどうしても触れる回数が多くなり。魚をダメにしてしまう事が多いのだ。後は水を使いすぎることだろう。血を流すことは臭みの対応として大事なことだが流しすぎても旨味がなくなるので良くないのだ。私はその使い分けが上手ではない。結果、魚料理を作る回数はどうしても少なくなってしまうのだ。
そんな経緯から不安が残る醤油煮を口に運んだ。今回は切り身を厨房からもらっているので、全体の処理は気にしなくても良いのが利点だが、切り身のふっくら感がイマイチだ。身が堅すぎる印象がある。切り分けたときに切り分けにくい気がした。ナイフとフォークなのでそこまで感じないが、元日本人の私としては満足はできなかった。
残念な思いが胸に広がる。そしてそれを皆に試食させてしまった罪悪感が募った。
味見をしたときはそこまで気にならなかったが、時間がたって固くなったのかもしれない。
人に提供していながら本人がため息をつくなんてありえない。出そうになったそれを私は飲み込んだ。
魚料理の難しさを改めて感じていた。
私が満足そうな表情ではないので商人が納得できないのか、不思議なのかそのままの口から零れでる。
「姫様、どうかなさいましたか?」
「うん。商人、皆も魚料理の不満な事はない?」
「特には。ありませんが」
三人組から改善点は聞けなかった。元々の料理を知らないから満足できるのか、それとも料理を知らないから改善点が示せないのか。その違いが私にはわからなかった。しかし、料理の質を上げるなら試食は別な方法を考える必要があるかもしれない。
美味しいと言ってもらえることに満足を感じながら、自分では満足できない複雑さを感じながら私は試食会を終えていた。