欠食児童再び
いつもコメントありがとうございます。
お返事できなくて申し訳ないのですが、とても嬉しいです。
これからもよろしくお願いいたします。
「姫様。これ、美味しいですね」
モグモグしながら話すのは商人。因みに食べているのは魚の醤油煮だ。一番年上だから魚なのだろうか?
「姫様の料理に外れはないからな」
とは隊長さん。狙っていた豚骨の味噌煮込みを食べている。嬉しそうにしているのは間違いないだろう。
「そうですね。姫様の料理はいつでも美味しいですから」
とは管理番。チーズオムレツを食べている。中のチーズがちょっと熱かったようだが、そこは気にならないらしい。
「…」
無言なのは私一人だ。トリオは仲良く食べている。問題なのは自分が狙った皿を離さないことだろうか。それぞれ、気に入った料理の大皿を抱えていた。副菜に関しては食べたことがあるせいだろう、譲り合っている。
いや、いいことだけど、いいことなんだけど、抱えてると他の人が食べれないし、感想が聞けないんだけど。それに美味しいしか言ってないじゃん。他の感想はないわけ?言葉づかいが悪くなるのは許してほしい。私だって前回の失敗を忘れたわけではないのだ。
私は前回の教訓も踏まえて、取り分けしやすいように、大皿の中で3人分に分けていたはずなのに。おかしい。その事を言わなかったから?いや、わかるよね?皿の中で3つに分けてあるんだから?一人づつ、名前を付けないといけなかったのだろうか?疑問だ。
因みに今回は私の分は別皿にしてある。うっかりすると私の分が無くなる可能性は忘れていない。
「どうなさいました?姫様」
管理番が皿を置いて(私の方を向くからか皿を置いていた)私を心配そうに見る。私の変化にいち早く気がつくのはいつも管理番だ。
私はそれを有り難く思いながら皆に聞いていた。
「ねえ、私としては全種類食べて欲しいんだけど」
三人組はピタリと動きを止める。トリオは自分達が私の希望に沿わないことはわかっているらしい。
「姫様の料理はいつでも美味しいので問題ないかと」
と商人。手は皿を握っている。
「そうですよ。この味噌煮込み。味噌がまろやかで美味しいですよ」
と隊長さん。さり気なく皿を私から遠ざけている。
美味しい以外の感想は初めてだ。
「チーズも卵もトロケて美味しいです。誰が食べても同じ事を言うかと思います」
と管理番。
チーズオムレツを一つに纏めるかで悩んでいるらしい、フォークが彷徨っている。良心が勝ったのか、一つにはしなかった。
美味しい以外の感想が聞けて少しホッとしたのは私だけだろう。
しかし、ため息が出る。
私のため息にトリオはピクリと反応した。私の怒りを買うのは不味いと理解はしているらしい。私の反応を伺っていた。
どうしようか?
私としては全種類を食べてもらって、それぞれの感想を聞きたい。味の好みも違うし年齢も違う。それで判断できることもあるからだ。しかし、料理をしない人からするとその事はわからない、とも思う。もう一度ため息が出た。
管理番の眉が下がる。同時に幻の耳と尻尾も垂れ下がった。
違う方向性から関わろう。
「そんなに食べてお腹いっぱいにならないの?」
「「大丈夫です。朝食を少なめにしてきました」」
商人と隊長さんは同じ意見。管理番も少し恥ずかしそうにしているので、同じ事をしているらしい。
「他の料理は気にならないの?」
「「気になりますが、自分の分が減るのは嫌です」」
「…」
自分の分ってなに?それは全員分ですが?
何とも呆れた内容を堂々と言ってのける。
私は半眼になりながら自分の甘さを反省しつつ、三人に宣言する。
「じゃあ、残してある分で味見できるから、そっちを食べてちゃんと感想を聞かせてよ?お腹いっぱいで食べれないなんて言わせないからね」
少し頬を膨らませつつ三人に最後通牒を突きつけた。
私は多めに作ってあった分を、ワンプレートにして、みんなに出すことにした。
それぞれ食べていない料理を盛り付ける事にする。
私のこんな所が甘いんだろうな。
自分の性分を反省しつつ、みんなに取りに来るように声をかけた。
それぞれに自分が食べる分の皿を持っている。心なしか満足げな表情に見えるのは気のせいではないはずだ。
隊長さんはニコニコとしながら私に感謝の言葉を宣った。
「姫様、ありがとうございます。本当は魚料理もタマゴ料理も気になっていたんですよ。食べられて嬉しいです」
「気になってたんだったら、ちゃんと分け合ったら良かったのに、そしたら全種類食べられたでしょう?なんでそうしないの?」
「他の料理も気になりますが、先ずは自分の好きな物を心置きなく食べたいじゃないですか?」
「そうなのね」
この自分の好きな物だけを沢山食べたいというのは、男の人の考え方なのだろうか。私には理解できない考え方だった。