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立場の確認

今年もよろしくお願いいたします。

私と隊長さんは向かい合ってテーブルに着く。

テーブルは窓際というほど窓の近くではないが、窓が大きいので日が差し込み全体的に明るく暖かい。私の気持ちは暖かいとは程遠く暗く沈んでいた。

今から何を言われるのか不安でたまらなかったのだ。

私の固い表情を見た隊長さんは、安心させてくれるつもりなのか柔らかく微笑んでくれた。


「姫様、今の自分の立場をご存知ですか?」

「ええ、わかっているわ。交換留学生(人質)で預かっている友好国の姫(自分で言うのは恥ずかしい)。でしょう?」

「ええ、合っていますよ。では、それに追加された立場を理解されていますか?」

「追加された立場?」

「ええ」

隊長さんの表情は穏やかだ。理解していない子供に言い諭す大人の立場を取っている。いいかえれば生徒に諭す教師のような感じといえばわかりやすいだろうか。


「他にもあるの?」

「ええ。ありますよ」

隊長さんの言葉に首を傾げる。身に覚えがないのだ。本気でわからない。

「ごめんなさい。わからないわ」

「ええ、姫様は自分の事を過小評価されていることが多いので、理解されていないと思っていましたが。先程の危機感のなさで、本当に理解されていないと実感しました。今後のためにも覚えておいてください」


ふざけた感じのない隊長さんの言葉が怖い。

普段の隊長さんは無表情か、私達の前ではからかう様な笑顔が多いのに、今日は本気の真面目顔だ。私は自分の立場の認識を改めないといけないのかもしれない。


息を潜めながら隊長さんの発言を待つ。


「姫様は確かに留学生で友好国の姫です。そこに追加されたのが2つあります」

「2つ?」

「ええ、一つは陛下のお気に入り。これは、この離宮をもらった事で確定です。何となく理解されていると思います。もう一つは、殿下の婚約者候補筆頭、ということです」

「嘘でしょ?」

私は隊長さんの言葉に間髪を入れずに返していた。


有り得ない事だ。

陛下のお気に入りはまぁ、わかる。ご飯を作ったり、あの横領事件で色々あったから、話す機会も多かったし、この離宮ももらっちゃったし、わからなくもない。でも、殿下の婚約者候補はなしにしてもらいたい。ありえない。感情が納得できなかった。


「ない。ないわ。嫌よ」

相手が隊長さんのせいか、私は言葉に遠慮がなかった、力を入れて否定する。

隊長さんは私の言葉を否定もせず、嫌な理由を聞いてくる。


「嫌な理由はたくさんあるけど。まず、私には務まらないわ。私は小国の姫でしかないのよ。この国の妃が務まるはずはないでしょう?」

「それだけですか?」

「それだけって?一番大きな理由じゃない?」 

「小国でも姫は姫ですよ?他の貴族の令嬢達とは立場が違います」

「隊長さん。誤魔化さないで、私はなんの教育も受けていない、ただの子供よ。その子供に大陸の大半を手中にしている、この国の妃なんて務まらないわ。第一この国の貴族達が黙ってるはずがないでしょう?それに、陛下は今まで周辺諸国の安定を第一にされてきた。落ち着いた今は、国内に注力されるはずよ。その陛下にとって、小国の姫なんて、国内の安定にはなんの寄与もしないのよ。私を殿下の妃にするメリットはないわ。この間の話も冗談にしか過ぎないはず。それに私もそんな務まらない立場に座るのは嫌よ。隊長さんの勘違いよ」

いろいろな思いが入り混じり、感情にまかせて叫ぶように否定していた。

隊長さんはそんな私を諌めもせず、慌てもせず見つめていた。何も言われず、叫んでしまった私は恥ずかしくなって頬が熱くなり、恥ずかしさにうつむいてしまう。


「ごめんなさい。感情的になってしまった」

「いいえ、初めて見たので。子供らしくて良いと思いますよ」

「からかわないで」

「いいえ、真面目な話ですよ」

「どうせ、子供だし」

すねた私は呟いていた。それよりも話を戻そう。

「とにかく、陛下の方のは何となく理解できるわ。でも、殿下の方は理解できない」

「まぁ、これは理解できなくても、どうにもなりませんね。陛下の考えなので。本当なら姫様の誕生日に合わせて国元に祝いの使者を立てる予定でした。その時に打診をするつもりだったようです。宰相閣下の反対で中止になったそうですが」

「良かったわ。でも、この話はなんとかならないかな?」


私は宰相に足を向けて眠れないくらい感謝した。しかし回避方法を考えないといけない。その時ハタッと気がついた。

「ねぇ、まだ決定事項ではないのよね?」

「ええ。まだ、候補です」

「わかったわ。では、私にこの国の妃は務まらない。と陛下にわかってもらえればいいのよね?」

私の言葉を聞いた隊長さんは、なんとも言えない表情で、口元だけが上がっていた。

残念な子を見る表情のような気がするけど、私は気にしない。


今後の目標を定め、握りこぶしを作って宣言する。


「私の10歳の目標よ。陛下に、私は妃は向いてないと理解してもらえるように頑張るわ」

「それを宣言している時点で無駄な気がしますが」


隊長さんの呆れたような言葉は聞こえない。

今年の目標を決めた私は決意に燃えていた。


でも、離宮をもらってお気に入り認定なら、この離宮、返品できないかな?

失礼なのは承知してるけど、面倒ごとはゴメンだわ。スローライフに影響が出てしまう。




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人質生活から始めるスローライフ2
― 新着の感想 ―
[一言] 「私の10歳の目標よ。陛下に、私は妃は向いてないと理解してもらえるように頑張るわ」 「それを宣言している時点で無駄な気がしますが」 そんな策略を巡らせる事が出来る時点でw まさにまさに、と肯…
[良い点] 姫様には申し訳ありませんが、こういう自覚のない優れたキャラが知らぬ間にVIPになってしまった自分の立場に愕然とする…という状況は、読んでいて大変楽しいです。 それも人間離れしたチートではな…
[一言] 不味くはないけど美味しくない料理だけをだし続けようぜ! (小説情報に恋愛要素ないし結婚なんて無いとメタ読みしてみる!)
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