贈り物 3
コメント、ありがとうございます。
返信できずに申し訳ありませんが、いつも嬉しく読ませていただいています。
これからも、よろしくお願いいたします。
私は今、陛下と離宮の中を歩いている。
主な部屋を案内してもらっている形だ。
案内されながら確認すると、やはりこの離宮はもともとあった建物を手直ししてくれたようだ。
離宮をプレゼントしようと思いついたのが半年前。あの横領事件の時だったそうだ。
さすがに建設は間に合わないということで、比較的新しい方の離宮に手を入れてくれたのだそうだ。
なんで離宮をプレゼントしようと思いつくかな?
そこからして発想が違うな、と気が遠くなりそうだ。
そして、どうして私は陛下にこの中を案内してもらっているのだろう?
いや、陛下からプレゼントとして貰った離宮だから、案内してもらうのは順当なのか?
でも、普通なら侍従官とかに案内してもらうものじゃないかな?この場には宰相もいるし。宰相閣下でも良くない?
自分のキャパシティが一杯なので、でも、とかいや、とか否定的な単語が私の中をウロウロしている。
否定的な考え方は良くないな。
気持ちは反省をしているが、身体は離宮の中ゾロゾロと大勢をひきつれて歩いている。
私に護衛の隊長さんがいるように、当然陛下にも大勢の護衛や侍従を引き連れている。
なかなかの大名行列ができていて庶民の私からするといたたまれない。
私の案内のためにごめんなさい。
神妙な気持ちになってしまう。
「さあ、姫が一番気になっているのはここだろうな」
陛下が笑いながら一つのドアを開けさせた。
そこは離れの時以上に広く、快適になったダイニングキッチンだった。いや、広さから行くとリビングも兼ね備えている。実際、キッチンの反対側には寛げるようにソファーやセンターテーブルも置かれている。快適さを追求しているのかクッションなんかも置かれていた。
私の読書好きを知っているから、小さな本棚をも置かれている。
本棚には何も置かれていなかった。これから自分で好きな本を置くように、ということなのだろう。
それだけでも気分がウキウキとしてしまう。
LDK(リビング・ダイニング・キッチン?)だろう。相当に広い。
こんな広い部屋を使ったことのない私は広さを把握できなかった。
私が人生の中で使用したことのある部屋の広さは離れの部屋だ。
私にはあそこでも十分な広さで正直持て余していた。その部屋よりもさらに大きいのだ。
使いきれるのだろうか?心配になる。
「ん?気に入らないか?何か足りないものでもあったかな?用意させるぞ」
「いえ。凄すぎて。これ、使いきれないかも」
「そうか?姫が気にするといけないから小さめに作らせたのだが」
「これ、小さいですか?」
陛下の言葉に私は唖然とする。やはり、生まれながらのブルジョワは違うらしい。私には理解できない感覚だ。そして、驚きすぎたのか、言葉づかいが乱れている。
幸いなことに誰からも指摘はなかった。
この広い部屋、いただいたからには有効活用したい。
それにリビングも欲しかったのだ。そう思うと私の希望に沿った部屋のはずだ。こうなると私の一日はこの部屋で過ごす事になるだろう。護衛騎士さん達も部屋にいてもらう事を考えるとこの広さは必要になるのかもしれない。
広さを誤魔化すために理由をいろいろとつけていた。
部屋の中を移動して(移動するほどの広さだ)キッチンの方を見せてもらう。
想像していたがそれ以上にキッチンも広かった。
部屋が広いせいか作業台は横にも縦にも広くなっていた。小さい私のために横に長い踏み台が今までと同じように置いてあるが、2つに別れていた。コンロの前、流しの前といった感じだ。長いから作業台の前もカバーできている。
コンロも当然だが大きくなっている。一つ一つの間隔が大きめで横に鍋やフライパンが置きやすくなっていた。
火から下ろした後の鍋なんかの一時置き場所にできるから、作業がしやすくなる。
そこは安心材料だ。
保冷庫も大きくなっていた。今まで以上に保存がしやすくなるし、料理の幅も広がるだろう。
私はキッチンの大きさと設備の充実加減にニヤニヤしそうになり頬を引き締めていた。表情を取り繕うのに精一杯だ。
ふと隊長さんを見ると笑いを堪えているのか、口元がヒクヒクしていた。私がニヤニヤしたいのを堪えているのがわかるのだろう。
その辺の変化がわかるのは関係性が変わって来ている良い証拠だと思うけど、ここで笑われるのは気分が良くないと思うのは間違いないと思う。
横目で隊長さんをキッと睨んでみる。しかし隊長さんには通用しなかった。どこ吹く風で知らん顔だ。顔の皮が厚い。その皮の厚さを私にも分けてほしい。
分けて貰っても活用できる自信はないが。
私と隊長さんの密かな攻防を知らない陛下は、ある意味当たり前の事を聞いてくれた。
「どうかな?姫。足りないものはあるかな?」
「いいえ、陛下。何もありませんわ。前よりも充実していて素晴らしいです」
「そうか。それなら良かった。私としても安心だ。姫に喜んで貰えそうだな」
軽やかに笑う陛下は明るい表情を見せていた。
この方は大陸の支配者で怖い方だと思っていたが、本来の姿はこちらの明るい表情の方なのかもしれない。
そう思うほど、初めて会った時の印象と今の印象は別のものだった。
そう言えば、ご飯を食べているときも近所のおじさんにしか思えなかったから、普段は意識して怖い印象を作っているのかな。
私は全然怖くなくなった陛下を見上げていた。
そして、この後に来る言葉を予想していた。
陛下は絶対にこう言うはずだ。
『それで、何を作ってくれる?』