平穏?
予定外の事があったので、昼食が遅くなってしまったがそこは気にしない。
夕食の時間を調整するか、昼食の量を調整すれば良いことだ。調整の利きやすいところが自炊の良いところだ。
いくら成長期といっても気をつけないと後が大変なことになる。失敗経験を持つ私としては今から注意しておきたい案件である。
「やっぱりここは、具だくさんうどんかな?」
この世界は麺類は豊富にある。その中にはうどん、パスタ、ショートパスタ、そうめんなどもあった。麺類大好きの私としてはありがたい事だ。
メニューを決めると野菜を切り始める。大根は見つかっていないので、代わりにほうれん草や玉ねぎを多めに入れ、豚肉を使うことにした。
保冷庫に入れている出汁のストックを出す。昆布は水に入れ常時置いてある。それを使えば何時でも昆布出汁が使えるのが利点だ。出汁の量に問題が無いことを確認すると、まずは豚肉を炒める。その横でうどん用にお湯を沸かす。豚肉を半生ぐらいに炒めておきその中に玉ねぎを入れた。人にもよるが私は玉ねぎはしっかりと火が入りしんなりした物が好きなので、炒め上がりがなるべく同じになるように調整するため半生ぐらいで玉ねぎを入れる事にしている。
後はしっかりと炒めれば終わりなのだが、今回はうどんに入れるので多少火の入りが甘くても煮込めばOK、そこまで神経質にならなくても大丈夫だ。
お湯が沸いたところでフライパンを火からおろし、今度は出汁を入れた鍋を火にかける。うどんはしっかり茹でなくても大丈夫な生麺の様な感じなので、出汁は早く沸くように強火にかけ、うどんをお湯に泳がせる。しっかりと麺が遊ぶように多めのお湯だ。
菜箸が無いのでトングで麺を混ぜながら様子を見る。その間に出汁が沸きそうになってきたので、出汁をとろ火に移動させ、うどんをザルに空ける。
私は鍋をひっくり返さないように注意する。
うどんは麺を洗う必要がないので楽ちんだ。
後は簡単である。うどんを器に移す前に切っていたほうれん草を出汁に投入。炒めたお肉たちをうどんの上に載せ、その上からほうれん草入りの出汁をかければ終わりだ。豚肉はしっかり火が入っていたので出汁は上からかけることにした。
「かんせー」
私は出来上がった、ちょー手抜き具だくさんうどんを前に声を上げた。
思わず拍手をしたくなる完成具合だ。
ニマニマしながら器をお盆に載せてテーブルへ移動しようとしたときに後ろの方から、切実な音が聞こえた。
私はその音に振り返る。
私の後ろにいるのは今日の護衛騎士さんだ。
振り返った私と目が合うと騎士さんは気持ち耳が赤いようだ。
私はなんと声をかけたものか悩む。
そうしているともう一度切実な音が聞こえた。
「「・・・」」
二人して無言になり、騎士さんは少し目を逸らす、恥ずかしさが先にきたようだ。
ここは私がなんとかするしかないだろう。
「騎士さん、お願いがあるんだけど、話を聞いてくれる?」
「私でよろしければ」
話が変わって安心したのだろう、普通に返事を返してくれた。
本来なら、この口調は問題になるのだが、今の騎士さんは恥ずかしさで一杯なので、そこまでは気が回らないだろう。
ここは気さくさを出す方が重要だと判断した。
その返事を聞いた私はお願いを口にする。
「申し訳ないけど、一人で食事をするのは淋しいからお茶を付き合ってもらえないかしら?」
「それは、私は護衛なので、ご一緒するわけにはまいりません」
「わかったわ。では、これは命令よ。私に付き合ってちょうだい。そこに座って」
「しかし」
「命令と言わなかった?聞こえないの?」
私はそれだけを言うと騎士さんに座るように命じ、冷たいお茶(すぐに出せるお茶はそれしかなかった)とお菓子を用意する。
それを私の正面に用意する。
座ってくれない騎士さんに向かってもう一度、冷たく聞こえるように注意しながら命じた。
「早くして、麺が伸びちゃうわ」
「はい、失礼します」
私の言い方に驚いたのか、騎士さんは慌てて私の前に座った。
「お茶をどうぞ。私は、いただきます」
そうして私はうどんを口にする。
騎士さんはどう振る舞っていいのか解らない様子だがそこは気にしない。
いきなり護衛対象にお茶に付き合えと言われたのだ、どうしていいのか解らないのは当たり前だ。
騎士さんを気にせず私はうどんを食べる。この世界でも音をたてて食べるのはNGだ。そのため音がでないように注意する。
「うん。なかなかの出来だわ」
私は出来上がりに満足し笑顔が出る。
騎士さんの存在を忘れていたわけではないが、疎かになっていたのは間違いない。
もう一度、切実な音がした。音の発信源は騎士さんのお腹からだ。そこは気がつかない様子を保ちつつ、もう一度促した。
「私の食事に付き合ってもらうためにお茶を出したのよ。これは命令だから、あなたに逆らう権利はないわ。わかった?わかったらお菓子の味の感想を聞かせてちょうだい?久しぶりに作ったから味が気になってるの」
「はい、はい、いただきます」
騎士さんはクッキーを手に取り口に運ぶ。サクッと音がした。焼き上がりはまずまずのようだ。
男性の口は大きいのでクッキーは二口だった。モグモグと口が動いていたかと思うと、お茶を一口。
「美味い」
思わずというように唇から音が漏れていた。私はその言葉に満足する。思わず出た言葉こそが本音だ。
これ以上感想を求める必要はないだろう。
後は食事を楽しむだけだ。
一人で食べるより誰かと食べる方が食事は楽しいものだ。
私は最後まで食事を楽しみ満足した。