最後の最後
いつもコメント、ありがとうございます。
私生活が忙しくコメントを返せていないのですが、嬉しく読ませて頂いています。
これからも、よろしくお願いいたします
「今日はありがとう、姫。楽しい時間を過ごす事が出来てよかったよ」
「ありがとうございます、陛下。私もそう言っていただけると、頑張ったかいがあるというものです。喜んで頂けたのなら嬉しい限りです」
「姫が今後も料理を続けていくことは、私から筆頭に伝えておくので安心してほしい」
「ありがとうございます。私にとって何よりです」
陛下が帰られるので玄関に立ち、お見送りをする。
もちろん、筆頭さんを始めとする侍女さんや騎士さんたちも総出でお見送りだ。
離れの小さな玄関ホールは人で溢れかえっている。
料理の許可の話は、当然筆頭さんの耳にも入っているだろう。横目で見たが筆頭さん自身はなんの反応も見せなかった。さすがのポーカーフェイスだ。表情が顔に出まくりの私には出来ない芸当だ。
ぜひ見習いたい。
筆頭さんに改めて陛下から話はあるのだろうが、今は前フリと言った感じで、私に言うように見せながら、筆頭さんの耳に入れたのだろう。
私は両手を前に揃えてはいたが、心の中では握りこぶしを大きく天に突き上げている。
口元は上品に微笑みの形を作ってはいたが、胸の内は『よくやった、私。ミッションコンプリート』
叫びながらクルクル踊り出したいほどだ。
陛下と宰相の前では、おしとやかな態度を保ちつつ、猫を被っている自分を褒めたい。着ぐるみを着ていると言っても良いほど猫を被っているが、それくらい私の中ではやりきった感が満載だった。
隊長さんは私の後ろにいた。陛下の毒味役ではなく、私の護衛という立ち位置に戻ったことを示している。
陛下達は何も言わないので問題はないのだろう。
「ではな、姫」
陛下が締めくくりとばかりに話を切り上げると思ったが違ったようだ。
「はい。今日はお時間をいただき、ありがとうございました」
「なに。次も楽しみにしているよ」
「え?」
「そうそう、誕生日プレゼントを用意する話は覚えているかな?」
「はい。もちろんです。陛下がご用意してくださるとか?」
「ああ、もうすぐ出来上がるらしい。楽しみにしていてくれ」
出来上がるって何?
何か注文してくれてるのだろうか?
それよりも『次も』が気になって仕方がない。
確認しないと。何となく身の危険を感じる。
「ありがとうございます。楽しみにしています。あの、陛下。先ほどの」
私をものともせず陛下のマシンガントークが続く。
私の口を挟むスキがないけど、メチャクチャ確認したい。
『次も楽しみにしている』ってなに?
どういう事?何を楽しみにするの?なんとなくわかってるけど、わかりたくない。
「それとな、姫のデビューだが、今年の予定だ。そのつもりでな」
「こちらでは10歳がデビューと聞いています。私もその慣例に倣うということでしょうか?」
「そうだ。プレゼントはその用意も兼ねている」
「畏まりました。あの、陛下」
「その時は宰相を迎えによこすつもりだ」
「宰相をですか?」
まって、もう一回待って、少し立ち止まって欲しい。
迎えって、なに?
デビューについての迎え?
それとも、プレゼントを渡すための迎え?
どっちなの?
それに一番最初の『次も』の件も解決してないから。
「問題か?」
「いえ、陛下がよろしいのなら、ですので」
「かまわない」
「ありがとうございます。よろしくお願いいたします。で、陛下、先程の」
なんか、話を聞いてもらえなくて、私の言葉使いがだんだん悪くなる。
あれ?陛下、さっきの人の意見を聞く姿勢はどこに行ったの?
私の感銘を返して欲しい。
頑張れ、私。今聞けなかったら疑問は解決しない。
「陛下、先程の件なのですが」
「今日はいい日だった」
陛下?
一人で纏めるの止めてもらっていいですか?
陛下はそう言うと宰相と共に意気揚々と帰られた。
私の言葉は最後まで聞いてもらえずじまいだ。
私の背中には哀愁が張り付いているだろう。すき間風も吹き抜けている気がする。
今回に限っては宰相も、隊長さんの助けも入らなかった。
陛下と私が直接話しているのだ。二人が口を挟む事はできないのは当然だ。
忘れがちだが、そこには厳然とした身分差がある。
そこは仕方のない事で、諦められるけど。
疑問は解決してない。
残念だ。
最後は良い感じだったのに、陛下の謎の言葉でもやもや感満載で、私は突然いろいろなことを言われて少し放心状態だ。ここは隊長さんに聞くしかない。
「隊長さん、聞きたいことがあるわ」
隊長さんを振り返り力強く宣言する。
知らないふりをして逃げられては叶わない。
隊長さんがそんな事をするとは思えないけど。保険は必要だろう。
「ええ、そんな気がします。まずお部屋に戻りましょうか?そこでお答えしますよ」
「ありがとう。お願いね」
疑問はちゃんと解消しよう。





