宴?6 美味しいは危険な香り
コメント、ありがとうございます。
宴?の話が長めになってしまいましたが、もう少し続く予定です。
姫様の目標は達成されるのか?
お付き合いいただけたらと思います
よろしくお願いいたします
私の目の前で唐揚げが消えていく。
いや、もちろんピザも消えていくのだが。
消えていく。
これ以外に言葉が出てこない。他に何と言えばいいのだろうか?
唐揚げはいつから飲み物になったのだろう?
私の認識では、主菜の分類だと思っていたのだけど、違ったかな?
それに結構な量を作ってたんだけど、それをものともしてない。
誰かに問いただしたい気持ちになるが。ここにいるメンバーでは無意味な気がする。
目の前の料理とお酒を消費していく事に夢中になっているから。
「うまいな」
「美味しいですね」
とは、陛下と宰相の談。
短いセンテンスしか発しない。隊長さんは少し長い文章(?)を喋っていた。
「この前、商人に唐揚げの事を自慢されたのですが、自慢したくなる気持ちがわかりました。確かにこれは自慢したくなる美味しさですね」
聞いていた二人は頷いていた。
「なんだ?商人は食べた事があるのか?」
「そうみたいですよ?姫様から料理を教わっているので、そのときに食べたみたいです」
「そのお話では他の料理もあるんですよね?隊長も知っているのですか?」
「ええ、私も何度か食べさせてもらっているので」
隊長さんの話を聞いたとたん、陛下と宰相の手が止まる。どうやらもらい事故らしい。
どこか危ない香りが、唐揚げの匂いの中に混ざった気がする。これは気の所為ではない。
私の危機管理能力が訴えていた。
「そうですか、他にも食べた事があると?」
と、宰相
「お前は、知っていたのに黙っていたのだな?」
と、陛下。
あ、これは庇っちゃいけないやつだ。
ごめん、隊長さん。私に出来ることはないかも。
「まぁ、私は姫様の護衛ですから」
「普通の護衛は、一緒に食事はしませんが?」
宰相のコメントに、ダイニングに控える護衛騎士さんたちが、小さく頷いているのを目の端で捉えた。
同意見の人は他にもいたようだ。
声には出してないけど。
庇えないけど、さっきの事もあるし、話を逸らす努力だけはしてみよう。
うまく行かなかったらごめんね、と侘びつつ切り出す。
「皆様、おかわりはいかがですか? 割り水の他にも、紅茶割りも良いみたいですよ?」
『本で得た知識』という形になったので、疑問形で提案しておく。最初の話し方と違いがある事に、気が付かない事を祈っておこう。
「紅茶で割るのかな?」
「はい、後味にお茶の香りがして、口の中がリセットされるようです」
笑顔を振りまいておく。
私の話し方に変化があった事を、誰かに指摘されることはなかった。
本当に気づいてないかは不明だが、とりあえずは首の皮一枚は繋がっているようだ。
「では、その紅茶割りをもらおうか」
残りの二人も希望したので、三人分を作ることにする。
「どうぞ」
三人の前にそれぞれ紅茶割りを置く。
皆さん、それぞれにお酒は強いようなので、無難に6対4だ 世間で言う6:4である。
お酒に強い人なら、割り水がベースなので薄く感じる可能性もあるが、代わりに料理との相性の良さを感じられると思いたい。
「紅茶でも美味しいのですね。私は浅学で知りませんでした」
「姫の薦めてくれるものは美味しいな。しかし、あの始めの芋を揚げたものはもうないのか?私はあんまり食べられなかったから、もう少しあると嬉しいのだが?」
陛下は恨み言を含ませながら、隊長さんや宰相を見ている(恨みがましく見ているとも言えるか?)。
二人はお酒を飲んで視線をそっと逸らしていた。
それを見ていると、二人が後ろめたく感じている事は間違いないようだ。
まあ、初めからお代わりが必要な事は感じてたから、ここは黙って作っておくのが無難かな?
「かしこまりました。陛下、今から用意をしますので、少しお時間をいただけますでしょうか?」
「ああ、ゆっくりでかまわない。他に味わえるものを出してくれる予定があるのだろう?」
隊長さんに聞いたのかな?
燻製はまだ出していなかったが、話のついでででたのかも知れない。
「では、お待ちください。摘みの他に、別なものも最後の方で用意していますので、加減をお願いしますね」
「他にはなにが?」
「まだ誰にも出したことはありませんわ。ですので、楽しみにしていてください」
それに食いついたのは隊長さんだ。後ろめたいのは、もう忘れたのだろうか?
「商人や管理番もまだですか?」
「ええ、あの二人にも出していません。正真正銘初めてですわ」
なぜここにいない商人に対抗するかな?あれかな?いつも商人が食べてる自慢をするからかな?
ふざけた感じで『悔しい』というけど、本当に悔しかったとか?
今度は自分が食べた自慢をしたいとか?
私は首を捻りつつ、フライドポテトの準備をしながら、燻製ものを出す。
「先ほどお話ししたものですわ。こちらを摘んでいただきたいと思います」
「これは?チーズとクルミ?他は?何ですか?」
「チーズとクルミは間違いないです。隊長さんは食べたことがあるので、隊長さんから聞いてもらえばわかると思います」
「そうか。これはただのアーモンドやクルミではないのだな?」
隊長さんに話しかけているのだろう、陛下の声が背中から聞こえてきた。