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宴? 4 

「では、私はこちらを毒味しましょう。唐揚げ?でしたか。鳥肉なのですよね?私は鳥肉が好きなので」


そう言って宰相は唐揚げにフォークを伸ばす。

隊長さんはそれに『待った』をかけたいようだが、口も手もピザで塞がっているため何もできない。

しかも口の中が熱いので若干涙目になっていて、宰相が唐揚げを食べるのを、見送るしかなかった。


「んんっ」

宰相は口に入れると同時に熱さに驚いたようだ。私も余りの素早さに、熱いことを注意する事が間に合わなかった。

かなり熱いのだろう、こちらも若干涙目になっている。

小さな目がチワワの様にうるうるしていて、可愛いと思ったのは誰にも言えないだろう。


ごめんなさい。宰相。間に合わなかった。揚げたては熱い事を注意したかったのに。本当にごめん。

でも、熱そうだわ~。


熱さに耐えるとき、人は同じ行動を取るのだろうか?

隊長さんと宰相は、申し合わせたようにハフハフして熱さを逃していた。


それが面白くないのは陛下だろう。

つまらなさそうな、不機嫌な顔をしている。

身分上、最初に食べるわけにはいかないし、でも二人が熱い、と言いながら美味しそうに食べるのは羨ましいし。辛い立場だと思われる。


何と声をかけたものか決めかねるが、このままもよくないだろ。


「あのぅ、陛下?」

「何かな? 姫」

「いえ」


とりあえず声をかけてみたが、失敗だったようだ。

顔には笑顔が張り付いているが、機嫌が悪い。


自分だけ食べられないのは、楽しくないもんね。私だって機嫌が悪くなると思う。陛下は悪くない。 

同じ立場だったらと思うとゾッとする。

目の前で美味しそうに食べられて自分は食べられない。何の拷問だろうか?


こんな事はしたくはなかったが、諦めた私は二人に注意する事にした。

私の立場(調理者)ではアウトだが、陛下が気の毒すぎる。これだけ食べて何も起こらないのだ、毒が入ってないのは、ここにいる全員(護衛騎士を含む)が理解しているだろう。


「宰相、隊長さんも、もういいでしょう?」

「「どうでしょうか?」」

「いい加減にして、食べ物の怨みは怖いのよ?私が陛下の立場なら間違いなく怒ってるわよ?毒見役の意味を知ってるから何も言わないの。そこに付け込まないで。自分たちがやってる事、わかってるわよね?意地が悪いわよ」


私の言い分に隊長さんが不本意そうな様子で答える。

「だって、美味しいし。なくなるし」


なんだ?その言い訳は。子供か? うん? 子供なのか? 

ツッコミを入れたくなる。

何も言わないが宰相も似たような言い分なのだろう。

横で重々しく頷いていた。宰相?格好はつけてるけど、やってる事は聞き分けのない子供と同じだからね? わかってる?


しかし、このままではきりがない。食欲は人間の欲求の一つ(そう大げさな話ではない)だ。そう簡単に諦められるとは思えない。私は諦めのため息をつく。隊長さんは何かを察したのか、私を窺うように見た。

その隊長さんをジト目で見てる。


仕方ない。切り札を出そう。


「いいわよ? じゃあ、隊長さんは唐揚げはいらないのね? 宰相はピザはなくても良いですよね? 意地悪する人にはご飯は出しません。これは私の決めたルールです。どうします?」

「「すみませんでした」」


息があった返事が返ってくる。

それを聞いた私はニッコリ(擬音付き)と笑ってダメ押しをする。


「皆で仲良く(ここ大事)食べてくれますよね?」

「「はい。もちろんです」」


いい子のお返事があった。


「だ、そうです。陛下もどうぞ。せっかくなので、お酒も違うものを用意しています。それもお持ちしますね」

「すまないな。姫、ありがとう」

陛下は安心したような、嬉しいような、情けないような複雑さを感じさせる苦笑いだった。

9歳の子供にとりなされたのだ、気分も複雑になろうと言うもの。 


私はもう一度、キッチンの中へ戻る。


揚げ物、アツアツメニューには2種類のお酒を用意した。

一つは定番のエールだ。揚げ物には欠かせないだろう。

もう一つは蒸留酒の水割り、もしくはロックだ。

本来なら炭酸系の飲み物で口を洗い流すのが良いのだが、炭酸がない。

苦肉の策で、冷たい飲み物で温度の対比を作ることにしたのだ。

口を洗い流すのはエールの役目とした。

エールのほろ苦さで、口の中は一新されると思いたい。

当然だが、グラスも冷やしてある。持つグラスが冷えていると、美味しさも温度も保たれやすいので、外すことのできないない作業だ。


トレーにグラスとお酒を乗せて運んでいく。

3人とも冷えたグラスに目を奪われていた。

こちらではグラスを冷やす事はしない(管理番情報)ようなので、目新しいのだろう。


「姫様。これは?」

「一つは冷やしたエールになります。もう一つの方も冷やした蒸留酒です」

「いえ、それもですが。このコップは?白いようですが?」

宰相は温度差でコップが白くなっているグラスを、新しい商品と思ったのか、それとも単純に不思議だったのか、疑問を解消するために聞いてきた。


やはりこちらではグラスを冷やす事はしないようだ。

私は少し勝った(何に?)気分になり、頬が緩むのが止められなかった。


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人質生活から始めるスローライフ2
― 新着の感想 ―
[一言] 台所を制する者は家庭を制するのです。宰相は姫様に任せるべきですな?(宰は料理人の意ですし)
[良い点] 大変面白く拝読しております。 数時間で1話から読み切りました。 [気になる点] 文中に 「すいません」 とありますが、 「すみません」 が適切ではないかと思います。 どうぞご確認頂ければ幸…
[良い点] おあずけをくらっているのに、じっと我慢している陛下の忍耐力。 [気になる点] 隊長、子供か! 美味しいものの前では、理性より本能が勝つのだなぁ・・・。 [一言] 無性にから揚げが食べたくな…
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