裏切り者の存在証明 [仮説]
物資や兵士を乗せた輸送機は強い吹雪の中でも躊躇せずに北東戦線へと向かう。
そして北東戦線へと到着した頃、我々は冬季迷彩を施した軍服に身を纏っていた。
「イグナイト・イグナトフ戦闘員、及びセイジュ・フェリー戦闘員、ただいまより北東戦線に着任します」
いかにも胡散臭そうな笑みを浮かべた男が返事をする。
「悪いね、ゆっくりしていたところに出動命令を出しちゃって。私は北東戦線担当指揮官、ヴィリアム・ローデンクロウだ。以後お見知りおきを」
「それで要件は?」
「単刀直入だね。一旦これを見て欲しいんだ」
それはイスカ基地近くの観測所のデータだった。
「この記録、わかるだろ? 大型の軍艦が数隻この海域の近くに侵入しているんだ。おまけに今は北東戦線全体がちょうど模様替えを始めた時期でね。一応敵国にはバレないように慎重にタイミングは図ってたんだけど、このままだと魔術障壁の調整が完全に終わる前にあいつらがこの港にきちゃうんだ。意味はわかるだろ?」
「確かに緊急事態ですね。先程の件は情報漏洩の線もあり得ますので後ほど調査するとして、質量兵装はどのくらい用意できてますか?」
「まったくと言っていいほどない。申し訳ないがこちらも丁度全面的な補修を行なってしまってね」
「っ、そうですか、、、。これは本格的に情報漏洩を疑った方が良さそうですね。本部への連絡は?」
「先程完了してるよ」
「、、、まぁそんなもんか、、、。確かに窮地のようですが、なんとかして乗り切りましょう。取り敢えずまだ数時間の猶予はあります。その間にできるだけ多くの質量兵装を使えるようにしてください。湾岸の魔導型砲台は使えますよね?」
「もちろんだとも」
取り敢えずこの場はお開きとしたが、イグナイトはどうも顔色が優れない。
「どうしたのイグナイト?」
「……いたのかフェリー」
「悪いわね、後ろの方でこじんまりとしてて。それで私たちは?」
「ひとまずシンシャと情報共有がしたい」
「情報漏洩の件ね、私も行くわ」
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「おや、お二人さんもう来てたんだ!」
「こんなクソ寒いのに相変わらず元気ですね、このガ…おっと失礼、このお方は」
「そこで止めても無駄だポンコツ!で、何があったの??」
イグナイトがシンシャに近づいて耳打ちをした。
「ここじゃ話せない。少し持ち場を開けてくれ」
スキー場にありそうな掘立て小屋のストーブの前でイグナイトは情報漏洩の件についてシンシャに話した。
「確かに出来過ぎかもね。でも向こうが手にした新しい神権の可能性もあるよ」
「そこなんだ。普段この戦線に滞在しているシンシャからしてみればどっちの方が有力だ?」
シンシャは少し悩んで結論を出した。
「漏洩、かな。誰が怪しいかってまではピンとこないけど敵方の情報を盗む神権というのには凄い周りくださを感じるの。要するに他の神権に比べて複雑というか。もちろんもっと単純なロジックがあったり、実際そういう神権があるのかもだけど」
「そうか。俺たちはあのローデンクロウって言ってた指揮官が一番臭いと思ってる」
「んー、確かに側からみれば怪しいし、クロウなら調整日をいつにするかの決定権はあるけど、私はそれは無いと思う。胡散臭いやつだけど結構いいやつだし、それに何より家族がいるの」
「それだと根拠が弱くないか」
ここでようやく私は口を挟んだ。
「そう?決定打にはなり得ないけど結構重要なファクターではあると思うわよ」
シンシャとヴィークのあんな美しい関係を見せられたらこう言いたくもなる。
「そっか。確かに決定打がなければ今の話はただの空想だしな。一旦今の話はこの場での秘密ということで、大丈夫か?」
「もっちのろん!」
するとノックと共に一人の兵士が入ってきた。
「失礼します、シンシャ特務隊員、まもなく神権の効果が切れそうです。至急復帰をお願いします」
「長居し過ぎちゃったね、ごめんごめん。じゃ私はこれで失礼〜」
「なんか、ブレないやつだよな」
「その通り。でもそういうところ好きよ。イグナイトも含めて」
「いきなり褒めるなよ、びっくりするな」
「さてと、私たちも戻らないと。本命がもうじき到着よ」
その頃、イスカ基地近くの海域に、不穏な七隻の戦艦が集い始めていたのだった。




