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そのキセキを忘れない  作者: 如月一
北東戦線防衛戦
7/10

緊急出動命令


 特務隊は現在約10名ほどが在籍する。

 中でも個別に役割が与えられているメンバーがいる。

 セレニア・シンシャもその一人だ。


 クリシタリア公国最北端に位置するイスカ鉱山は国内有数のマジックメタルの産出地であり、なおかつそこは後ろを巨大な山脈、前方を氷海、さらには敵国オークランドを目と鼻の先に控えた場所でもある。


 ゆえにクリシタリア公国の保有する超巨大魔導障壁がなければ一瞬でオークランドに奪われたであろう。

 しかしそれだけではオークランドの猛攻を防ぐことはできない。

 よってイスカ鉱山を防衛するための戦線を軍隊関係者は『北東戦線』とよび、そこの防衛を任される特務隊がセレニア・シンシャなのである。


 私やイグナイトなどの特に決まった役割を持たず、状況に応じて各戦線の救援に回る特務隊は体のメンテナンスをしつつ、ゆったりと過ごす。



 シンシャが北東戦線に戻って数日が経った頃、私はトレーニングの休憩がてら外の公園でイスカ基地の方を眺めながら昼食をとっていた。


「シンシャ、元気してるかしら」


 どうやらそんな独り言を赤髪に聞かれてしまったようだ。


「なんだ、いっつも冷たい態度をとるわりに心配してんじゃないか」

「来てたのね、イグナイト」


 私のベンチの隣の雪を払ってそこに座るイグナイト。


「しかし暇なのもいいな。暫く忙しかったから体に染みる」

「私は勘弁して欲しいけどね。全くもって歩合制が憎いわ」

「なんだ、シンシャより給料が低いのが不満なのか」

「あったりまえよ」


 まぁ実際はそんなに気にしていないのだが、なんとなくプライドが許さないというか。

 ……追求されるとボロが出そうなので話題を変えておこう。


「そういえば首都のレストランでジールさんにどうしてつっかかったのさ」


 イグナイトは少し困った顔をしながら薄暗い空を見上げる。


「俺の知り合いにさ、十年前までアーリエ島に姉弟で住んでたやつがいるんだ。なんだけど知っての通りオークランドに攻めこまれて姉と別れ離れになっちまって」


 イグナイトは具体的にその話が誰のことかは悟らせないように、必死に言葉を濁らせながら説明しようとしてくれる。


「そんでもしアーリエ島を取り戻して、すぐにでも和平を結んじまったら弟は一人で思い出の場所に帰ることになる。それがどうしても酷に思えてな」


 言われてみればイグナイトはこういうやつだ。

 人のことを心から気にかけようとする。

 そのくせ自分が変にでしゃばっちゃいけないと思って肝心なところには踏み込めない。

 だから遠回しにその人のことを応援しようと動く。


 特務隊ではジールさんも結構他人思いで人ができているが、イグナイトはジールさんとは違って人との距離感をすごく気にするから、意外と当人には優しさが伝わらないのがもどかしい。


 でもそんなイグナイトの姿勢を私は尊敬している。

 

「要するにそいつみたいな奴が他にもいっぱいいて、悲しい思いをするんじゃないかって。確かに早く和平を結んで戦争は終わらせたいが、やっぱりちゃんとした落とし所は探して欲しいと思ったんだ」

「やっぱりイグナイトはお人好しさんね」

「うるさい。そういう生き方の方が俺にとっては幸せなんだ」


 でもイグナイトとかシンシャを見てると時々自分が不安になる。

 彼、彼女にはちゃんと自分の生き方の軸が定まっていて、自分の信念に従って闘っている。

 私にはその軸となる部分や信念が欠けてるように思えてしまうのだ。


「俺の話はもういい。それよりお前まだ兄さんに会ってないだろ。早く会いにいかないと次いつ会えるかわからないぞ」

「そろそろ一緒の作戦になるはずだから……」

「そのセリフ聞くのそろそろ7回目なんだが」

「今は兄さんも忙しいから、ね? 次、次に帰投した時に会いに行くわ!」


 イグナイトが半信半疑の目で私を見つめていた時だった。


 不快なサイレンと共にアナウンスがアヴァルケン市内に響く。


『緊急出動命令発動。イグナイト・イグナトフ戦闘員、セイジュ・フェリー戦闘員、直ちに第七出撃ゲートに集合せよ。繰り返す……』


 そのアナウンスが鳴り止む頃には、公園に二人の姿はなかった。

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