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そのキセキを忘れない  作者: 如月一
クリシタリアの魔法使い
6/10

北の町


 世界は今、大きく7つの大国に分けられている。

 その中でも最大面積を誇る我らがクリシタリア公国は、南端は北緯36度、北端は北緯77度といったことから、同じ時期にも関わらず結構気温などは差が生じる。


 その中でも首都ラウセウヌや軍事都市アヴァルケンは北に、テイラ川やジブラルタルなどは南に位置する。


 私とイグナイトがアヴァルケンの手前に広がる茶畑に差し掛かった時だった。


「雪ね」


 私はポットから温かいコンソメスープをコップに移して運転するイグナイトに渡す。


「まだ防寒対策もできてないのに、農家はこりゃ大変だな。茶畑って確かあんまり寒すぎるとダメになるんだろ?」

「いざとなればウチのもんが魔法でチョチョイのちょいと解決してくれるんじゃない?」

「それもそうか。でもうまく行くのか?」

「失敗しても魔法で取り返せばいいじゃない」

「簡単にいうがそんな高度な魔術使えるやつなんてほとんどいないぞ」

「あなたの後ろにいるけど」

「……お前がやるのか?」

「だって私ここのお茶好きだし」


 そうこうするうちにアヴァルケンの外門に到着した。


「これからお前はどうすんだ」

「帰投報告をした後は、取り敢えずヴィークの酒場に行くわ。もう夜遅いし、そっからは普通に寮で飲もうかしら」

「ん。じゃあ本部の手前まで送ってくよ」

「あなたは報告しなくていいの?」

「今日までが休暇だろ? 先に寄ってきたいとこがある」


 私は一人、クリシタリア軍の本部の前で降りた。

 近未来的なロビーは随分と閑散としている。


 すると見慣れたちっこいシルエットが一つ、こちらに向かってきた。


 150に満たない身長に、やたらと目立つツインテール。しかも気づかないうちに白髪染めまでしている。

 微妙に元の金髪が見え隠れしているのがまた生々しい。


「おひさ!フェリーちゃん!」


 そう挨拶をしてきた彼女は、普段は北東前線に駐屯している、セレニア・シンシャだ。

 ちなみに特務隊の中で一番幼い外見をしている。

 加えて特務隊の中で唯一結婚している。

 ついでだが特務隊で一番稼いでいるのも彼女だ。


「……私あなたのこと嫌いなんですよね」

「何そのいきなりのカミングアウト、傷つくな、、、」

「だって私があなたに一つでも負けてる要素がありますか」

「なんですかその質問! すごいやな奴ですね!」

「冗談ですよ」

「目が冗談じゃない!」


 私はこのうるさいのをひとまず無視して帰投報告をしたあと、ロビーを出る。


 そして私の横をこのうるさいちびっこがついてくる。

 いや、仕方ないといえば仕方ないのだが。


「どこ行くの??」

「ヴィークのとこです」

「お、目的地一緒だね!」


 何を隠そうこのちびっ子の旦那さんがヴィークなのだから。

 大通りの石畳が雪で化粧を始める中、厚手のコートを身に纏った私とシンシャは並んで歩く。


 近くの公園では子供達が雪ではしゃいでいるが、大通りは人がまばらだ。


 大通りから少し中に入ったところに、暖かそうなその店はある。


「こんにちは、ご無沙汰です」

「たっだいま!愛しい奥さんのお帰りだよ!」


 店はちょうどさっき開けたばかりで、まだ客はいない。


「お帰りなさい、二人とも。何飲みます?」

「おすすめを」

「フェリーちゃんと同じのを!」


 ヴィークは頷き、奥から一本のボトルを持ってきて、三つのグラスに注いだ。


「ヴィークも飲んでいいの?」

「僕はシンシャと違ってこんな量じゃ酔わないから大丈夫」

「そういう問題でもないんだけどなぁ」


 私はそんな夫婦のやりとりを見ながら、せっかくなら水入らずの時間にしたほうがよかったかなと後悔する。

 ってあれ、シンシャがもう寝てるし、、、。


「シンシャは相当酒に弱いんですよ。こんな子供っぽい体だからしょうがないかもしれませんけどね」


 ふと疑問に思ったことを私はヴィークに尋ねた。


「ヴィークはシンシャのどこを気に入っているの?」


 ヴィークは急な質問に少し驚いた顔を見せたが、すぐに手元の作業に戻りながら答えてくれた。


「僕はシンシャといると幸せだと感じたからプロポーズしたんだ。確かに好みとしてはもっとスタイルいい方が合うし、それにもっと大人びた性格の方がいい。でもシンシャは一緒にいてくれた時に安心感をくれるんだ。実際僕なんかよりシンシャの方が腕っぷしも立つしね」


 洗い物を終えたヴィークは気持ちよさそうに眠るシンシャを見つめる。


「安心感、ですか」


「安心感というよりも幸福感といったほうがよかったかな。僕はその幸福感のために明日を生きるし、逆にそれが無くなると思うと、、、考えただけで怖いね」


 不思議な納得感を得た私は、これ以上夫婦の時間を邪魔しちゃ悪いと思い、店を去ることにする。


「じゃあ私はこれで。ちなみにシンシャはいつ北東前線に戻るんです?」

「明後日と聞いてます」

「ヴィークさんも北東前線に移ったらどうですか? シンシャも普段はなかなかこっちには戻れないみたいですし」

「いえ、それには及びません。シンシャにはちゃんと帰るべき場所があった方がいいと思いますし。それに何より僕がここで店を開くことが僕とシンシャの子供の頃の約束でしたから」


 私はその関係の綺麗さに心を癒されながら退店した。



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