干渉残留<リリージャー>、術式解除<スペルブレイク>
白い吹雪に覆われた視界の中でさえ、その光に目を奪われなかったものはいない。
「これがイグナイト戦闘員の神権……」
「そう焦りなさんな。あんなのはただの魔術を独自に強化したものに過ぎない。彼の真価はここからさ」
続く第二射も同様に強い光とともにまっすぐ放たれた。
が、それは敵艦を前に大きく曲がり遥か後方へと外れてしまう。
エネルギー砲塔や質量砲塔による攻撃を無効化した正体とおよそ同じ原理だろう。
これに懲りることなくイグナイトは港から第三射を放った。
光の矢はまたも真っ直ぐ敵艦を襲う。
それは一瞬だけ敵艦の前で止まり、かと思うと今度は曲がらず敵艦に命中する。
『こちらイグナイト、おそらくオークランドは魔術の方向を捻じ曲げる術式を纏っている。陸地からの援護が味方に向かう可能性があるためこれ以上の射撃は危険だ』
『こちら本部、了解した』
ローデンクロウはすぐさま『魔術の方向を捻じ曲げる術式』の解析を指示した。
「似たような事象が青龍城ラインでも観測されています。この報告によると『ベクトル反転力場装置』、つまり放たれた術式のうちベクトル成分のみを上書きできるものと思われますが、、、では一体どうしてイグナイト戦闘員はこの術式を破れたのでしょう」
「これこそ彼の神権、干渉残留の効能さ。基本術式が構築され実行すれば、その内容を改変することはできない。彼の神権はそこに猶予を与えてくれるのだ」
「つまり今回の場合、『ベクトル反転力場装置』によってイグナイト戦闘員の光の矢のベクトルが上書きされた上にまたイグナイトが上書き仕返したため貫通できたと?」
「そういうことだ。逆にあの光の矢を途中で180度反転させたりもできるからオークランドが陣地を設営する際にはかなり気にしているだろうね」
そうこうしているうちに敵艦隊は残り2隻となっていた。
だが同時にイグナイトの魔力も切れる。
イグナイトは魔術探知レーダーに映る仕留めきれなかった二つの艦影を悔しそうに見つめながらフェリーにバトンを渡した。
『あとは頼む』
イグナイトのおかげで予定されたポイントまで敵を引きつけられた。
これで私の神権が輝ける。
「距離200か。このくらいならあいつらに捕捉される前にたどり着けるっ」
そして凍った海へと飛び出し、魔術を発動させる。
「ヴィルクーレ!」
その呪文は私を加速させた。
わずか数秒で敵艦に肉薄した私はまたも違う呪文を口にする。
「アクセラリリィ、E54!」
今度はあり得ない跳躍力が私に宿る。
凍った海を破りながら迫り来る漆黒の戦艦に飛び乗った私は、やっと本命の呪文を唱えた。
「神権・スペルブレイク!!!」
テイラ川戦線同様に私の右手は光を帯びる。
ーーイグナイトの矢を弾いた術式
おそらくそれは艦隊の殿を務めているここの艦にいる術者から出ているものだろう。
そいつを探し出すためにハッチを蹴破った。
ーー炎が立つ音
ーー何かが爆発する音
ーー何かが崩れる音
ーー誰かが近づく音
敵の姿はまだ見えない。
私は神器使いがあると思われる場所へと走る。
すると
背後から巨大な爆発音がなる。
「この程度でかなうわけないでしょ」
だがその爆発は彼女を狙ったものではない。
壁が壊され、屈強な剣士が2人現れる。
「なんだ、銃器じゃ私は殺さないってわかってるじゃない」
「でもね」
「そんな紛い物の人形はいくら寄越されても鬱陶しいだけよ」
その2人の剣士は、
剣を振ることすらなく塵となる。
たしかに魔術ではクリシタリアに敵わないオークランドをここまでの大国にしたのは、このクローン兵士だ。
だがそれも元を辿れば一つの魔術。
フェリーの神器・スペルブレイクのいいカモなのである。
続く敵兵も次々と塵と化す。
そして彼女は2分足らずで相手の術者の元に辿り着いた。
「あなたがこのふざけた術式を展開している人ね。今すぐ解いてくれるなら、殺しはしないわ」
彼女が詰め寄る。
その術者はまだこちらを振り向きすらしない。
「そう、それが答えね」
彼女は腰の小さい長方形のモノリスを引き伸ばし、テイラ川同様の黒剣をだす。
そして一気に間を詰めた。
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その時、敵が振り返った。
私は今でも、その表情を忘れられない。
あの、怒りとも絶望とも取れる表情を見たのは、前にも後にもあの時だけだ。
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あの後最大の盾を無くした敵艦隊は、不幸にも吹雪が止んでしまいあっさりと残存していた21機のエネルギー砲塔の餌食となった。
もちろん敵艦からの華麗な脱出劇を私は成し遂げたが、特に語り映えしないのでここでは割愛しておこう。




