光の向こう側へ
静かな空間にパタッと乾いた音が鳴り響く。
大して面白くなかったな。
それが一週間かけて読み切ったこの長編小説に対する率直な感想だ。
友達に勧められて読んでみたが、やはりSFに興味はなかったようだ。今、話の内容を思い出そうとしても、まるで思い出せない。ただつまらなかったと言いつつも、一週間も読み続けることが出来たのだから、恐らく客観的にみれば面白い部類に入るのだろう。
涼月は本を書架に戻そうと立ち上がる。
本はいつも図書館で読むようにしている。家で読んでいると母親に勉強しろと叱られるので、図書館の自習室で勉強に勤しむフリをしているのだ。今のところ母親がそれに気づいている様子はない。
涼月は今年の4月に高校3年生になる。成績は上の中といったところで、決して悪くは無い。大学も国立に受かればそれでいいと思っている。しかし母親はそうは思っていないらしく、しきりに難関大学を勧めてくる。初めの頃はそんな母親の態度を受け流していたが、最近は逆ギレされることも多々あった。この図書館は同じ高校の生徒もよく使うので、母親に秘密がバレないか不安である。
図書番号を確認し、元あった場所を探す。
探す?いや、それはおかしい。この本はつい2時間ほど前に本棚から引っこ抜いてきたのだ。流石に元あった場所くらい覚えている。覚えているはずだった。でも迷った。この図書館のヘビーユーザーである僕が書架で迷うなんてありえない。さっきから同じ通路をぐるぐる回っているだけのように思える。景色が全く変わらないのだ。一体何が起きているんだ?
その時左奥の方にうっすら光が見えた。本棚の隙間から青白い閃光が煌めいている。
自然と足は光の方へと動き出していた。抗うことはしない。抗うことは考えられない。
思考が完全に止まった。
傀儡みたいに誰かに操られている感覚に陥る。
そして辿り着いた。光の真ん前に。
光の向こう側は見えない。左足を光の中に差し込む。
恐怖はない。何も感じない。それが当たり前であるかのように。それが抗うことの出来ない運命であるかのように。
涼月は光の内側に吸い込まれて行った。