モブなおれはモブな彼女と出会った。
おれの名前は作田川望汰、普通の高校二年生。
顔は悪くなければよくもない。運動もピカイチでできるわけでもない。
だが、おれには唯一取り柄がある。
おれはこの学校でトップレベルで勉強ができる。
その代わり友達がいない。
友達がいないことは別に嫌なことじゃない。
天才は孤独の運命を辿ると哲学者たちは言っているのだしおれは正しく天から授けらし才の持ち主なのだ。
勉強ができる代わりに友達がいない。
神様とは全ての人間に平等というわけだ。
収束論とやらはきちんと働いているらしい。
そんな勉強大好きなおれだが、今日は学校に来るのも億劫になっていた。
なぜなら席替えがあるから。
席替えとは、1番くだらないもののひとつだ。この行事は無意味にも定期考査の後に年4回行われる。
学力の向上も何も見込まれないただのお遊び。
うるさい陽キャたちが集まればその一帯はもう動物園と化し、授業中にも関わらず言いたいこと言い合って騒ぎ倒す。
休み時間も話しているのに、そんなに話題があることが不思議で仕方ない。
学校とは、勉学の場である。
憩いや娯楽はいらない。ただ勉強さえすればいい。
その認識を履き違えている時点でおれと彼らとの間にはものすごい差が生まれているのだ。
だから彼らはおれからすればただのモブに過ぎない。
ただ背景に映る人々である。学校を構成する上で必要数集められたNPCと言ったところか。
結果論:学校を勉学の場だとわきまえているおれには、席替えというものは必要ない。
と、いつもながらの迷走ポエムを終えたところでおれは委員長が持っている箱からクジを引く。
今の席は窓側の1番後ろ。いわゆる主人公席だ。
授業中当てられることもなければ、居眠りをしていてもばれない。
人の出入りが多いドアからも離れていることで、パーソナルスペースも確保できるという神ポジションである。
この席を手放すのはとても後ろ髪を引かれる思いだが、仕方ない。
席替えを止めろと訴えを起こす労力が無駄である。
だから、大人しくクジを引けばいい。
周りがモブでおれが主人公であるのならばクジの女神はおれに微笑むことは確実なのだから。
おれは手に取ったクジを開け、番号を確認する。
「5番か」
主人公席──再来。
よっしゃ、やっべぇ。おれやっべぇ。
運ってやっぱり実力の内なんだなー。日頃の行いがいいからなーおれ。
昨日なんてこの席替えのクジ引きでいい席が引けるように学校から家までゴミ拾いして帰ったからな。
「いやー、動かなくて済むわ。らくちんらくちん」
おれが個人的に勝利に浸っている中、クジを引き終えた他の生徒たちは各自の席を黒板で確認し、移動を始める。
これで周りにうるさいやつが来なけりゃおれの大勝利なんだが……。
「おーーっと!これはこれはこの学校の秀才!作田川望汰君じゃないですか!いやーお近くの席になれるとは光栄です。よろしく頼みますぞい!」
まぁ、人生とはそう上手くいかないものだ。
前の席に座ってきたのはこのクラスの変人……もといちょっと他の人とは別の次元にいる女の子は東山栞音。
モブたちのはびこるこの教室でおれが唯一名前を覚えている人間だ。
いつも元気いっぱい。男女ともに人気のある取っ付き安い性格で、このクラスでの人気者って感じの女の子だ。容姿も整っていて、短く切りそろえられた桃色の髪が、サラサラと揺れる。
きめ細かい肌はどれだけ拡大しようと凹凸がわからないほどに綺麗だ。
そのおちゃらけた言動とは相まって、その瞳の奥に隠れた強い意志は、彼女の1番の魅力だろう。
裏表もなく、誰にでも優しい。こんな女の子がいていいのだろうか。
ついつい目が話せなくなってしまう程の美貌。話しかけられただけで心が踊る高揚感。
あぁ、認めよう。こいつは可愛い。そして、おれはこいつに少なからず興味を持っている。だがただ自分とは違う人間だから興味を持っているだけであって決して恋愛的な感情ではない。
まじで違うからな。
「よ、よ、よろしく」
「うん!よろしくね、作田川君!」
安定的にコミュ障を発揮して、挨拶を返す。うん、死にたい。
おれは桜井と近くの席になったところで、少し席替えも捨てたもんじゃないと思っていたのだが……。
「おっとー!これはこれは氷柱さんじゃないですかー」
前の席からまたもや陽気な声が上がった。
桜井の視線の先、おれの隣の席にはにはただの女が座っていた。
所詮モブか。
「いやー、学力学年トップの2人が後ろの席だなんてこりゃ幸運中の幸いだよー」
いま、なんてった?
「学年トップだと……」
そういえば横の席のこいつの名前。氷柱といったか。おれはこいつを知っている。去年の一年間全ての定期考査でおれが一歩及ばなかった唯一の人間。
考査結果の順位表で常におれの一つ上にいた存在。
この学年この学校で最も勉学の女神に愛された天才。
「うん、そうだよ。知らないの?同じクラスなのに、なんかへーん。まぁいいか、ここにおられますのは我が学園の去年一年間の考査ですべて一位を取った天才!三波氷柱さまでござーいまするー」
陽気に紹介してくれる東山には悪いがおれは横の席の女に夢中だった。
初めて見た顔。まさに座れば牡丹と言ったところか。瑠璃色のロングヘアーは細くて光沢を放ち、その横顔は正しく気高く、だが少し冷たく手に持った本に視線を落としていた。
氷柱という名前にピッタリな美しさとほっそりとしたスタイル。
こいつがおれの隣の席の隣人。そして倒すべきラスボス的存在。
「桜井さん。知らない人にわたしの個人情報を教えるのは辞めてもらえるかしら」
氷柱さんとやらは透き通った声で自分のプライバシー侵害を訴えた。その声音は冷たくだが美しく聞き惚れてしまうほどだ。
「おっとすいませんねー。というより、氷柱さんも作田川君のこと知らない感じ?」
「さぁ、さくた……聞いた事ないわね。わたし基本モブには興味がないから」
あっ?こいつ、モブって言ったか?
「あのなー氷柱さんとやら、このおれのことをモブ呼ばわりとはどーゆう事ですかねー?」
「あら失礼。あなたの顔も名前もご存知でなかったのでつい。モブ田川モブ汰君でしたっけ?わたし物覚えはいい方なのまかせておいて」
「作田川望汰だよ!まかせておいてじゃねーよ。半分間違ってんだよ。モブのくせに物覚えもよくないとか救いようのないモブだな」
「は?わたしがモブ?何言ってるのかしら?モブ田川くん。わたしはわたしの物語の主人公であり、メインヒロインよ。くだらない冗談はよしていただけるかしら」
「なーにがメインヒロインだ。自分でいって恥ずかしくないんですかー?」
あーこいつめっちゃむかつくんですけど!存在が今の今まで知られてなかったくせに、おれをモブ呼ばわりとか頭おかしいのか?勉強しすぎてんじゃねーの?
おれたちの口げんかをニコニコと楽しそうに眺めている東山。
「君たちー。初対面なのに仲良いね」
「「よくない!」」
「ほーら、仲良いじゃん」
やっぱり席替えというものは全然好きになれない。
おれはこの隣人三波氷柱と次の考査まで隣の席というわけか。
東山が前の席で三波が横の席。
「完全にプラマイゼロだ」
おれは頬杖をつきながら、窓の外の景色にそう呟いた。