第四話 スキル
フィジカル・ボアを見つけては石を投げて攻撃を誘発し、カウンターを喰らわせる。
それを繰り返すことゲーム時間で二時間。
経験値15を獲得しました。
10ゴールド獲得しました。
レベルが5になりました。
スキル『氷結する瞬間』を覚えました。
聴き慣れた声が脳内へと響く。
「やっとレベル5になっった〜〜」
フィジカル・ボアを三十体ほど倒して、ようやくレベルが5に上がった。
最後の方はゴリ押しでも余裕で倒せるようになっていたので、そこまで苦戦はしなかったが、やはり繰り返しの作業というものは辛い。
何はともあれ、レベルが5になり、スキルを獲得した。
ウィンドウを開き、『所持スキル』を確認する。
所持スキル
・氷結する瞬間 LV1 消費MP150
……自分が望んだ物体一つ以外の物の時を0.5秒止める
『氷結する瞬間』というスキルを獲得したようだ。
どうやら『時空魔戦士』らしく、時を止めるスキルのようだ。
ただ、効果内容が地味に細かくてめんどくさい。
しかも消費MPめっちゃ多いし。
レベル5になって最大MP量が150になっていなかったら使えないじゃないか。
「つまり言い換えると、自分が望んだ物体の時間を0.5秒早めることができるってことかな?」
その物体以外の時を止めるんだったら、実際こういうことだろう。
だが、この解釈が間違っていたら困るので、実戦で確かめるべきか。
さっそく実験台になりそうなフィジカル・ボアを探す。
軽く見回すと、50メートルほど先にいた。
足元に落ちている石を拾い、ボアへと近づいていく。
この石にスキルを使ってみよう。
20メートルほどまで近寄ると、フィジカル・ボア目掛けて石を振りかぶった。
現在のMPはマックスの150。
スキルは発動できるはずだ。
「『氷結する瞬間』!!」
スキル名を高らかと宣言して、ボアに向かって全力で石を投げる。
石の時を止めろ!
必死に心の中でそう願う。
すると、ボアまで残り10メートルというところで、石の位置が瞬間移動したかのように、ボアの目の前へと移動した。
石はそのままボアへと直撃する。
やったぞ!
おそらく実験は成功だ。
今の解説をすると、俺がスキルを発動させた瞬間、投げた石以外の時が止まったが、その0.5秒の間でも小石だけは動き続け、スキルが解除された時にはボアの目の前まで動いていた、ということだろう。
石をぶつけられたボアはこちらに向かって突進してくる。
だがもう慣れたものだ。
スッと横へステップしようとする。
だが、全く体に力が入らない。
その間にもボアとの距離は縮まっていく。
ヤバイ! と思った時には、体は宙を舞い、そこで俺の視界は暗転した。
目が覚めると、俺はログインした時と同じく、街のど真ん中に立っていた。
あなたは死にました。
200ゴールド失ないました。
モンスターを倒した時と同じようなナレーションが頭に響く。
どうやら俺は先ほどフィジカル・ボアの突進でやられたようだ。
やられたら所持しているゴールドの半分を失うらしい。
しかし、俺のHPは満タンだった筈だ。
レベルアップにより、HPは150まで上がったし。
突進一回でやられるほど弱くはない筈だ。
「あの脱力感と何か関係があるのか?」
頭の中が疑問で埋まる。
だが、この疑問の答えはどこで知れるのだろうか。
チュートリアルの女性を探したが、見つからなかった。
諦めかけたその時、一つの案が思い浮かんだ。
「『ヘルプ』ってやつで聞けるんかな?」
『ウィンドウ』の中にある『ヘルプ』。
名前からして、疑問に答えてくれそうだ。
早速ウィンドウを開き、『ヘルプ』のボタンを押す。
すると、またもやあのナレーションが頭の中に響いた。
『何か質問がありましたらお聞きください』
なんだろうかこの既視感。
そうだ。
携帯のsiriiに機能が似ている。
取り敢えず質問してみるか。
「さっき新しく獲得したスキルを使ったら、物凄い脱力感に襲われたんだが」
『それはMP枯渇でございます。自身のMPが0になると、体の制御ができなくなり、動けなくなります。また、MP枯渇時に受けるダメージは、本来受けるダメージの10倍ほどとなっております」
なるほど、『MP枯渇』か。
つまり、MPが0になったら死んだと思った方が良さそうだ。
だとしたら『氷結する瞬間』の消費MP150ってヤバくないか?
もしかしたら他の職業もそうなのかもしれない。
この機に聞いてみるか。
「他の職業で覚えるスキルの消費MPってどのくらいなんだ?」
『大体20〜30ほどでございます。時空魔戦士は突出して消費MPが高いです』
いやいや突出してるとはいえ他の職業の5倍はヤバいだろ!
なんか『時空魔戦士』が人気ない理由わかったかもしれない……
MP150消費してあのスキルって……
うーん、考えるのをやめよう!
「もしかしたら本当はめっちゃ強いスキルかもしれないしな!」
淡い期待を抱きつつ、またもや狩りをしに歩みを進める。