エピローグ 死に呼ぶもの
昔、この病院には看護婦がいた。
彼女の名は、三田まりなといった。
両親や家族には誇りに思われ、担当している患者から愛され、他の看護婦や医者からは信頼された、心優しい人だった。
ある日、彼女は病を得た。
彼女は看護婦から、患者になった。
それでも、彼女は愛され続けた。
両親や家族は、毎日のように彼女のお見舞いにやってきては、果物などを差し入れていった。
同室になった患者とは、すぐに仲良くなった。
看護婦や医者は、彼女の病気が治るようにと懸命に努力した。
しかし、彼女は死んだ。最期に、衝撃的なことを知って。
看護婦や医者は、点滴にゆっくりと効く毒を盛っていた。彼女にバレないよう、偽装したラベルを貼り付けて。
看護婦や医者にそれをさせたのは、両親や家族の願いだった。彼女にかかっていた保険金目当てだった。
死ぬ間際にそれを教えたのは、患者が言っていた彼女の陰口。
大切に思っていた人たちは皆、裏切り者だった。
それを知った彼女は、簡単に憎しみに染まり、優しさを、忘れ去った。
そしてその負の感情と長い時はいつしか、彼女を悪霊にしてしまった。
悪霊となった彼女は、裏切り者を殺した。
それでも心満たされることはなく、今に至る。
人や霊を操ることを覚えた彼女は、同じ心を持つ霊と同化することで、自分のことを正当化し、怨みと憎しみを募らせた。
そして人や同情できない霊たちの絶望の声を聞き、その命や魂を喰らうことで、力を得て、一時的に心を満たした。
そんな彼女に、永遠の安息は二度とやってこない。
——霊安室を訪れたひとは、死に呼ばれるんだ。
——あそこには、死に呼ぶものがいる。
——死に呼ぶものは、あれは霊だ。霊安室には、裏切り者を殺す霊がいる。
——あそこの霊は、死者の裏切り者を殺すんだ。
——いや、自分が裏切り者とみなした者を殺す、そんか霊がいる。
そんな噂が立ったのは、いつのことだったか。
病院関係者は、ある有名なバレエの登場人物になぞらえて、彼女のことをこう呼んだ。
——病院のミルタ、と。
これで「病院のミルタ」は完結となります。
いかがでしたでしょうか?
この物語の裏話はTwitterか活動報告あたりでしようと思ってはいますが、ここでも少しだけ、話させてください。
「病院のミルタ」という語句は、エピローグの最後にも書いてある通り、とあるバレエの登場人物にちなんだものです。おそらく「ミルタ バレエ」辺りで検索をかければ、タイトルやあらすじが出てくると思います。
ミルタがどんな登場人物なのか、そしてそのバレエがどんなあらすじなのか。
読んでいただければ、三田さんがどうして「病院のミルタ」と呼ばれるようになったのかが分かると思います。
この物語を少しでも気に入っていただけたら、そして、怖がっていただけたら、幸いです。
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最後になりましたが、「病院のミルタ」を読んでくださった皆様、ありがとうございました!