06.お楽しみタイム
ゲームのような世界に行ってみたいと一度も考えたことがない男子などいるだろうか。いや、断じていない!
地球では28でグレースと結婚しすぐ子供が生まれた為、それから7年間忙しく過ごしてきた。もちろん幸せな日々だったと断言できるが、めっきりゲームとは疎遠なおじさんになってしまっていた。
だがしかし! こうして夢にまで見たゲームの様な世界に来て、俺のハートは再び滾ってきた!
などと一人ニヤニヤしていると、妻のグレースが冷めた視線を送ってき始めた。寒い。
俺は一つ咳払いした後、顔がにやけてしまうのを我慢しながらステータスを確認する。
まず確かめなければいけないのは、設定した通りの名前、種族、クラスになっているかどうか。まぁ種族については見た目でわかるのだが、一応。
早速脳裏に展開されたステータス情報を確認する。
名前 リアム・シード
出身世界 アース
年齢 350歳
種族 ブラッドエルフ族(ナイトエルフ族xトゥルーヴァンパイア)
クラス 死の騎士
そこには、構成情報で選んだ通りに表示されていた。
年齢は35のおっさんなのだが、エルフ系の種族にあわせて変更されている。
ブラッドエルフ族は不老不死なお陰で見た目はブラッドエルフ族の青年の姿だ。ちなみに通常のエルフ族は長命で若々しい期間は長いが老化もするし不死ではない。
ついでに説明すると、種族の括弧内は系譜を表す。つまりは、俺はナイトエルフ族とトゥルーヴァンパイア族の両親から生まれた、という事になっている。希少種族であるこの二つが選択可能で、ブラッドエルフ族になれたことは非常に幸運だ。
尤も、気の遠くなる年月をかけ、千年に一度大量の転移者が現れ続けてきた膨大な人口を誇るアビスでは、希少な種族とはいっても何十万何百万といるので、本当に珍しいわけではない。
さて、ブラッドエルフ族を選んだ理由は、三つ。
一つ目は、精霊魔法を捨てることで頑健な肉体を持ち、強力な元素魔法を扱えるようになったナイトエルフ族よりも、さらに頑健な肉体と元素魔法を扱え、闇属性への適性が高いこと。
タンクをするには頑健な肉体が必要で、物理と魔法両方の攻撃手段を持つことが望ましい。
二つ目は、特殊魔法である血魔法が扱え、適性が高いこと。血魔法は相手にダメージを与えつつ、自分を回復できる手段があるからだ。
俺たちの様に少人数のパーティーでは、ヒーラーのみに回復を任せることはリスクが高いからだ。それぞれ自力である程度回復できた方がベストだろう。
三つ目は、不老不死であることだ。出来るだけ長く家族一緒に生きていきたいからな。ちなみに不死であっても不滅ではないぞ。魂を失うか大きく破損すれば、そのまま存在が消滅する。当然だが。
デスナイトは、闇属性と血属性魔法を行使する重騎士だ。それぞれに高い適性のある種族である必要がある。
闇魔法で広範囲の敵意を自身に集め、デバフで弱体化させつつ、血魔法で回復する。聖魔法で自信と仲間を強化しつつ回復する聖騎士とは、戦闘スタイルが似ているようで大きく異なる。
また、不死系種族を系譜に持たないとデスナイトになれないが、俺の場合はトゥルーヴァンパイアを系譜に持たせる事で可能にした。
俺の目指すタンクとしては、ほぼ理想に近い構成を得る事ができた。尤も、あくまでも才能があるだけであって、活かすも殺すも努力次第なのだが。
ちなみに今の俺の姿は、ブラッドエルフ族の特徴である、褐色肌に紅色の髪と瞳をしている。
髪はエルフ系の風習に倣って長髪だ。肩までの長さは子供がする髪型らしい。元々エルフ族よりも頑健なナイトエルフ族から進化しただけあって、体格ががっしりしている偉丈夫の黒いエルフだ。
そして俺の場合、系譜に怪力のトゥルーヴァンパイアを持つだけあって、見た目以上の力強さを秘めている。
クラスにあわせて最低限付与される装備が貧相な為、今はそこまででもないが、デスナイトの装備をしっかりと整えれば見た目はどこぞの魔王っぽくなりそうである。
「おぉ、わかってはいたけど、こうやってみると感慨深いな!」
「もぅ、あなたってば……」
「ははは、いいじゃないか! いつまでも気を張っていても仕方ないし、気楽にいこう」
「はぁ」
うきうきでステータスを確認している俺に、心底あきれた様子のグレース。いいじゃないか、楽しいんだから。それよりも。
「まぁいいから、グレースも念のため確認しておくんだ」
「はいはい。ステータス・オープン」
俺がグレースに確認を促すと、呆れたのか諦めたのかその両方なのか、グレースもステータスを確認し始めた。
おそらく、グレースの脳裏にはこのように表示されているはずだ。
名前 グレース・シード
出身世界 アース
年齢 290歳
種族 クリスタルエルフ族(ハイエルフ族x輝晶族)
クラス ハイドルイド
グレースも俺と同様に希少種族であるハイエルフ族と輝晶族が選択可能で、クリスタルエルフ族になる事ができた。
ハイエルフ族は白磁の様な透明感のある色白の肌をしており、全員が金髪碧眼である。通常のエルフ族よりも精霊に近い存在だ。
輝晶族は身体が宝石で出来ている鉱石系生命体で、極めて強力な障壁と攻撃手段を持つ結晶魔法のスペシャリスト。どちらも不老不死。
クリスタルエルフ族は両方の種族の特徴を持ち、宝石のように輝く透ける肌を持った金髪碧眼の姿をしている。透けているといっても内臓が見えるわけではなく、本当に宝石を透かしているかのように、体の向こう側がうっすらと透けて見えるのだ。神秘である。
グレースは蒼色の結晶体の輝晶族をベースにしているので、蒼色の透明度を持つ肌と金髪碧眼のエルフの姿をしている。元々自慢の清楚系美人巨乳妻なのだが、その美貌に神秘的な磨きが掛かって宝石の様に輝きを微かに放っている為、女神にしか見えない。
ちなみに俺もエルフ系の筈なのに、どこはかとなくおっさん臭さが漂っている。理不尽だ。
ヒーラー兼キャスターとして回復と魔法火力を両立させるため、グレースが選んだのはハイドルイド。
ドルイドは自然系マジックキャスターで、リジェネ系の回復魔法と多彩な補助魔法を得意とし、それなりの攻撃魔法も扱える。そして自然系の特殊魔法を修めたドルイドのみが、ハイドルイドとなれる。
ハイドルイドはドルイドよりも強力な魔法を行使する事ができる上、強力な範囲回復魔法も使えるようになる。また、自然系特殊魔法の効果が上がる。
グレースは輝晶族を系譜に持つため特殊魔法である結晶魔法が扱える。そして結晶魔法は自然系の特殊魔法。ドルイドの資質を持っていたグレースは、ハイドルイドを選ぶことができたのだ。
そしてハイエルフは精霊と契約することができるため、精霊騎獣となった元愛犬のソルとは契約状態にある。今そこでのんびり寝転んでいるソルは、グレースが文字通り主人となるのだ。元主人の俺としては少しばかり寂しいぞ。
一通り確認が出来たのか、グレースが顔を上げて話しかけてきた。
「私も問題ないようね。詩織も――大丈夫ね。ソルもきちんと契約状態にあるわ」
「そうか、良かった。ひとまず確認は十分だな、あとは実際に慣れていくしかない」
「そうね」
そう、これまでの考察は全て机上の空論である。俺たちが目指すパーティーとして必要な資質を持っていたとしても、研鑽をつまなければ早々にどうにもならない事態に陥ることは確実だろう。この世界は決して甘くはない。むしろハードモードではなかろうか。
「じゃあここらで、軽く試してみるか」
「それが良いわね」
さてグレースの言う通り、ある程度自分たちの力と安全を確保できているうちに試したいところだが――うん?
「グルルル……」
ふと俺が何かに違和感を抱いた瞬間、それまでのんびりしていたソルが急に起き上がり、ある方向を見据えて俺たちに警戒を促すように低く唸り始める。
俺は少し遅れて、ソルが何に警戒しているのかを察する。
「――くそ、油断した! グレース、シルビアを頼む」
「え、えぇ! 任せて」
あれだけこの世界は甘くはないと自分で言っておいて、なんという様だ!
確かにこのシーラオの耕作地付近は普段なら確実に安全だろう。そう、普段なら。
ソルが警戒している方向とは反対側に、間に俺を挟んで後方に移動したグレースが、シルビアを背に庇いながら声を上げる。
「あなた! 何があるの!?」
こういったことに疎いグレースが、いくら俺より賢くてもすぐに気づくことができないのは仕方がない。
ソルが察知したのは、誰か敵意を持っているものが近づいてきているからだ。できるだけ気配を隠しながら。
ソルの索敵能力が高いためにいち早く接近に気づくこと自体はできたが、相手の隠密能力も高いようだ。ソルに正確な位置を掴ませていない。
気配を隠しながら近づいてきている時点で、どう考えても敵意のある存在だ。だからこそ、ソルは警戒をこんなにも露にしているのだ。
こんな安全地帯といって良い場所で、もうすぐ国軍の巡回兵もやってくるこのタイミングで襲ってくるもの達がいるとするならば、それは――
「恐らくアース人だ! それも、碌な奴じゃない」
「――え? そんな、まさか」
――そう、俺たちと同郷の地球からやってきた、アース人だ。
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