05.お約束
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「ん、んぅ……」
何もない空間を唯々漂っているように感じていたが、徐々に意識が覚醒してくる。
「こ、ここは?」
意識がはっきりして辺りを見回してみると、一面黄金色の麦の様な作物が植え付けられている。どうやら、広大な耕作地の中を通る街道付近の草むらに倒れていたようだ。
近くには俺――リアム・シードの家族の姿もあった。
「おい、大丈夫か。グレース、シルビア、起きろ! ソル、平気か」
俺は皆の状態を確認しながら声を掛けていく。
「ん、リアム。えぇ、私は大丈夫よ。ありがとう。シルビアは?」
「気が付いたか。シルビアも、ソルも無事だ」
「そう、良かった」
目を覚ました妻のグレースが俺に返事をする。シルビア達の無事も伝えると、ほっとしたようだ。
「うぅん……ママ? パパ?」
「シルビア、大丈夫よ。パパもママもいるからね」
「……うん」
娘のシルビアは目を覚ますと、すぐに両親を求めていた。グレースが抱きしめながら落ち着かせると、すぐに落ち着いたようだ。
しかし、無事なのは何よりだが、真っ先に父ではなく母を呼ぶのはなんかこう、ぐっとくるものがあるな。仕方のない事だが。母は偉大だ。
「ウォン!」
「おぉ、ソルも起きたか。元気そうでなによりだ」
「ウォン」
ちょっぴり俺がセンチメンタルになりかけていると、ソルも起きて身を寄せてきた。姿は変わってしまったが、これからも家族の一員として、宜しく頼むぞ。
全員の無事を確認したところで、俺は現状を把握するためにグレースに声を掛けた。
「グレース。早速だが、状況を確認しよう」
「えぇ、わかったわ。シルビア、大丈夫だからね」
「うん!」
シルビアを抱きしめていたグレースは、シルビアに声を掛けて身体を離して、話ができるようにした。
すっかり安心したのか、シルビアはグレースの横で上機嫌に鼻歌を奏で始めた。
「まず、現在地だが――間違いなく、予定通りモリアス王国内だろう。正確な場所は分からないが」
「そうね。シーラオの広大な耕作地があるなんて、モリアス王国しかないものね」
「そうだ」
そう断言できるのは、俺たちの周りを囲んでいるシーラオという作物の耕作地があるからだ。
栄養価が高く、作付け効率が極めて高いシーラオは、ラース大陸のモリアス地方でしか育たない稲のような植物だ。つまりは、シーラオを栽培できるのはモリアス王国だけとなる。
したがって、ここはモリアス王国内であることは確定事項だ。
「それなら、今すぐにどうこうなる危険は無いわね」
「あぁ、今はまだ早朝で時間はまだまだあるし、シーラオの耕作地は安全だからな」
太陽――アビスの太陽はやや蒼がかった色合いをしているように見える――を見上げると、まだ陽が昇ったばかりのようだ。となると、まだ早朝である。この後人里に移動する時間を考慮しても、状況を把握する時間はたっぷりとある筈だ。
そして何より、シーラオの耕作地が安全であることが大きい。
というのも、モリアス王国では重要なシーラオを守るため、周囲の敵性生命体――同族以外へ積極的に攻撃を仕掛けてくる生命体、通称モブ――は、国軍の定期巡回によって常に一掃されているからだ。
そして、国軍がシーラオの耕作地を頻繁に巡回する為、必然的に盗賊などの非正規武装集団も寄り付かなくなる。
つまり俺たちの現状を端的かつ客観的に説明すると――
「襲われる危険もないし、待っていれば国軍の巡回兵が来る。最寄りの街なりまで同行を申し込めば、迷子になる心配も無い。ということね」
「その通りだ。ついでに言うと、もしかしたら巡回兵より先に各街を回る隊商が来るかもしれない。まぁ、その場合もよっぽどじゃなければ拒否されないだろうから、どちらにしても一緒だろうな」
むしろ、世界情勢に敏感な商人たちのいる隊商の方が、新鮮な情報を仕入れられるかもしれないな。
「転移先は選んだ勢力圏内で、完全にランダムだったはずだから、私たちはとても運が良かったわね」
「あぁ、そうだな。同じモリアス王国内でも危険な地域はいくらでもあるからな。何よりだった」
「えぇ」
グレースと顔を見合わせて、ほっと息をつく。転送された地球――アース人は百億人にもなるが、恐らく俺たちの様にイージーモードでスタートできた者たちはそれほど多くないだろう。なぜなら、アビスは地球とは比較にならない文明が栄えているとはいえ、過酷な環境だからだ。
「ひとまず現状についてはこれでいいとして――」
俺が思わせぶりにそういうと、グレースは苦笑しながら返す。
「――ステータス確認、でしょう?」
「もちろんだ!」
「もう、リアムはそういうところはいつまでも子供みたいなんだから」
「ほっとけ」
とんでもない事態の連続に翻弄されていたからこそ、今までは欠片も心に余裕はなかった。しかし、幸いにも俺たちには余裕ができた。
だからこそ、漸く心躍らせる時間がやってきたのだ――剣と魔法の世界、ファンタジーに!!
少しくらい、遊んだっていいだろう。うん。そうに違いない。
「魔導技術もあったりして超文明だから、厳密に言うならSFファンタジーかしら?」
「そんな細かいことはどうでもいい!」
冷静にグレースが分析する。地球時代はゲームに興味がなかったからそんな知識無かったのだが、キャラクターメイキング時にアビスシステムから付与された情報の中に、参考情報として混じっていたようだ。
とにもかくにも、まずは――
「ステータス・オープン」
――お楽しみタイムだ!
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