02.キャラクターメイキング その二
俺たちがこのキャラクターメイキングで決めなければならない項目は、名前、種族、陣営、クラス、能力値、スキル、魔法。この中で最初に決めなければならないものは明らかだ。
俺はコンソール端末を操作し、俺たちの構成情報画面を表示する。それぞれ個人の画面に遷移することもできるが、この時点で選択できる項目が一つ。
「まず決めるのは――勢力だ」
アビスへの転送は生活集団単位――つまりは、生計を共にする者同士が一つのグループとして扱われ、まとめて転移される。その為、俺たちは核家族世帯で親の介護などもしていないことから、この三人がグループとなる。ゲーム的に言えばパーティー規模だ。これが養護施設とかになると、数十人単位でのグループになる。
その為、このやたら広い白い空間であるにもかかわらず、俺たちしかいないという寂しい風景となっているのだ。
ちなみにペットも一員として含まれるので、愛犬のソルも一緒にいる。ソルは恵の膝で寝ている詩織の傍で、一緒にぐーすか寝ている。相変わらず呑気である。
閑話休題。
「俺たちが選択できる勢力は結構多いな」
項目を選択して表示される勢力は、およそ三百前後――多すぎだろ。
「そうね。アビスは種族自体の生存競争もだけど、勢力間の覇権争いも活発。詩織のことを考えると、極力温厚かつ防衛力を持っている勢力がいいわね」
恵が思案顔で相槌をうつ。
「あぁ、そうだな。となると、拡大志向の勢力は論外として。防衛力を考えると、それなりに歴史があって中規模以上の勢力以外は除く、と――ぐっと減って二十弱か」
安全第一を考えると、およそ三百もあった勢力から残ったのは僅か二十弱。かなり少ない。理想通りの勢力はないかもしれないが、この中から選ばないといけないのは変わらない。
「えぇ。さらに転送後に実力が伴わないうちに、強いモンスターや強硬姿勢の勢力を極力避けられる立地が必要よ」
「それもそうだ。避けられる危険は避けるべきだな。そうすると残るは――四つ、か。少ないな」
「とても残念だけれど。その中から選ぶしかないわね」
転移後すぐに強敵と遭遇したりして、攻撃的な他勢力に出くわすなど御免である。恵と話しつつさらに勢力を絞っていくと、残った候補は僅か四つ。
とんでもなく広大な世界であるアビスにおいて、この四つの勢力全ての勢力圏をあわせても、世界全体から見れば吹けば飛ぶような領域しかない。
「残った四つの勢力は、アビス神国、メルニアス都市国家連邦、モリアス王国、ローラン魔導国だな」
俺たちが絞りこんだ四つの勢力については次の通りだ。
アビス神国――根源世界アビスにおいて、史上初めて建国された創世記より続く国家。始まりの大陸とよばれるオリジン大陸全土を支配している。
純血主義の傾向が強く、アビス人が国民のほとんどを占める。そのため、他国家に比べて人口が非常に少ないが、アビス人は個々の力が強力な為、軍事力としては世界最大である。
世界最大の宗教であるアビス教の教皇が国王を兼任している。教会と名乗れるのはアビス教のものだけである。
メルニアス都市国家連邦――アビスに統合された下位世界の異邦人たちが、世界各地に樹立した都市国家の世界的連合体。連邦としてみればグランツ帝国に次ぐ人口を誇るが、実態は小国の集まりである。
軍事力は都市国家各都市の自衛能力に依るところが大きい半面、経済規模としてはグランツ帝国に比肩しており、交通の要衝にある都市国家が多く属しており、その経済力を以て外圧に対抗している。
モリアス王国――ラース大陸の南部地域を領土とするミノタウロス族が王族の王制国家。
国土の殆どが平野の為、アビス神国に次ぐ食糧生産国である。アビス神国は最小限の輸出しか行わない為、実質世界の食糧庫の役割を担っている。
その役割上から長い歴史を経て、唯一の永世中立国となった。
憲法上は絶対王制ではあるが、国家の運営は国民によって選ばれた者たちに委任されており、実質民主主義と言える。
ローラン魔導国――バガン大陸最大の国。魔導王と評議会によって国家運営されている。
魔導技術を確立した技術大国であり、世界最先端の魔導技術を持つ。最高峰の魔導技術士が魔導王となる。
鉱物資源は豊富だが食糧生産には向かないバガン大陸の土地柄、人口は少ない。その代わり、高度に発達した魔導技術により軍事力はグランツ帝国を軽く凌ぐとも言われている。
「アビス神国は私達では所属できないから除くわね」
「そうだな」
アビス神国はアビス人以外が住むこと自体は許可されているが、あくまでも神国の審査を通った者だけとなる。恵の言う通り俺たちは対象外な為、選択肢から省いて良いだろう。
「メルニアス都市国家連邦は連邦として見ると存在感があるけど、今回の統合で確実に淘汰されるから論外だな」
「えぇ、そうね。私達地球出身の者たち――アース人が大きな火種になると思うわ」
都市国家連邦はその名の通り、アビス以外から来た世界の者たちが中心となって興した都市国家の集合体だ。世界経済でみると存在感も影響力もある。
しかし、これから騒乱の時代を迎えるであろうことを考慮すれば、都市国家単位で自衛するしかない連邦に所属することは、大きなリスクだろう。
「となると、残りは二つ。モリアス王国か、ローラン魔導国か」
「モリアス王国は永世中立国という大きなメリットがあるわね」
「あぁ。唯一最大のデメリットはグランツ帝国と国境を接している事だな」
「最低限の防衛力と協定があるから、万が一グランツ帝国が禁忌を犯して侵略してきたとしても、すぐにどうこうなることはないと思うのだけれども……不安ね」
「そうだな」
モリアス王国の永世中立国は自称では無く、長い時を血で血を洗った歴史を経て、アビス神国が盟主となって各国と結ばれた協定によって成り立っている。
協定成立以来、幾度も世界規模の戦争は起こったが、これまで一度たりとも協定が破られたことはない。限りなく安全な国と言えるだろう。
しかし、物事に絶対は無い。俺と恵が不安に感じているのは、そこだ。勿論、杞憂に終わる可能性の方が圧倒的に高いだろうが。
「対するローラン魔導国は、魔導技術を土台にした国力が最大の魅力だな」
「えぇ、SFかと思うような文明が広がっているのでしょうね」
「グランツ帝国をものともしない軍事力もある上に、そもそも大陸が別だしな」
世界の最先端の魔導技術を保持し、常に進化し続けるローラン魔導国は非常に文明度が高く、まるでSFのような世界が広がっている事だろう。軍事力が高く大陸も異なることから、グランツ帝国の侵略目標とはなりにくい事も魅力だ。
ただ、そんな完璧に見える国でも欠点がある。
「問題は詩織の環境に全くもって宜しくない、というところだな」
「えぇ、そうね。いくら戦災にあわなかったとしても、普段の生活で危険があるのは論外だわ」
「だよなぁ」
ローラン魔導国の欠点――それは、すべてが魔道技術中心で回っていることだ。魔導技術により長けているものがより優遇され、特権階級として権力を持つ。そうでない者たちは魔導国の保護下にはおかれるが、名目上は同じ国民同士でも実際は、特権階級には逆らえない。
これが俺一人で転送される前提で魔導技術を習得できる自信があるなら、それでも検討する余地はあるかもしれない。しかし、家族を守らなければいけない身としては論外だ。万が一俺に魔導技術の才能があって特権階級として遇されても、それは俺だけだ。恵と詩織は準特権階級となる。伴侶たる恵はまだ良いが、いずれ自立する詩織に魔導技術の才能がなければ悲惨だし、将来の選択肢が本人の意思に因らず決まってしまうのも論外だ。
「だから、私はモリアス王国に所属するべきだと思うわ」
「あぁ、俺もそう思う。俺たちにはここしかないな」
ローラン魔導国が駄目となれば、残るはモリアス王国のみとなる。先に述べた通り絶対の保証はないというリスクはあるが、現状他に選択肢がない以上、俺たちが努力してリスクを避けるなり減らすしかない。
それに悪い話ばかりじゃない。モリアス王国は自由な気風があって、比較的長閑な国柄だ。少なくとも地に足が着くまでは、過ごしやすい環境と言えるだろう。
「よし、では選ぼうか」
「えぇ」
恵と頷き合った俺はコンソール端末を操作して、所属勢力にモリアス王国を選択した。
「よし、これで勢力は完了だな」
「残り二十時間よ。ここまで思ったよりも掛かってしまったわ」
「そうだな、情報を精査しながらだから時間を食ってしまう――が、焦っても仕方ないさ。急ぎつつ、慎重にやっていこう」
「そうね。あなたの言う通りよ、ありがとう」
「いいさ」
焼き付けられた情報を整理し、情報を精査しながら勢力を選択するまで、早四時間。思ったよりも時間が掛かってしまったのは事実だ。
しかし、焦っても仕方がない。やり直しがきかない上に万が一のリスクを最大限減らすには、迅速かつ慎重に作業を進めるしかない。残り二十時間もあれば、厳しめにみても十分時間はあるさ。
「じゃあ、次は俺たちのアビスでの名前を決めよう」
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