01.キャラクターメイキング その一
俺と恵は脳に焼き付けられた情報を整理し、現状を正しく理解することを優先した。そして、今何を行わなければならないのか、状況を落ち着いて把握することができた。
「まさか、世界が本当に終わるなんて、なぁ……」
「えぇ、今までも信じたくない気持ちね」
「まったくだ」
まず、俺たちがどうしてこんな状況にいるのか。おさらいすると、こうだ。
そもそも俺たちの住んでいた世界――地球は、アビスと呼ばれる根源世界を活性化させる為に創造されたものらしい。
いや、何を言っているんだって思うだろうが、これは真実だ。俺たちに焼き付けられた情報は全て真実であると、そう理解させられている。
そして、根源世界というのは創造神が手ずから創造した世界を指す。アビスと呼ばれる世界以外にも、創造神の数だけ根源世界は存在する。
創造神は何柱もいるらしい。何柱いて、なんていう名前をした神なのか、までは情報が付与されていない。
創造神が根源世界を創造するとき、その誕生の余波で大小さまざまな下位世界がついでに大量発生する。アビスを生み出した創造神は、手をかけたアビスが停滞しないよう、ある程度育った下位世界をアビスに統合することで、不定期に活性化させるようにした。
これが、アビスシステムと呼ばれるものであり、今回俺たちが直面している現在の元凶だ。
アビスの下位世界は減ったり増えたりしながら順調に統合されていき、俺たちの地球――アビスシステム上は管理番号WX02Aと呼ぶらしい――が、統合対象としての選定基準を満たしたため、めでたく統合されることになったわけだ。
その選定基準というのは、世界の格によって異なるが、俺たち地球の第六位世界の場合は、の世界の主要知的生命体が規定個体数を超えたとき、アビスへ統合されることとなる。
つまりは、地球人類が100億人を達成したので、めでたく収穫されたわけである。
収穫を終えた世界は一連の処理が完了――つまり俺たちがアビスへ転送された後、破棄される。要は、世界が終わる。
今はまだ俺たちが残っているから世界は厳密には終わっていないが、終わったも同然である。
「まぁ、俺たちがどうこういっても何も変わらない。今は一生懸命考えて、向こうで皆無事に過ごせるようにしないとな」
「そうね、すごく悲しいけれど……。詩織の為にも、今がんばらないと」
「だな」
恵と顔を見合わせて、溜息をつく。いまでもこれが夢じゃないのか、という淡い期待がある。頭では現実と理解していても、心情は中々ついてこない。
「その為にはまず、アビスでの私達の構成情報の構築――あなたの言うキャラクターメイキングをしなきゃね」
「そうだな。あと20時間あるが、長いようで短い。取り返しのつかない事態になるかもしれん。しっかり取り組もう」
それでも、俺たちにはすべきことがある。ここでしっかりしておかないと、転送後すぐに命を落とす事にもなりかねない。
不安も恐怖もあるが、何より詩織の為に俺たち二人は協力して前を向かないといけないのだ。
「じゃあ、キャラクターメイキングについておさらいするぞ」
「うん、よろしくお願いね」
俺がキャラクターメイキングと呼んでいるのは、地球が統合される先、根源世界アビスにおける俺たちの構成情報――つまりは魂の器となる肉体を決める事だ。
今の俺たちは元の姿をしているように見えるが、実際にはアビスへの転送を待つ魂だけの存在である。
下位世界がアビスへ統合されるとき、下位世界の知的生命体の肉体はアビスの環境に適合できない為、破棄される。その為、アビス用に新たな肉体を用意する必要があるのだ。
そしてそれには、アビスの世界で生息している種族を選び、個人の資質に応じた能力を付与することになる。
アビスは地球では比較にならない進んだ科学技術を持ち、かつ魔法も存在している。そして魔法と科学が融合した魔道技術により栄えている。果てしない世界統合により総人口は兆どころか京単位である。流石に創造神が直接手掛けた世界なだけはある。スケールがでかい。
まるでゲームのように個人の資質によるがクラスやスキルもあり、アビスにおける構成情報――新たな肉体を用意するのはまさに、ゲームのキャラクターメイキングといっても過言ではないのである。
そしてアビスにはゲームでいうモンスターの様な扱いの生命体もいる。不定期に下位世界が統合されることで、大規模な勢力が数多あり鎬を削っている。
信じがたい気持ちはあるが、目の前に差し迫っている事実を鑑みると、キャラクターメイキングで俺たちの命運がきまるのは確定事項だ。
前置きはこれぐらいにて、肝心のキャラクターメイキングに関する重要な項目は次の通りだ。
・アビスシステム起動時の生活集団単位で肉体の再構成を行い転送される。
・アビスの基礎知識や最低限の衣装・武具・道具は付与され、転送先はランダム。
・決定しなければならない情報は、名前、種族、陣営、クラス、能力値、スキル、魔法。
ゲームではよくある感じだ。尤も、だからといって本当にこれまで見知ったゲームと同じであるという固定観念で決めつけ、舐めてはかからないが。
「他にもあるが、実際にキャラクターメイキングをしながらでいいだろう」
「そうね、時間はあまりないし、並行してやりましょう」
おさらいをしたところで、俺たちはいつの間にか傍に出現していたコンソール端末――まるでタブレットだ――を見ながら、キャラクターメイキングを始めた。
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