14-2.ミーアの事情
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それから俺たちはミーアの事情を聞いた。簡単に要約すれば、ミーアの固定パーティーがとある理由で解散し、ミーアと仲の良かったメンバーが単身ダンジョンの奥地に向かって以来、二日間戻ってこず音信不通なのだそうだ。
かといって、一人でダンジョン探索するにはミーアだけでは心許無い。その為、便乗できるパーティーが無いか、食堂で朝から張っていたそうだ。
「で、そこへ俺たちが都合よくそのダンジョンの踏破を目標にしていることを知った、と」
「そうよ」
「あらあら、それは不運だったわねぇ。それなら、納得だわ。それで、貴女は何が出来るの?」
俺がそういう事は隠さず最初っから言えと態度で示すと、ミーアは悔し気な顔をする。恐らく、責任感の高い彼女は自力だけで友人を助けたかったのだろう。
まぁ、事情は同情できるが、俺に八つ当たりするなよ。仏の顔も三度までって知らないのか? アビス生まれなら知らないか。
「はい。先ほどのお二人のお話から察するに、問題はユニーク個体への火力担当が居ない事ですよね?」
話してみなさいと自分から言って来たくせに、しっかりと盗み聞きをしていたミーアは、的確にこちらの悩んでいたことを確認してくる。
俺が内心の苛立ちを消化する事に専念していると、グレースとミーアの二人で話がどんどん進んでいく。
「えぇ、そうよ。私たちは、主人のリアムがタンク、私がヒーラー兼ソーサラー、精霊騎獣のソルが中衛、シルビアが天使担当ね」
「て、天使担当……」
「えぇ、そうよ。ミーアちゃんはご不満?」
「い、いぇ! ありません! シルビアちゃんは天使です!」
「えぇえぇ、そうよね。シルビアちゃんが天使以外に見える人なんて、産業廃棄物にも劣るゴミだわ」
「ひ、ひえぇぇ」
何やら話が不穏な方に脱線しかけているようだが、俺は今空気になるべき場面だ。そうに違いない。火の粉は降りかかる前に避けるべきだ。
「それで、ミーアちゃん。もう一度聞くわ。貴女が出来ることは?」
「はい。私は、安定した火力としてユニーク個体の討伐には加わることは出来ません」
「えぇ、そうでしょうね。どう考えても、貴女のクラス構成はスカウト系でしょうから」
「その通りです。私の冒険者ランクは四百強ですが、ほとんど偵察や探索の実績で積み上げてきました。勿論、直接的な戦闘力もあると自負しています」
キャリアのある一般的な冒険者たちの平均が三百台であること、ミーアの若さを踏まえれば、十分優秀な能力を持っているのが分かる。
「それで? スカウトの貴女が、どうやってユニーク個体に対して助力ができるの?」
「それは、グレースさんは既にお気づきかもしれませんが……暗殺術です。魔法生物や精神生命体といった様な相手であれば通用しませんが、今回のユニーク個体の魔獣の様に肉体依存の生命体には非常に有効です」
「えぇ、予想はついていたわ」
え、そうなの? 俺、ミーアに全然興味無かったからから、気付かなかったよ……。流石グレース。頼りになる。
胸部の兵器の存在が隠蔽されたままなら、恐らくミーア自体の記憶がそのうち薄れて消えてしまっていたことだろう。
「けれど、一つ質問させてね? 確かに魔獣に暗殺術は有効と言われているけれど、それは能力の相性が良いという前提の筈。今回の相手に、貴女の能力は本当に相性が良いのかしら?」
これは、アビスシステムに付与された情報に含まれている。暗殺術は一撃必殺というメリットと引き換えに、術者と対象者との相性が非常に重要となる。
生命体としての格が違っても通用しないし、種族特性や自然元素の保持属性のバランスなど、ありとあらゆる事象が相性として必要になる。
そしてその相性を戦闘中に確かめるような時間など、普通は存在しない。
事前に情報を調べつくして暗殺可能な術者を選ぶからこそ、暗殺は成り立つのだ。殆ど遭遇戦が基本となる冒険者にとっては非常に使い勝手の悪い能力である。
今回、俺たちの懸念であるユニーク個体との相性が、果たしてミーアと合致するのかどうか。そんなことを戦闘しながら調べる時間も当然無い。
なのに、ミーアの自信を隠さない態度が、腑に落ちない。グレースが気にするのも自明の理だ。
「はい。他言無用で願いたいのですが――ありがとうございます。私には『乾坤一擲』という固有スキルがあります。能力は――」
俺たちに他言無用の了解を得たミーアが俺たちに語ったのは、衝撃の事実だった。
固有スキル。種族あるいは個体が生まれ持つ能力。一般的な能力を固有スキルとして生まれてくる者も居れば、今回のミーアの様に非常に強力な性質を持った能力を持つ場合もある。まさに神より与えられるスキルだ。
ミーアの固有能力名は、乾坤一擲。その名の通り、運命のサイコロを神に委ねるもので、極めて強力――いや、凶悪な能力だった。
なんと、三か月に一回限り、どんな相手でも確実にどんな一撃でも有効にする能力。この能力と併用すれば、三か月に一度は通常であれば暗殺術自体が通用しない相手であっても、確実に暗殺できるという事だ。そう、例え不死の能力を持つ者が相手だったとしても。
決して、このことは世に出回って良い情報では無いだろう。露見すれば確実に抹消される。あらゆる存在に対するジョーカーとなり得るのだから。
ちなみに、自分のICカードを通じて自らのステータスを必要な個所だけ開示する事ができる為、ミーアは俺たちに乾坤一擲のスキルを所有していることを見せてきた。嘘はついて無い。
ここまで聞いたころには、俺もミーアの態度について苛立つ気持ちも消え失せ、真剣にグレースと一緒に彼女と向き合っていた。
「まぁ、事情は分かったし、ミーアが俺たちに必要な能力を持っていることも分かった」
「それじゃあ!」
俺がそこまで言うと、ミーアが目を輝かせて身を乗り出してくるが、手を上げて止める。
「まぁ、待て。最後に俺からも一つ」
「な、何よ?」
途端、不安げになるミーア。
「俺たちに隠し事は、していないか?」
俺の質問にミーアは一瞬耳が動いたが、堂々と胸を張って答える。
「このミーア・フロイド、恥じる事は無いわ!」
「――そうか、分かった」
まぁ、本人が話したくなればで良いか。今のところ害は無さそうだし。
ちらっとグレースを伺うと、俺と同意見の様で軽く頷いている。
「それじゃあ、歓迎するぞ、ミーア。助力は素直に助かる」
「ふふん、ユニーク個体は私に任せなさい!」
「ふふ、宜しくお願いね、ミーアちゃん」
「はい、グレースさん!」
はぁ。まぁ、いっか。これで、いよいよ俺たちのダンジョンデビューが決まった。
向かうはローラン近郊で最大の、魔の森と呼ばれるダンジョンだ。