11.戦闘教練 その一
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「うぉらぁ! アース・ノヴァ! いくぞぉ!」
「お、おぉ!? く、厄介な!」
講習会場に響き渡る野太い掛け声を挙げたドーランは、振り上げていた両手斧を足元へ強烈に叩き付けた。その強烈は一撃な指向性を持って地面を揺るがし、リアムの態勢を崩すほどの衝撃を伝えた。
その隙をついて、再び両手斧を担ぎ上げたドーランは一直線にリアムへと間合いを詰め、振り下ろす。
「あぶねっ、パリィ!」
態勢を崩されているリアムに回避する術はなく、苦肉の策として戦士系クラス基本スキルである、パリィ――受け流しスキルを発動し、大剣でドーランの両手斧を脇に流す。
しかし、無理な姿勢で行った為に十分に衝撃を殺しきれず、少なからぬダメージをリアムは負ってしまう。
「この、馬鹿力がっ。 アイスチェイン! ――デス・ストライクッ」
「ふははは、甘い! スーパー・アーマー! ふんっ!」
「うぉ! なんて出鱈目な奴だ」
何とか反撃の隙を作るべく、即座にリアムも態勢を立て直してアイスチェインでドーランの敏捷性を落とし、脇へ素早く回り込むと追撃の一撃を加えた。
しかしあろうことか、ドーランはものともせずにカウンターを仕掛けてくる。
これには驚いたリアムだったが、自分から飛ぶことで威力を殺し、再び二人は少しの距離を置いて向かい合うことになった。
「ほぉ、今のを受けるか。それなりには使えるな」
「今の動き、さっきの攻撃、戦闘スタイル――あんた、バーバリアンか」
「おう、大正解だ。きちんとヒントを見逃さなかったようだな」
ドーランが両手斧の構えを解いたのを見て、俺も慎重に大剣を降ろす。
このおっさんなら、戦場で油断に誘われるとは何事か! とか言って、不意打ちしてきそうだからな。一応、警戒しておく。
ドーランが言うように、あれほどあからさまにスキル名を叫びながら、攻撃の合間合間に必ず一呼吸いれた戦い方をしていれば、誰だってわかるだろう。
何せ、これは教練なのだ。突然襲ってきたように見えても、それは何かを教えるためにしていることなのだから。
今回のこれは、相手のクラスを戦闘中の情報から冷静に導き出せるか、俺の器量を計っていたのだろう。無事、合格ラインは越えていたらしい。
「――食えないおっさんだ」
「ふははは、誉め言葉として受け取っておこう。ひとまず、合格だ」
「そうかい、それはどうも」
まぁこの強面と巨体で襲い掛かられたら、誰でも本気で抵抗する事になるだろうが。あれは素でビビったぞ。
「さて、前座は終わりとして――お嬢さん。あんたの番だ」
そう言ってドーランが次に目を向けたのは、シルビアを連れて退避していたグレースだ。
「はい、宜しくお願い致します。あなた、シルビアをお願い」
「あぁ、がんばれよ」
「ママ、がんばってね!」
「ふふふ、ありがとう」
グレースも予想していたのか、俺にシルビアを預けると既に準備を終えていたらしく、自然な流れでドーランの前に向かう。
「その意気や、良し。あんたは……クリスタルエルフ族か。ちと見ない種族だが、凡そはエルフ系と同様だろう? 遠距離でやるか?」
「はい、ご推察の通り、クリスタルエルフ族です。近接戦闘型の精霊騎獣を召喚できますが、居なくても戦えます」
「ふむ……武器は弓か。なるほど。良いだろう、精霊騎獣を呼びなさい。全力で来い」
ドーランはグレースの戦闘スタイルを確認すると、精霊騎獣を呼ぶように促した。恐らく、二対一となっても圧倒できる自信があるのであろう。
尤も、それぐらいの力量でないと、そもそも戦闘教練の教官など務まらないだろうが。
「わかりました。『ソル、来て』」
「うぉーん!」
グレースに呼ばれて多種多様な魔法陣が浮かび色とりどりの光があふれて暫くすると、光が徐々に輪郭を形作ってソルが現れた。
「中々呼べなくてごめんなさいね、ソル。力を貸して?」
「おん!」
ソルを撫でながら声を掛けたグレースに、久々の登場に張り切ったソルが威勢よく返事をする。
「ふははは、元気な精霊騎獣だな。うむ、良い信頼関係を結べているようだな。では早速――始めよう」
「はいっ! ソル!」
「うぉん!」
グレースたちの準備が整ったとみるや、ドーランが戦闘開始の合図を出し、両手斧を構えて武威を放ち始めた。
即座に反応したグレースたちもまた、ドーランに対してソルを前衛、グレースを後衛とした布陣を整えて、向かいうつべく構える。