幕間01.金城 武(22歳)の場合
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よぉ、俺は金城武、22歳だ。世間一般ではニートと言われているが、俺は他の奴らとは違う。何故なら、俺はやる気をだしていないだけだからだ。本気を出せば優秀な俺の頭脳は期待を裏切らず社会で活躍することだろう。
それに、自宅警備員だけをしているわけでもない。しょっちゅう外に出ている。主に行き先は俺の推しメンであるアイドルがやっている握手会などがメインだ。鼻息の荒いオタクどもを万が一がないように奴らに混ざって警備するのが俺の仕事。彼女の安全に一役買っている、縁の下の力持ち。それが俺だ。
今日も今日とて、彼女の握手会で列に並びつつ、無作法者が出ないか目を光らせている。もしルールを守らず彼女に迷惑をかけるものがいれば、俺の必殺技である張り手が炸裂することだろう。俺は力士を目指していたこともあり、体格を活かした一撃はこんな打たれ弱いオタクどもは一発なこと請け合いである。
【管理番号WX02A、通称『地球』が、第六位世界規定個体数を達した事を確認。統合処理を開始します】
あぁん? 突然なんだ? サプライズイベントか? いや、そんな予定があるならもっとスタッフが――。
突然の声に周囲を見渡すと、同じようにキョロキョロしているオタクどもとスタッフが目に映った。いや、お前らが驚いたらサプライズにならないだろう、無能スタッフ共!
それが、俺が地球で考えた最後の内容だった。
――気が付くと俺は、ただっぴろくて白い空間に一人で突っ立っていた。なんだ? ここは。
『おめでとうございます、アース人の皆さん。あなた方の世界地球は根源世界アビスへ統合されることとなりました。つきましては、構成情報を再構築し、転送処理を行います』
また、あの声か。そうか、これは――あれだな。
『再構築に際し、必要となる事前情報および転送先の世界に関する基礎知識をアタッチします』
――ぐっ、おっ。これは、強烈な痛みだな。もう少し穏便にできないものなのか。だがこれで、はっきりとした。
これは、異世界転生だ! いや、赤ん坊からやり直すわけではないから、転移かな? まぁどちらでもいい。大事なのは、俺が自分でキャラクターメイキングを行えることだ。
向こうの世界は弱肉強食。地球のころの様に能力を隠していては生き抜くのが厳しいだろう。ここは、俺の全能力をフルに活かす場面。俺は、本気を出す。
にしても、これは大体の奴は家族単位で転送されるんだろう? 俺はどうして一人――あぁ、親愛度も重要なのか。両親にとって俺はもはや子供として思えていなかった、と。なるほどなるほど。
まぁ、あんな典型的なレトロな両親、こういう場面では足手まといになるだけだし、むしろ良かったのかもな。いくら俺が実力者だとは言え、大人二人の子守をするなんて真っ平ごめんだ。ここは前向きに考えようではないか。
さてさて。あんな薄情なやつらの事はほっといて、本邦初公開! 俺様の完璧な器を用意するキャラクターメイキングの時間だ!
まず、種族は不老不死あることが前提だな――結構、多いな。でも、なんだ? 虫系やら悪魔系のヒト種ばっかだな。見た目グロい奴バッカじゃん。じゃあ、あれだ。ここはオーソドックスにエルフ系にしよう。んでもって、ハーレム必須だから精力絶倫な種族にしよう。
ん~、俺が選べる不老不死のエルフ系は一つだけか。カースドエルフ。呪われてんじゃん。大丈夫なのか、これ。えっと、なになに――。
ほほー、やはり神はアビスの世界でも実在するのね。んで、嘗て太古の昔に反逆した種族、と。そらぁ天罰だわな。多少の差別は現在も残ってるが、能力は十分強いし絶倫。毛嫌いしてる国には行かなかったらいいだけだろう。強いし、決まりだな。
所属勢力は一択だ。アビスで唯一性奴隷が購入できる国、自由の国アザロン。ここで間違いない。闘技場もあるし、強さがあれば成り上がるのは容易な国だ。俺にとっては朝飯前な事。これはもう、俺TUEEEハーレム待ったなしだな。
こうして俺は、キャラクターメイキングを終えてアビスへと転送された。
よしよし。きちんと設定どおりに身体は作られているな。カースドエルフだからか少し線が細すぎるが、これから鍛えていけば十分魅力的なボディに仕上げることができるだろう。
今から、俺の新しい人生が、いや! アビスにおける、伝説の英雄の誕生物語が、今はじまるのだ!
「お、草原スタートか。アザロン近辺の草原は一つしかない。となれば、向かうのは――ぷぎゃ!」
――俺の意識は、突然闇に落ちていった。そして、二度と目覚めることはなかった。
「んぅ? 何か踏んだか? まぁ、俺に気づかない間抜けな奴なんか、どうでも良いか」
俺は、ウィンドジャイアントとしてアビスの世界に転送された。風の巨人だ。生身の肉体を持たず、風で身体が構成されている、非常に大きな種族だ。この身体は風で出来ている割には、結構な質量がある。ぱっと見では透明だし、初見で俺と戦闘するのは非常にやりづらいことだろう。
俺のモットーは、簡単に踏みにじられない様にしつつ、目立たず生き抜く事だ。基本的に巨人族は他のヒト種からは襲われづらい。そもそも身体の大きさは非常に大きなアドバンテージだからな。それに俺は発見されづらいし、いざとなれば文字通り風となって逃げることもできる。完璧だ。
アザロン近くの草原に転送された俺は、進行方向を決めると一歩踏み出した。その時、小さい種族の誰かを踏みつぶしてしまったようだ。いくら俺が風の体と言っても、見えないわけではない。その大きさと質量から、音もするし近くでは振動もある。これに気づかない間抜けなんて、どうせこの先生きていけないだろう。まだ辛うじて息はあるようだが、無視で問題ないな。さっさと行こう。
「にしても、カースドエルフか。神国の関係者に知られると確殺される種族を選ぶとか、阿保だな」
神国の関係者は神に逆らった種族を決して許しはしない。見知ったりすれば、地の果てまで追手がつきまとってくる。そして、今まで存在が発覚して無事に逃げ切れた反逆者は、カースドエルフだけではなく他種族も含めて、存在しない。
「自分だけは大丈夫、とか頭に虫の湧いた奴だったんだろうな。恨むなら自分の出来の悪さを恨め。じゃあな」
風の巨人が去ったその場には、時折思い出したように痙攣する一人の男の姿があったが、しばらくするとその痙攣も収まり、二度と動くことは無かった。
カースドエルフは元来不老不死の種族だが、神に反逆した呪いによって、不死の能力を無効化されてしまっている。その事に彼が気づくことがあれば、この結末は免れたであろう。
不死能力が無効化されたからこそ、生存本能により種族の系譜をより増やして生き残らせる、絶倫体質へと変化して行ったのです。
表面的な情報だけで完璧と考えられてしまう浅慮が、彼の凡愚ぶりを強調していますね。
当然、主人公たちはこういったデメリットもシステムのサポートを併用して自分達で調査したうえで、種族を選んでいます。
与えられた情報を活かすも殺すも、その人次第ですね。