09.第四級都市ローラン
ブクマ・評価ありがとうございます。
「お、おぉ」
「あらあら、これは本当に……凄いわ」
「うわぁ! おぉっきいぃ!」
「おやおや、皆さん。我が国の都市をお気に召して頂いた様で何よりでございます」
ニグニさん達に同行させて貰った俺たちは、第四級都市ローランと呼ばれるらしい街に到着。街に入るための手続きをする為、俺たちはニグニさんとミーアと一緒に一般人用入場ゲートに並んでいる。
アビスに来て初めて見た都市に俺たちは、驚きを隠せずに口をぽかんと開けて、唯々呆けてしまっていた。シルビアに至っては大興奮で飛び跳ねている。
俺たちがそんなに驚くのが珍しいのか、ニグニさんは俺たちの様子に若干引いているようだ。失礼な。
「おじさん、そんなに驚くこと?」
「知ってはいても、実際目の当たりに違うと想像を絶するスケールだな」
「えぇ。地球――アースでは空想の世界でも考えられないことだわ」
「ふぅん。そうなんだ」
ミーアは俺たちのそんな様子に不思議そうに聞いてくるが、これに驚かないアース人は心が死んでいる奴か、元から欠けている奴に違いない。何せ、俺たちの目に映っているローランの街並みは、まるで俺たちが虫になったかのような、巨大なスケールが広がっているのだから。
俺たちのいる一般人用入場ゲートは近未来的な建造物や魔導機械が設置されていて、確かにこちらも心躍る光景ではある。しかし、まだ想像の範囲内のスケールだ。
問題は、この入場ゲートが設置されている街壁が東京タワーなんか比にならないぐらい、間近にいると天辺が見えないほど巨大であることだ。しかも地上二、三十メートルほどまでは黒色なのだが、それより上は透明度の高い何かで造られていて壁の向こう側、つまり街中が見えるというファンタジー。いや、魔導関連かもしれないからSFか?
そしてその街中がさらに大問題だ。入場ゲートから都市中心部に向かって基幹道路が走っているそうなのだが、その横幅がまずとんでもない。東京ドーム十個は余裕で入るんじゃないか? 俺たちがいる入場ゲートがあるのとは反対側が殆ど霞んで見えている。
幸いにも、入場ゲート近くの道路沿いに並んでいる建物はデザインこそまさに色とりどりだが、地球でも良く見る高層ビル程の高さしかない。なんかほっとする。
まぁ遠くに見える――つまりは街の中央に行くにつれ、天を衝くかのような建造物が多くなっていく訳だが。あの一際高いのなんて行政機能を持つ街の中核らしいのだが、雲を突き抜けているんじゃないか? と見紛う程だ。
そして駄目押しとばかりに、衝撃の事実ではあるがこのローランは農業を専門としている為、モリアス王国内ではかなり小規模な精々三億人程しかいない地方都市らしい。さらに、俺たちがいる付近はあくまでも一般人用エリア。つまりは、身長が数十メートル以上もあるタイタン族やさらに大きい種族などにあわせ、それぞれ入口も生活エリアも異なるそうだ。
え? 三億人の街がド田舎で、今見えているのよりビッグな街並みがあるの? え、だから街壁の端が見えないの?
これはもうポカーンするしかないのである。アビス出身のミーアにはこの気持ち、欠片も分かるまい。というか、王都とかもはや想像するだけで恐怖である。
「では、私はこれで。ミーアさん、リアムさん達のことよろしくお願いしますね」
「はい!」
ニグニさん達は業者用のゲートを通らなければならない為、俺たちとはここでお別れになる。勝手がわからない俺たちを気遣って、ニグニさんは案内にミーアを付けてくれた。とても助かる。知識として与えられていても、それはただ知っているだけ。
ここまで良くしてくれたニグニさんに、落ち着いたらしっかりとお礼しないとな。尤もお偉いさんだから、俺たちがお会いできるかどうかすら微妙だが。
「ありがとうございました、ニグニさん。このお礼はまたいずれ、必ず」
「えぇえぇ、構いませんとも。それでは、またお会いできるのを楽しみにしております」
俺たちはニグニさんと別れの挨拶を交わすと、ニグニさんは業者用ゲートの方へ向かっていった。
「おい! あんたら前進んでいるぞ」
「あぁ、すまない。ありがとう」
そうこうやっているといつの間にか列が進んでいたらしく、後ろの人から注意されてしまった。申し訳ない。
列自体は結構な人たちが並んでいるのだが、受付が複数並んでいることもあり、かなりスピーディーに列が進んでいく。
俺たちもそれから数分ほどで受付まで進むことができた。受付は、まるで駅の改札の様になっている。警備員は近くにいるが、入場自体はゲートにIDカードを翳せばすんなり通れる様だ。
与えられた知識によると、通過時にボディスキャンされ、危険物などがあれば即座に拘束される。自衛用の武具自体は危険物扱いとはならず、大量破壊兵器に使用できる魔導具や禁制品などが主なチェックの対象だ。
「俺たちはまだIDカードがないから、有人ゲートに行けばいいんだよな」
「えぇ、そうよ! あっちのゲートがそうね」
「わかった、いこう」
俺がミーアに念のため確認すると、ミーアが俺たちから見て右端のゲートを指差す。確かにあそこに人がいるな。俺たちは入場手続きの為にそちらに向かう。
「ようこそ、ローランへ。如何致しましたか?」
「この人達は異邦人なの。お願いできるかしら?」
「おぉ! ごほん。承知致しました。では――はい、結構です。こちらのタグをご使用下さい」
俺たちに気づいたらしき普人族の女性が声を掛けてきた。ミーアは俺たちが異邦人であることを告げる――お前、丁寧語使えるじゃねぇか――と、女性は驚いたがすぐに業務を再開する。好印象である。
女性の指示に従って俺たちは諸々の手続きを終えて、一時貸与されるタグを受け取る。正式なICカードを手に入れるまでは、これがゲストカード代わりだ。
「ほら! 皆受け取ったわね? 行くわよ!」
「はいはい、案内よろしくな」
「ほら、シルビア。ママと手をつないでいきましょうね」
「うん!」
俺たちはなぜか鼻息荒いミーアとともにゲートを通った。
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