00.世界の終わり
ご無沙汰しております。
輝石の騎士は筆休め中です。すみません。
気分転換に新連載書き始めました。
輝石の騎士共々、気長に末永くよろしくお願いします。
西暦20XX年某日。アフリカ大陸辺境の農村の、ある農家に男児が誕生したまさにその時が、地球の総人口が100億人となった瞬間である。そしてそれは――
【管理番号WX02A、通称『地球』が、第六位世界規定個体数を達した事を確認。統合処理を開始します】
【アビスシステム接続良好。全被転送体の活動を一時停止、構成情報をバックアップ――完了。非転送体の構成情報をシステムへ還元――完了】
【構成情報の送信準備――完了。転送先へ送信許可要求――承認。管理番号WX02Aを永久欠番として登録――完了】
【全被転送体の構成情報を再構築――完了。転送を開始――完了】
【管理番号WX02Aを破棄――完了】
――世界が終わった瞬間でもあった。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
意識が覚醒し、目を開く――いや、元々開いていた。ただ、まるで一瞬で眠りに落ちたように、意識が飛んでいただけの気がする。
焦点があってきた目が捉えたのは、果てしなく広い真っ白な空間。周りには、誰も――いや、違う!
「おい、大丈夫か恵! 詩織!」
何もないように見える白い空間の中で、近くで座り込んでいる人物が二人。少し離れた場所には犬が一頭蹲っている。
「え、えぇ……大丈夫よ、あなた。――詩織は!?」
声を掛けられて暫くは茫然としていた女性は、意識がはっきりしてくると焦ったように声をあげた。
この女性は俺――進藤拓馬の愛妻、進藤恵。そして、詩織とは俺たちの愛する一人娘のことだ。
「恵、大丈夫、ひとまず深呼吸して落ち着いて。詩織は隣で寝ているよ」
人間、焦っている人を見ると却って落ち着くものだな。冷静になった俺は、妻の隣で横になって寝ている詩織を抱き起していた。
「あぁ、良かった。ありがとう」
「いや、いいさ。俺は一足先に目が覚めただけさ」
健やかに寝息を立てている娘を見て、一息つくことができた様子の恵。焦っていてもいいことはない、落ち着けて何よりだ。
「にしても、ここはなん――なんだ!?」
俺が溜息をつきながら愚痴を言いきる前に、まるで感情を感じられない無機質な音声が響き渡る。
『おめでとうございます、アース人の皆さん。あなた方の世界地球は根源世界アビスへ統合されることとなりました。つきましては、構成情報を再構築し、転送処理を行います』
「は? アビス? 再構築? な、なんだ……」
まるで意味が分からず混乱する俺をよそに、その無機質な声は白い空間に響き続ける。
『再構築に際し、必要となる事前情報および転送先の世界に関する基礎知識をアタッチします』
その言葉が終わった瞬間――
「ぐ、あぁ!!」
「きゃああ! なに! なにこれ!」
――今、俺たちに起こっている事、これから起こることを理解するのに必要な情報が、激流の様に脳内を駆け巡る。
それから何秒なのか何分かわからないが、激痛が去った時には俺たちは今、現状どういう状況にあるかを理解していた。
「――つぅ……いてぇ。付与って、こういうことか。まぁ……現状は分かったが、信じられんな。いや、真実なことも理解しているが、心情的に」
思わずそんな言葉が口からこぼれる。理解はしても、いや、させられても、気持ちとしてはすぐには受け入れられない。
「え、えぇ……そうね。あっ! 詩織は――良かった、意識が無かったから痛みは感じなかったのね、良かった」
恵もまだ焼き付けられた情報に酔っているようだったが、詩織が痛みを感じることなくやり過ごせたのを確認して、ほっとしていた。
『全アース人への付与を完了。付与した情報を基に、これより24時間以内に構成情報を構築してください。未構築のまま時間を迎えた場合、システムで自動処理されます。では、開始してください』
「うぉ、せっかっちだな! まぁ、仕方ない。恵、まずは急いで付与された情報を整理しよう。まずはそれからだ」
俺が苦笑しながら恵に声を掛けると、恵は詩織を膝にのせて寝かせながら返事をする。
「そうね。それがいいと思うわ。詩織はこのまま寝かせておきましょう」
「あぁ、詩織に関しては俺たちで決めてやればいい」
恵の言うように、俺たちの場合、詩織自身は構成情報とやらを決めることができない。その為、現状では状況を整理するためにも、このまま寝てもらっていた方がいいだろう。
「では、始めましょうか」
「おう」
そうして俺たちは、転送先世界における自分たちの構成情報の構築――所謂、キャラクターメイキングを行うこととなった。