第9話「かつ丼で少しアツいです」
ランチタイムを過ぎた時間帯、デザートセットの売り上げは好調でも店内ががらんとするのはいつものことだ。
むしろ混みごみしていなくていいと、従業員の俺と可愛い、可愛いカフェ『グランデ』のオーナーであるミイニャは思っている。
今日はもはや常連客である小さなちぃちゃんは家族旅行のためカフェには訪れない。
文字通り二人きりの時間が流れている。
この前は生姜焼きを作り、ミイニャに好評だったので、またご飯がより美味しくなるお料理を作ろうと先ほどいろいろ買ってきた。
「今日も夕食は俺が作ってあげよう」
「ふふふ、私はなんて幸せなんでしょう。優斗君のお料理は味もさることながら、幸せをくれますね」
「そう言って貰えると作り甲斐があるぜ。ミラ家の畑からねぎ菜っていう混合野菜を取ってきた」
混合野菜とはこの世界特有のもので。ねぎ菜とはねぎと菜っ葉が合わさったようなもので、俺が居た世界の物より、味もより美味しくなっていると感じている。
「ねぎ菜、色んなお料理に使いますね。特にお鍋とか」
「鍋に入れると美味しそうだが、今は春だから鍋物は熱いからな。冬場になったら作りたいな。今回は丼物にしようと思う」
「丼物? というと……」
「ご飯の上に乗っけて食べるんだよ。味が染みて食が進むんだ」
「なるほど。聞いただけでも美味しそうです。では私がご飯を鍋で炊きましょう」
「頼む」
俺は市販されていた豚肉に切り込みを少し入れ、少し叩いたのち塩と胡椒で味付け、薄力粉につけて、卵をまんべんなくつけ、その上にパン粉を付け、少し馴染ませておく。
かつ丼用と明日の朝にミイニャが食べられるようにとんかつにしておくから、3枚高温の油で揚げる。キツネ色になってきたら取り出せばOK。
包丁を入れた時、サク、サクと衣の音がすれば美味しく上がったと俺は判断している。
「うわ~、確かに白米が進みそうないい匂いが」
「このままだととんかつで、これはこれはで凄い美味いけど、これを丼にするんだ」
「なるほど。優斗君が好きなら、私も作り方を覚えます」
「……油で揚げるのは危ないから気を付けろよ。ほんとは玉ねぎを使うけど、今回はねぎ菜で代用。タレは俺甘いのは少し苦手だから、辛めの方が好きだ。だしの素入れた方が上手いぞ」
かきかきと俺の言葉にメモを取る。
「卵が完全に固まらない様によくといた卵を半分最初に入れて、ひと煮立ちしたあとに残り半分のといた卵を回し入れて火を止める」
「おぉ、美味しそうです」
「あとはこれを炊きたてのご飯に乗っければかつ丼の出来上がりだ」
湯気が上がっているご飯の上に、乗っける。
☆ ★ ☆
アイスティとかつ丼がまだ少し早いけど、今日の夕食。
ミイニャがそれをパクリと一口食べる。
「美味しい……優斗君はやっぱり料理が上手です」
「まあ俺、ミイニャに食べてもらいたいと思って作ったからな」
「というと?」
「料理は作った人の気持ちが味に出ると思ってるからさ。一生懸命、食べてくれる人のことを思って作ればその気持ちが味に出るんだよ」
「……なんてカッコいいお言葉。私も今度から肝に銘じます」
「いや、ミイニャは無意識でもちゃんとできてるよ。ランチメニューが成功しているのは、ミイニャが一生懸命作ってるからだ」
「勿体ないお言葉です。優斗君、好きです」
「えっ……おお、ありがとう」
「好きです」
「いや、二回言わなくても聞こえたよ」
「そうですか……」
ミイニャはぽっと顔を紅く染めた。
今日のカフェ『グランデ』は少しアツアツです。