第5話「ブラック珈琲を飲めないお子様な2人」
テーブル席でケーキセットを頼まれたお客様が席を立ち、お会計へ。
「ケーキも珈琲もほんとに美味しかったわ。落ち着くし、また来ますね」
「ありがとうございます」
俺とミイニャはお礼のことを口にする。
☆ ★ ☆
お客様が帰った後、カップと食器を下げ、テーブルを拭いてカウンター何に戻ると、ミイニャは何やら物思いにふけっていた。
「どうしたよ?」
「いえ、先ほどのお客様たち、ミルクとシュガーを使っていないなと思いまして……」
「ブラックで飲んだんだろう」
俺の言葉を聞いて、まさかそんな! みたいな驚き顔を作るミイニャ。
「優斗君、珈琲をブラックで飲めますか?」
「いや、俺はお子様だから。ミルクたっぷり、お砂糖たっぷり入れて飲むよ」
「ふっ、おこちゃまですね」
ミイニャは口元を緩め、にやけ顔に。
「お前、ブラックで飲めるのか?」
「いえ、飲めません。苦いのは苦手なので」
同じじゃないか。
「私たち、カフェ店員ですよ。珈琲豆や引き方にもそれなりに拘っています。ブラックは小さいころに飲んでみて、一口で激しい後悔をする羽目になりましたが……今なら……飲んでみましょうか?」
「うん……」
ミイニャが黒く見える液体をカップへと注ぎ込む。
香りは好きだ。何か落ち着くし、ただ苦いんだよな。
「どうぞ、お先に」
「一緒に飲まないのかよ。だいたい味見してない物を出してる時点で申し訳ないぞ。飲んでやる」
「ぐいっと一気に飲み干してください。私が淹れたんですからきっとおいしいです」
「いや、それ無理だと思うぞ」
少し口の中に入れ、飲み込んでみた。
「どうですか?」
「……苦い……苦い……」
「2回も同じことを連呼すると言うことは相当ですね」
ミルクを入れ、砂糖を入れ、スプーンでかき混ぜ、黒からキツネ色になる。
「やはり最初から入れましょう」
「待て、待て。一口は飲めよ。美味しいと思うかもしれない」
「では……」
ミイニャは恐る恐るコーヒーカップに小さな口を付け、意を決し喉に流すと……
見る見るうちに表情を変化させ、
「にがっ! 苦いです! 苦すぎです!」
耐えられなかったのか、俺が淹れてあげた牛乳を一気に飲む。
「はあ、はあ……ブラック珈琲、恐るべしですね。優斗君のようなお子様には飲めないんだってことがわかりました」
「なに自分を除外してんだよ、お子様。珈琲より、俺はカフェラテとかカフェオレの方が好きだな」
「激しく同意します。珈琲メニューから消しましょうか?」
「いや、それを求めてくるお客さんは数知れずだと思うから、残しておこう」
今日もカフェ『グランデ』はノーマル営業中です。