第4話「今日のおやつはシュークリーム」
ミイニャはグランデカウンター内のオーブンの中から焼けたばかりの生地を取り出す。
「シュークリームの生地は焼き固まってから取り出すことが重要です。そうじゃないきちんと膨らまず萎んでしまうので……」
「綺麗な焼き目がついてる」
「美味しそうですね。私も久しぶりに作りました」
「上にかけたアーモンドの香りもいいな」
「では、クリームつめていきます。生クリームとカスタードクリームを混ぜたものをディプロマットクリームっていいます」
「すげえ、よく噛まずに言えたな……デザート作りが得意だと男の子にもてるぞ」
「……口を動かさずに手を動かして、優斗君もクリームをシュー皮に包むのを手伝ってください」
今、一瞬恥ずかしがったな。ミイニャの性格、行動パターンがなんとなくわかって来たぜ。
クリームを入れ、最後に粉砂糖を振りかけ、手作りシュークリームは完成した。
ミイニャの顔には少し粉砂糖がついていて、その顔を見て俺はドキッとしてしまう。
☆ ★ ☆
相変わらずランチ時を過ぎるとガラガラな店内だが、ミイニャと二人でシュークリームのおやつを食べるのも悪くない。いやむしろ良い。
シュークリームにはカフェラテか紅茶で迷ったが、ホットの紅茶をチョイスする。
ティーカップに紅茶を注ぎ込んでいた時、外から叫ぶ声が。
「お姉ちゃんとお兄ちゃんのとこにいるの!」
「毎日、ご迷惑でしょ。今日はお家でテレビでも見てなさい。あっ、こら、ちぃ」
子供とお母さんの声。しかも聞き覚えが……
チャリンと鈴の音の後ドアが開き、いや音がした瞬間に俺たちは手を止め、
「いらっしゃいませ」
と、ほぼ完ぺきになりつつ挨拶を自然体で行う。
「お兄ちゃん」
駆け足でちぃちゃんは俺の元に来て、そのままくっついてくる。
「おう、ちぃちゃん。いらっしゃいませ~」
「すいません……どうしてもここに居たいようで……」
「いいんですよ。元はといえば優斗君が連れて来たんですから」
よく言うよ。ちぃちゃんが顔を見せないとそわそわしているくせに。
「すいません……じゃあ今日も2時間ほどお願いします。ちぃが食べたものはあとで清算しますので」
「100リルン。それ以上はいつも通り戴きません」
この世界はリルンって通貨らしい。100リルンは俺の知ってる常識で200円だ。
「ほんとにすいません! よろしくお願いします」
頭を下げて、ちぃちゃんのお母さんが出て行くと、
「今日はシュークリームを作りました」
ミイニャは満面の笑顔をちぃちゃんに向ける。
「チュウクリーム、ちぃ、好き。プリンと同じくらい」
「ふっ、そうでしょう。私の手作りですから、美味しいですよ」
「早く食べたい。牛乳くだしゃい」
ミイニャは言われるがまま、ミルクを用意し、ちぃちゃんの前にシュークリームを食べやすいように半分に切って出し、俺たちのにもナイフを入れる。
「いただきまちゅ」
パクリとちぃちゃんは齧り付くと、クリームでちぃちゃんの口の周りにつくが、そんなこと気にせず無邪気な女の子は、
「おいちい」
と、嘘のない感想を伝えた。
「当たり前です。私が作ったんですから」
ミイニャは嬉しそうに口元を緩め、自分もシュークリームを頬張る。
カフェ『グランデ』は今日もノーマル営業中です。