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第3話「お悩み相談はカフェ『グランデ』で」

「いらっしゃいませ」


 俺は入り口を見て、少し頭を下げる。カフェカウンター内でただいま絶賛挨拶の練習中。


「ダメです。まだ下げ過ぎですよ。あのドアベルがチャリンとなった瞬間に、いらっしゃいませ! 少し会釈します」


 そういえば最初に俺がこのカフェ『グランデ』に来た時、ミイニャは入ってきた俺を見ずにほぼ条件反射的に頭を下げていたな。


「はい、チャリ」


「いらっしゃいませ!」


 大きすぎず小さすぎない声で挨拶し、深すぎない会釈をする。

 ぱちぱちぱち。

 と、拍手が。


「完璧です。挨拶は大事です。入ってきたお客さんを逃さない様に、下手に出て席に着きやすいようにしなくちゃいけません」


 なんか怖い……


「ここカフェ『グランデ』ではお客様は神様ではありません。態度が悪いお客にはきちんと制裁を加えます。舐められちゃダメです。男の人ならセクハラは禁止です」


 やっぱなんか怖い……ミイニャにセクハラしたくなるお客さんの気持ちはわからないでもないが……


「優斗君、聞いてますか?」


「うん。挨拶大事な。セクハラはダメ、絶対な」


「そうです」


 チャリンと、音がした瞬間俺たちは、


「いらっしゃいませ」


 と、反射的に挨拶する。


☆ ★ ☆


「お好きな席へどうぞ」


 ご来店してくださったのは、20代後半くらいの女性で、少しきょろきょろして誰もいない店内にもかかわらず、俺の前のカウンター席に迷いなく腰を下ろした。


 なんか随分と疲れている感じがするな。

 時刻は2時20分。この時間に来ると言うことは、仕事は休みもしくは専業主婦さんかな?


「カフェは生まれ変わったのね。普通の喫茶に?」


「はい。優斗君がどうしても私と二人でノーマルカフェをやりたいというので、こちらがメニューになります」


「あら、可愛いイラストね」


 クレアのお手製イラストがまた褒められた。メニューの絵も手書きで子供にも受けそうな可愛らしい動物さんたちが、


「おいしいニャ」


 とか一言吹き出ししているからな。可愛いんだ本当に。


「私がイラストを担当したかったんですけど、優斗君がどうしてもクレアに書いてほしいと聞かなくて、折れました」


「あら、ミイニャちゃんの心を変えられるなんて、君ただ者じゃないわ」


 あれ、ミイニャのことをご存じなのか?


「小さいころからお知り合いなんです。ミラ家の近所にお家があって、たまに遊びに行ってました」


「なるほど。越谷優斗です。ぼったカフェは卒業しましたのでお好きな物をご注文下さい。今の時間でしたら、そちらのデザートセットがおすすめです」


「デザートセットなんてあるんだ。じゃあ珈琲ゼリーにグレープフルーツジュースにしようかな」


「かしこまりました」


 早速ミイニャと俺はカウンター内で作業を開始していると、


「ねえ、ミイニャちゃん……それと優斗君……ちょっと話を聞いてもらってもいい」


 来た! 


 誰もいないカフェにお悩みの女性の来店。ミイニャとアイコンタクトを取る。


(さすがのうんのよさだ。俺たちが望んでいたお客様到来)

(お悩みを解決できるカフェ。まずは最初のお客様です)


「ナツコさん、疲れた顔をしていますね。どうかしましたか?」


 コースター置いて、その上にグレープフルーツジュースをお出しして、ミイニャは目を輝かせる。

 そんなに期待した目で見るなよ。


「珈琲ゼリーです。少し苦めなので、お好みでミルクとシロップをかけてお召し上がりください」


「ありがとう……」


 俺たちはナツコさんがそれを食べている間、少しだけ待つ。


「美味しいわ。甘すぎなくて……自家製って感じで毎日でも食べたいくらい」


「ありがとうございます」


 俺とミイニャは同時にお礼を。


「やだ、二人とも。私の話そんなに聞きたいの?」


 無意識に体が突っ込み気味になっていた俺たちは慌てて姿勢を正す。


「ミイニャちゃんは知ってるでしょ。うちの双子の事……」


「ケン君とコウ君ですよね。6歳、7歳くらいでしたか?」


「うんっ。今年で7つ……ミイニャちゃんはマアニャちゃんと喧嘩ってしたことある?」


「ありますけど、そんなに数は多くないと思います。自分で言うのも何ですけど、仲がいい方です」


「はあ~、うちの2人とは大違いだ。毎日喧嘩してるんだもん。こっちの身が持たないくらい……どうすれば仲良くしてくれるかな?」


 ミイニャは真剣な表情を作った後、少し間をおいてから、


「アドバイスになるかはわかりませんが……あのう、ナツコさんがそうだと言っているんじゃないですけど……双子ってつい一緒に見られがちです。でも全然違う個性なんです。一卵性って特に顔が似ているから、周りの人は勘違いしているかもしれません……得意なことと不得意なことも違うんです。お姉ちゃんが簡単に出来ることを私は出来ません。私が出来ることをお姉ちゃんは出来ないこともあります。本人も自分の方が凄いんだって思いがちで、こんなはずじゃないとか小さいなりに思っていて……それで喧嘩になることもあると思います。小さい子って感情のコントロールが身についてないので」


「うん……」


「子育てって大変だと思います。特に双子さん……でも、愛してください。比べないであげてください。どんなに小さくても比較されていると子供ってわかります。旦那さんにも協力してもらわないと、やんちゃパワーでそのうち参ってしまいますよ……おほん、そんな時こそカフェ『グランデ』の私と優斗君が今みたいに愚痴でも相談でも何でも聞きますからね。吐き出しちゃってくださいね」


「ぷっ、ふふ……ちょっと笑わさないでよ。お店の宣伝!」


「いえ、味方がいるということで……」


「さすが双子本人の言葉は重いなあ。どうしても比べがちになっちゃうのよ。いけないな、それじゃあ……何か元気出てきた。ケーキも貰おうかしら? 何がおすすめ」


「今日はですね……」


 俺の出番はなく、ミイニャは来店したお客様の曇った心を少し晴らして上げられたと思う。話を聞いているうち涙もろい俺の目には水滴が溜まりつつあった。


 今日もカフェ『グランデ』はノーマル営業中です。

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