第2話「小さなお客様にはデザートを」
異世界カフェ「グランデ」のランチ限定新メニュー。
鱈とキャレスのオリーブパスタはびっくりするほど好評だった。
というより、閑古鳥が鳴くカフェに、どこからお客さんを呼び込めたのかと思ったら、カフェの責任者ミイニャの姉マアニャと、ミラ家で俺と一緒に使用人として働いているクレアが、俺とミイニャのわからないところで宣伝していてくれたらしい。
限定10食のパスタは11時半から開始のランチメニューだが、12時になる前には完売してしまった。
午後1時を過ぎ、店内が静かになったころから、ようやく双子姉妹の召使いの俺はカフェの従業員になれる(午前はミラ家のマアニャの召使い)
「お疲れさま。ミイニャ。よく一人でさばけたな」
俺はカウンター内で椅子に座っているミイニャの肩を揉みながら労う。
「疲れました。肩もみありがとうございます……でも、美味しいと言って貰えるのは嬉しいですし、何かカフェって気がして頑張れました。今からは優斗君が居るので、楽が出来ます」
「おう、ここからは俺に任せろと言いたいが……ランチの時間を過ぎると、あんまり人が来ないよな……」
「そうですね。ランチに一緒に出しているサラダもデザートもみんな完食で残している人はいませんでしたけど」
てことは、味には満足してくれたってことか。
「なあ、昨日ちょっと町を回ってみたんだけど、このアイルコットンって他にカフェは?」
「グランデの他にもう一件ありましたが、先月潰れてしまいました」
「みんな、カフェ嫌いなのかな? 飲み物やデザートにお金かけたくない、もったいないって考えが……」
「というより、来たくても時間がないんですよ。男女ともに昼間は働いていますからね。ランチの時間はお昼休憩で来てくれる人がいますが」
「なるほど……」
「あれだけランチに来てくれれば、優斗君と二人ならグランデはそれだけで黒字化できます。私のうんのよさもありますし」
「物は試しで、2時からはケーキセットやデザートセットを売りにしていこう。ミイニャが作ったスイーツは美味だった。来てくれた人に食べてもらいたい。もちろん、そんなに混みごみは望んでいないが……」
「優斗君のお好きなように。一応、冷蔵庫の中にデザートは作ってあります。ランチにつけているので……チーズケーキ、珈琲ゼリー、あとプリンです」
「俺が食べたいくらいだ」
「どうぞ。召し上がってください」
「閉店の時、余ってたらな。デザートづくりは、ミラ家の元メイドさんに習ったんだっけ?」
「はい。毎日違うおやつを私たち3姉妹に作ってくれて、どれも美味しいのでいつの間にか教わるようになって、作れるようになってました」
その元メイドさんに感謝しないと。カフェのデザートは無くてはならないものだろうと勝手に俺は思っている。
☆ ★ ☆
早速、外に出している看板に2時~はケーキセットなどデザートがおすすめですとイラストを添えて描いていると、小さな手に袖を引かれる。
「美味しそう……」
4歳、5歳くらいのボブカットのピンクの服を着た女の子が、俺の描いたケーキとプリンを食い入るように見つめていた。
「美味しいぜ。ママと食べに来てくれ」
その子はぶんぶんと首を横に振る。
「ママ、お仕事で忙しくて、ちぃ1人なの。このお店帰るときにはもう閉まってるヨ」
グランドの閉店時間は17時だからな……
「そっか……ママはどこで働いてるの?」
「お洋服屋さん」
ちぃって子はグランデの向かいの婦人服のお店を指さす。
お母さんらしき人がこちらに手を振っていた。
「えっとちぃちゃんだっけ? ケーキがそんなに食べたいか?」
「食べたいィ。プリン!」
ああ、プリンの方ね。
「じゃあちょっとお母さんが心配するといけないから、お兄ちゃんとお母さんのとこに話をしに行こう」
「うんっ」
☆ ★ ☆
「美味しい、プリン美味しい! いつも食べてるのより、全然おいちい」
ちぃちゃんはカウンター席で自家製プリンを頬張りながら、俺とミイニャにあどけない笑顔を向けた。
「当たり前です。市販でなく、自家製なんですよ」
ミイニャの言っている意味が分からないようで、可愛らしく小首を傾げる。
ちなみにミイニャの自家製プリンには、隠し味で塩が少しだけど入っているらしい。
「お姉ちゃん、綺麗」
「……当たり前です。あなたもかなり可愛いですよ」
ミイニャはちょっと照れてこっちを見る。
「まったく……張りきって、宣伝しに行ったのかと思ったら、こんな小さなお客様を連れてきて……しかも無料で提供するなんて。まあ、生まれ変わったグランデらしくていいですけど」
「だろっ」
カフェ「グランデ」は優しさと温もりに包まれているのです。