第15話「バレンタインは甘々トロトロ(特別篇)」
2月14日。そう今日はバレンタイン!
男の子の俺は、朝起きたときからそわそわしてないと言ったら嘘になる。
珍しくミイニャは俺より早起きしたようで、ベッドにその姿はなかった。
あくびを何度もしながら、マリ家の使用人の服装へと着替え、歯磨きをして顔を洗って、1階へのカフェ「グランデ」へと降りていく。
階段の下でミイニャは何やら嬉しそうに待っていた。
「優斗君、おはようございます」
カフェのウエイトレス姿のミイニャは笑顔を作る。
「おはよう、ミイニャ」
「今日は何日かわかりますか?」
「14日だな。この世界にもバレンタインの習慣があるのか?」
「もちろんです。大好きな気持ちを込める日、1年で女の子にとって1番大切なときだと言っても過言ではありません。これを受け取ってください!」
名刺サイズのカードを渡される。
大好きな、大好きな優斗君へ。
いつも傍にいてくれてありがとうございます!
私が毎日幸せなのは優斗君のおかげです。
日頃の感謝と、大好きな気持ちを込めました! 受け取ってください。
「……あの、ミイニャさん。受け取ってくださいってカードだけ?」
「朝から食べられないと思って、邸から戻る時間に合わせて、とびっきり美味しいカップケーキを作っておきます。カードだけどうしても最初に渡しておきたかったんです」
「そういうことか。じゃあ、楽しみにしてる」
「はいっ! 行ってらっしゃい!」
ぎゅっと俺の腰に手を回し、顔を俺の胸に埋める。
俺はその頭を撫でた後、午前中の仕事であるミラ家お邸に向かう。
☆ ★ ☆
朝食の用意をしている最中に、クレアはちらちらとこちらの様子を伺ってくる。
「あっ、パン生地にマヨネーズ塗った?」
「塗ったよ」
「さすが手際がいい。あのね、渡したいものがあるんだけど……」
「うん、なに?」
「今日ってバレンタインでしょ、ミイニャさんからは貰った?」
「カードだけ。グランデに戻ったら、カップケーキを食べさせてくれる……」
あれ、これ言ってよかったのか?
「カップケーキ! よかった、被ってない。クレアはガトーショコラにしたから。おやつの時間にでも時間をもらってカフェに届けるから、はいこれ」
耳まで真っ赤にしてクレアはカードだけ渡してくれる。
いつも優しいあなたへ。
日頃の感謝を込めて、ガトーショコラを作りました。
心を込めて作ったので、食べてくれると嬉しいです。
「甘いもの大好きだからな、俺。楽しみにしてる」
☆ ★ ☆
朝食時、話があるからと後片付け後、書物保管庫へと呼び出された俺。
待っていたのは、耳まで真っ赤にしたマアニャだった。
「要件はわかってるわね?」
「いや、わかってない」
「あんたバカ! 今日は2月14日でしょ! バレンタインでしょ」
「ということは、くれるのか、チョコを?」
「……まあ、いちおうお世話になってるから、ほら!」
ラッピングされた箱とカードを俺に渡して、マアニャは逃げるように去っていった。
本命でなかったら、受け取らないとかあなた言いそうだけど、受け取ってもらうから!
頑張って作ったんだから美味しいはずだから!
お返しはちゃんとしてね! 気持ち的に爆発させてくれていいから。
「完全にツンツンな印象しか残らん」
俺は箱のラッピングを解いて、中身を確認する。生チョコが綺麗に配置されていた。
ぱくりと食べてみる。
「甘い……けど、美味しいなあ」
☆ ★ ☆
カフェ「グランデ」
先ほどまでちぃちゃんがいたが、俺にチョコを渡して嬉しそうに手を振って帰っていったので今はミイニャと二人きりだ。
「優斗君、あ~んしてください」
「いや、自分で食べられるよ」
「恥ずかしがらなくてもいいのに」
恥ずかしがるわ、普通。チョコチップの入ったカップケーキを一口食べてみる。
まだ湯気が出ているそれは、温かく口の中で広がり、あま~く溶けた。
「うまい……」
「貰ったチョコの中で一番でしたか?」
答えにくいことを平気で聞くなあ。
これまた湯気の出ている紅茶のカップに口を付けていると、カランと音がする。
「いらっしゃいませ~」
俺の真ん前にいるミイニャが素早くお辞儀する。
このカップケーキを食べている間はお客さんらしいので、誰か来ても挨拶はしなくていいと言われた。
「ちょうど誰もいない。クレアはついています」
振り返ると、箱を持ったクレアがカウンターにやってきてコートを脱ぐ。
んっ、その後ろにマアニャも不機嫌そうな顔でついてきていた。
「朝言った通り、ハッピーバレンタインです。クレアの想いを受け取ってください」
「あ、ありがとう」
「すぐ食べて! 焼きたてだから」
「う、うん」
ミイニャの視線が怖いんですけど……
「あたしのチョコはどうしたのよ?」
「えっ、あれならすぐ全部食べた」
途端にマアニャは口元を緩める。
「美味しかったでしょ、一番だったわよね?」
「おほん、すごい旨かったけど……比較はしない主義だから」
クレアに貰った箱を開けると、ホールサイズのガトーショコラがお目見えする。
ミイニャが食べやすいようにナイフを入れてくれた、小分けされたそれにフォークを一口食べてみる。
「おお、美味しい」
「ほんと! よかったあ。マアニャさんもミイニャさんも食べてみてください」
「そうですか……あっ、カップケーキをどうぞ。たくさんありますから」
「あら、そう」
「お姉ちゃん、チョコは? 優斗君にあげた以外の」
「全部上げたわよ。一人分しか作らなかったし」
「じゃあおねえちゃんはそこで見てて」
「いいからほら味見してあげるわよ」
「ああ、それは形がいいから優斗君の2個目のなのにぃ」
マアニャはかまわずそれを口に入れ、
「さすがミイニャ、お菓子作りは上手だわ」
「ふっ、負けを認めるとは素直ですね、お姉ちゃん……あっ、クレアのガトーショコラ美味しいです」
「ありがとうございます。愛を込めましたからね」
クレアの発言にマアニャとミイニャの眉間にしわが寄る。
「愛なら私も込めました」
「あたしもそんな感じのをこめたつもりよ!」
今日のカフェ「グランデ」はハッピーバレンタインで甘々トロトロです。




