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第1話「限定メニューを考えよう」




 お姉さんとの地獄ともいうべき2年の修行を経て不幸なスキルを覚醒させた矢先、俺はそのお姉さんによって、アイルコットンって場所に飛ばされた。行く場所の当ても所持金もない俺は、そこでミラ家のマアニャとミイニャっていう美少女双子姉妹の召使いに雇ってもらい、地獄でない日常の日々をスタートさせていた。


 お姉さんが俺をこのアイルコットンに飛ばした理由が自己解決出来るまで、スローライフを堪能したいっていうのは俺の願望。


 午前中はミラ家にて、つんつんマアニャの召使い。


 そして午後はミイニャが経営しているカフェ「グランデ」を手伝うことになり……

 これはカフェ「グランデ」での日常の物語


☆ ★ ☆


 カウンター席は5席。窓側奥に8人座れるソファ席が1つ。窓側中央と入り口近くに4人席テーブルが2つ。

 通路を挟んで二人席テーブルが3つ。


 よってカフェ『グランデ』の最大お客様収容人数は27人。


 従業員は家系限界突破にてうんのよさが振り切れている双子の妹の美少女ミイニャとその使用人または召使いともいえる俺(越谷優斗)の2名だ。


 2人で接客、調理してお客さんをあまり待たせずに、カフェを堪能してもらうには、この大きさが限界だ。これ以上席を増やせば混雑時、絶対にさばききれない。


「やっぱり優斗君の入れるアイスティは美味しいですね」


 営業時間なのに、経営者のミイニャはカウンター席で俺と向かい合い、小さな薄桃色の口をストローにつけてアイスレモンティを体内へと流し込む。


 ミイニャは赤みがかった茶髪に少しウエーブがかかっている髪型で、容姿は間違いなく可愛い。ウエイトレス姿はさらに可愛さが増す。


 が、このカフェを持ち前のうんのよさのみで経営していただけで、ミイニャに経営能力があるのかはかなり疑問だ。


 食品栄養管理者等の資格は有しているし、きちんと届も出しているのできちんと手順は踏んでいるし、営業していることに問題はないことも記しておこう。


 俺はというと、午前中はミイニャの姉マアニャの召使いなので、グランデを手伝えるのは午後になってから……だから開店してから俺が手伝い出すまでミイニャが何をしているのか、いまいち把握しきれていない。


「昨日食べさせてくれた、ツナとトマトの和風パスタはほんとに美味しかったです。あれだけでお店は大繁盛することでしょう」


 他人事みたいに聞こえるぞ、おい!


 確かにこの世界にパスタは普及してないようだから、それなりにお客さんは来てくれるかもしれない。が、ここはカフェであってイタリアンのお店ではない。


「いや、カフェである以上、カフェメニューを増やしておきたい。そもそもミイニャはなぜカフェを開店しようとしたんだ?」


「雰囲気が好きです。匂いが好きです。何か落ち着きます……だからそんな場所にいたいんです」


「じゃあ落ち込んでる人や悩みを抱えた人が立ち寄りやすい、ミイニャが大好きな場所にしようぜ。何も大人気店にして、大儲けしようとは俺も考えてない。俺たちでノーマルカフェをやってみようぜってことだ。雰囲気はすでにいい、匂いもいい、けど俺たちが落ち着くだけじゃカフェじゃない。来た人がそう思ってくれないとな」


「……召使いのくせに、優斗君は生意気ですね……私、1人じゃ絶対普通に経営するのは無理です……なので、優斗君が本気で手伝う気があるんでしたら、ノーマルカフェを目指してもいいです。ただし、混みごみするのは嫌ですよ」


「面積的にも席数的にも2人なら十分捌けるはずだ。俺以外を雇うつもりは?」


「絶対にありえません。あとクレーマー客には容赦はしないように、チンピラ風はやっつけちゃってください」


「……うんのよさで退けられると思うぞ」


 俺のスキルも外れスキルから、覚醒して幸運スキルになっているし、よほどのことがない限りトラブルは回避できるし、巻き込まれても対処可能なはず。

 それにカフェ内で戦闘などしたくない。


「だと思いますけど……」


「開店前にリサーチはしたか?」


「リサーチ?」


 ミイニャは瞬きして可愛らしく小首を傾げる。


「つまりだな、どの時間にどういう人がカフェ前を通るのか、お年寄りが多いのか、綺麗なお姉さんが多いのか、近くのお店はどの位の値段で飲み物や食べ物を提供しているのか? てことを調べたかってことだ」


「面倒なことは苦手です!」


 当たり前ですとその顔はおっしゃっている。


「でしょうね。俺、この世界のことをまだよく知らない。おすすめの食材とか、特有の食材なんかを教えてくれると助かる。ほとんど変わらないけど、中には知らないものがありそうだからな」


「そうですねえ……」


 ミイニャは顎に手を添え、思案顔に。


「竜のだし汁とか、獣肉のまる焼き……など魔物系を食す文化があります」


「……いや」

 食べたくないな。そういうのは……


「私は食べたことありませんけど……口にしたくないので」


「じゃあ、食べたことある物で、昨日作ったパスタに使えそうな一般的な物は?」


「お野菜とかならどれでも調理次第で美味しくできそうですね。ミラ家の庭に畑がありますから、直接見た方が速いかと思います」


「よしっ。じゃあ俺が見に行ってくる。お客さんが来るかもしれないから、ミイニャはここに居ろ」


「命令していいのは私なんですけど……一応お伝えしておきますが、私はスイーツ系を作るのは得意だと思います」


 自慢でもしているかのように、途端に表情が緩む。


「おいおい……ならどうしてそれを前面に出して営業しなかった?」


「1人で繁盛店を営む自信が私にはありません」


 つまりスイーツを商品化すれば繁盛する自信があると……


「すぐ戻ってくるから、そのご自慢のスイーツを作ってくれ」


「お任せを。では早速準備をしておきます」



 ☆ ★ ☆



 ミラ家。つまりマアニャとミイニャの家。デカい門構え、高度なセキュリティ。広い敷地、ミラ家は騎士団を有していて、庭で訓練までしているのだ。


 一通りの案内はしてもらったので、畑の場所も把握済み。とりあえずどんな野菜があるのかチェックしておこうとそちらへ向かう。


「あっ、君何してるの?」


 振り向くとミラ家メイドのクレアが洗濯物を取り込もうとしていた。


「ちょうどいい。ちょっと畑の野菜を見たいんだよ。クレア、説明してくれないか?」


「お安い御用だよ」


 洗濯物よりこっちを優先してくれるらしく、てくてくやってくる。


「てっきりマアニャ様に悪戯しようとやって来たんだと思っちゃった」


「……午後はミイニャの召使いでカフェを手伝ってるんだよ。リニューアル準備中、ていうか今も開店してるけど」


「カフェか。君、料理上手いし、ピッタリだよ」


「クレア、仕事終わったら時間あるかな?」


「んっ? クレアをデートに誘いたいの?」


 俺をからかうように小首を傾げ微笑むクレア。


「誘いたいけど、そうではなくて料理の味見してくれないか? あと、メニューのイラストを描くのを今夜お部屋で手伝って貰えると助かる。ミイニャの絵は独創的で一目見ただけじゃ理解されない」


「いいよ。夕食の下ごしらえしてからだから夕方くらいに行くね。えっと、ミイニャ様のカフェにクレアは行ったことないんだけど……」


「グランデってカフェだよ。こっからまっすぐ降りて行って10分くらいかな」


 ミラ家の畑が見えてきた。執事のバートンさんがせっせと農作業をしている最中のようだ。


「こんにちは、バートンさん」


「こんにちは、越谷君、それにクレアも」


 バートンさんは65歳くらいだと思うが、超元気だ。

 畑を管理するのってかなり大変なんだよな。庭もそうだけど、すぐ草は生えるし、土の管理と水やりも……


 ミラ家の畑は執事バートンさんが趣味でやっていると昨日クレアが教えてくれた。


「あのう、ミイニャのカフェをリニューアルオープンするんですけど、こっちの世界……じゃなくて、トマトとか、なす以外におすすめの野菜ってあったりしますか? 出来れば毎日食べているようなのがいいんですけど」


「なるほど。カブ大根やキャレスとかはどうでしょう?」


「えっ……」

 なんだ、その混合したような名前は……


「こちらにあるのがカブ大根。その隣がキャレスです」


 大根みたいに葉が出て埋まっているが、なぜかどれも葉が2か所出ている。


「抜きましょうか? 機械を使わないと抜けないんですけどね。すごい力が必要なので」


「……大丈夫だと思いますよ」


 両手を擦り、足を屈め、その葉を掴む。

 確かに普通の力じゃ抜けない……


「うおぉぉぉ」


 ちょっとだけ本気で両手に力を込める。ちょっとずつ抜けてきて最後はすぽっと音がしてカブ大根は姿を現した。


「おやおや、凄い力ですね」


「これが……」


 どう見ても葉は大根、白の部分はカブと大根だけど……でかっ。

 硬さを確かめるとカチンカチンに硬い。


「クレアのお尻より絶対硬いな。見た目お尻じゃん」


「もう、君何言ってんの!」


 可愛らしく口を尖らすクレアも素敵だ。


「こんなに硬いんじゃ包丁が入らないんじゃ……」


「硬いのは新鮮な証拠です。1時間もすれば刃を入れられるくらいに柔らかくなっていきます」


 続いてキャレスというのを掘り起こしてみると……


(どう見てもキャベツとレタスが混じったもんだよな。しかもでかっ。混合野菜と名づけよう。こんな品種改良が出来れば儲けられるかも……まあ美味しければの話だが)



☆ ★ ☆



 カフェに戻り、俺は早速キャレスを使ったパスタを作ってみる。8分の1くらいしか使わなかったが、残った分はミイニャが近所に後で分けに行くと言った。


「パスタの茹で加減は好みがわかれるが、俺はアルデンテ、つまり少し硬いくらいがいいんだけど、ミイニャはどう?」


「昨日、食べさせてもらったくらいでちょうどいいです」


「じゃあたまにパスタの硬さは確認しながら、具材とソースづくりだ。あっ、このキャレス少し硬いから、パスタをゆで上げる前にちょっと湯通ししたほうがいい」


「なるほど……」


 意外にも熱心にメモ迄取っている。やる気スイッチ入ったのか?


「えっと具材は、キノコ類や魚類ならなんでも合うと思うけど、鱈にしてみようと思う。魚屋のおじさんが安く仕入れてくれるっていうから、頼んでおいた」


「仕事速いですね……」


「そうでもないぜ。まず鱈に塩とスパイスで軽く味付けしてニンニクと唐がらしを炒めたオリーブオイルの中へ。火加減に注意だな……火を通してる間に、パスタの硬さをチェックだ」





 ミイニャに説明しながら、作業すること数分。


「よし、出きたぜ。美味しかったら、グランデの看板メニュー。鱈とキャレスのオリーブパスタ。色和えでミニトマトを添えたけど、他で代替えしてもいい」


「美味しそうです。いい匂い。限定メニューにしないと絶対捌けませんよ」


「ああ。わかってる。俺、ランチの時間手伝えないし」


 カウンター席に座り、俺が盛りつけたパスタを幸せそうにミイニャは頬張る。


「ふわぁ、美味しい。こんなに……」


「パスタ食べなれてないから、余計にそう思うんだよ。作れそうか?」


「練習すれば」


「自信持てるまでちゃんと教えるから」


 さて、カブ大根の方はどうしようかな?


「生意気ですが、その優しさは好感度を上げます。食べ終わったら、デザートがありますからね。優斗君のほっぺを落として上げましょう」


 そいつは楽しみだ。


☆ ★ ☆


 入口のドアにはミイニャがお店の前を通るお客様に向けて張り紙をしていた。


【カフェは生まれ変わりました。普通のサービス、まったりとした暖かな雰囲気、空間を目指し、メニューを通常にしました】


 ちなみにぼったくりメニューを裏メニューにしたカフェ「グランデ」の初日のお客様は二人だった……

 はい、このままじゃ潰れます。


 ぼったカフェのイメージを払しょくするのは容易ではなさそうだが、やる気になったミイニャと俺で何とかしていくのだぜ。

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