94話 親心とビックイベントですか?
「ぷっ。・・・ぷぷっ。」
「め、メイヤード様。あんまり・・笑うと可愛そうですぞ。ププッ。」
「今はお助けレッドだよ!!」
「はっ、す、すいません。」
叔父さんとメイヤード様はどうでも良いことで揉めている。
それよりも、笑われた。俺が勇気を振り絞って言ったのに、あっさりと笑われた。
凄い失礼な人達だ。
「えー。そんなに笑う所ですか?」
ちょっと不貞腐れて言った。
「ほらー。レッド様が笑うからー。」
「アンタも笑ってただろう!!」
「す、すいません。」
残念な叔父さんが余計な事を言って怒られていた。
あんたも笑ってたけどな。
「イッセイ。悪かったね。あまりに初々しい事を言ってきたんでギャップで笑っちまったよ。アンタの悩みなんざ多分年齢と共に関係なく降り掛かってくる悩みになるさね。」
「はぁ。そうですか~。」
「完全に不貞腐れてるな・・・。」
メイヤード様が優しい声で語りかけてくる。
マスクが戦隊もの系の顔なので表情が分からないが・・・
「この国じゃあ重婚が認められてる。これは知ってるね?」
「知ってます。でもそれとコレとは・・・」
「まぁ、お聞き。今は国があの手この手の怪しいこじつけでアンタを庇って誤魔化しているが、アンタの功績は既に隠しきれないほどに高く沢山出している現状だ。そうだね例えるならば、この国中の勇者をアンタに任せても余るくらいにね。」
メイヤード様が考えるように言うとレオ叔父さんも”うんうん”頷いていた。
って、頷いている場合じゃないでしょうが・・・。
そんな事は無いと思うがメイヤード様の話が続くので取り敢えず聞く事にする。
「恐らくどこかのタイミングで陞爵されるだろう。そんな状態で婚約者も居ない。この状況だけでどうなるか想像できるかい?」
「いえ。全く・・・。」
と言いながらも大体は理解できた。
って、陞爵されるって俺が? 何で?
頭に沢山の”???”を作っていた。
「これだけの功績を作っておいて状況が飲み込め無いって感じかねぇ・・・。まぁ、良いさ。アンタが世に出た瞬間に貴族共はあの手この手を使ってアンタに婚約者と称して自分ちの子供を差し出してくるだろうさね。それこそアンタの家に押しかけていって勝手に暮らし始めるかもしれん。」
えっ、そんなに強行で来るものなの? てっきり小説なんかで良くある設定なのかと思っていたんだけど。
叔父さんを見ると過去の話を思い出したのか、何故かがっくりと項垂れていた。
そして、とても疲れた声で
「お前の子を身籠ったとかいう奴も出てくる。」
「そんなの調べれば直ぐに分かりますよね?」
事実関係なんて確認すれば簡単に分かると思う。
「「そんなの簡単に捏造されるぞ」」
「ですよねー。」
まぁ、話の脈略から否定し続けてもいずれは数の暴力に負ける。そして、手を出してくる貴族は手段を選ばないぞ。って、事か・・・。
「まぁ、我が家の自慢のあの子を婚約者に迎えれば流石にそう簡単には手を出して来なくなると思うぞ。」
叔父さんがニッコリ微笑んだような気がする。
あんにそう言いたかっただけじゃないのか?
「・・・まぁいい。今日にで屋敷に行ってみろ。お前にとっても良い事が起こるはずだ。」
「は、はぁ・・・。」
答えを出さない俺に対して叔父さんは若干不機嫌な声を出したが、「まぁいい。祝の席だ。」と言ってソフィー達のところへ戻っていった。
「不器用だがあれも親心だ許してやってくれ。」
「・・・はい。」
メイヤード様も叔父さんをフォローして特訓に戻っていった。
その後も少し見ていたが皆しごかれていた。
肉体的なものもあれば知的なものも有るようだ。
叔父さんやお助けブルーにいじめに近いしごきを受けていたり、政治論や薬学のことで軽く罵られている。
まぁ、ここで心折れてくれればそれはそれで助かるんだけどね。
因みに青マスクの正体はと言うと、
「ふぅー暑いな。」
「あー。貴方は!?」
「おっ、久しぶりだな。」
顎を触りながいい笑顔を向けてきた。
封印の洞窟で会ったベテラン兵士さんだった。
「あれ。オジさん何でここに?」
「うん。まぁ、ちょっとな。ここに有望な騎士見習いがいると聞いてスカウトに来たんだ。」
そう言えば、あの時も新人騎士の査定をしていたんだっけ。
あの時の兵士さん達があの後、どうなったか知らないけど。
「で、いい人は居たんですか?」
「あぁ。先程から面倒見ている2人はワシが貰っていく。【守りの勇者】と【マイペースの勇者】だそうだ。使いどころによっては化けるぞ。ガハハ。」
床に転がる2人。アレク君とドーム君だ。
口から泡を吹いて2人共気絶させられている。
マイペースの勇者って何だよ。まぁ十中八苦ドーム君だろうな。
「ドームとか言い小僧は自由な言動とは裏腹にキッチリと守りを固めるから前衛に使える。アレクとか言う小僧もマイペースなお蔭で将として有望だ。」
まさかの逆かよ!!
てっきり見た目が鉄壁の鎧みたいな人なので、勇者の力も【守り】かと思っていたが・・・。確かにあの淡々と話す姿。プロメテと一緒だ。
俺の思考タイムを余所にベテラン兵士さんは、話を続けていた。
「なかなかどうして。今時珍しい根性のある奴らだ。倒しても倒しても諦めないからつい気絶させちまった。」
嬉しそうに話すベテラン兵士さん。
顎を撫でながら床に転がる2人を見ていた。
気絶させられるまで何度やられたのか・・・、そして何をされたか・・・
知りたくもない。
「こいつ等を介抱するから。またな。」
ベテラン兵士さんはそう言うと2人を担いで何処かに消えていった。
あっ、自己紹介するの忘れてた。ま、良いか。
その内また会えるだろう。
・・・
俺が皆の特訓を見ている最中に屋敷から迎えが来ていると連絡を受けた。
こっちの屋敷で何かあったらしい。さっき叔父さんが言っていたことだろうか?
もうすぐ帰ろうと思っていただけにグッドタイミングだ。
今は押し込むように乗せられた馬車に揺られて外を見ていたら何となく鏡を思い浮かべていた。
鏡。本当に転生してるのかな。はぁ〜。
ちょっとセンチになってしまった。
ただ、それも屋敷に着くと気にならなくなった。
何故なら屋敷に戻ると父様と母様は忙しなく何かの準備をしていた。
もうすぐシェルバルトの領に戻ると聞いていたのでその準備かと思っていた。
「父様、母様。ただいま戻りました。何か御用でしょうか?」
声を掛けると、
「あぁ、イッセイ! ごめんなさいね。お見舞いに行けなくて・・。もう少ししたらここを出ないと、また領へと戻らないとね。でもそれよりもこっちの事が大変よ。」
「いえ。お二人が忙しいのは知っております。それに体の不調と言うより魔力が不調ですので・・・。」
母様が忙しなく行ってしまった。
と、思ったら今度は父様が忙しそうにこっちに来た。
「おぉ。呼び立てしてすまんな、イッセイ。ワシらも何か治る方法を考えねばと思っているのだが・・・。」
「大丈夫です。その辺も目処が立ちましたので、それよりお忙しいようですが、何かあったのですか?」
「そうか、何も話して居なかったな。ふむ。休憩がてら話をするか。おい誰か、お茶の用意を頼む。」
応接の間に移動して今居る一家全員が集まった。
やっと、一息着いたのか父様も母様もソファーに腰を掛けるなり深いため息を付いていた。
俺と姉様が顔を見合わせて苦笑いする。
貴族なのにいつも忙しいこの両親を『さすが。』と思ったからだ。下に丸投げも良くある話だが、勇者として自分の領を護っている二人は他の勇者達を束ねる役割もある為、息つく暇もない。むしろ誇りに思うくらいだが、歳が歳なので身体にも気遣って欲しい。
今回もどうやら、国からそれだけの大役を担ったのだろう。
と、なると戦争か? どの国がどうやって攻めてくるのか? そんな事が頭を過った。
「で、お前を呼び出した理由なのだが。」
父様は姉様を見る。
姉様はモジモジしていた。
「えっ? 姉様に何かあったのですか?」
姉さまももう数年で卒業だ。浮いた話が出てもおかしくない。
あの山猿も最近は名前に負けない位可憐になったしな。
子供の頃と比べると本当に大人しくなった。
「カレンに縁談が来ているのよ。」
母様が嬉しそうに答える。その言葉に姉さまも満更ではない顔をしていた。
そうか、10歳の卒業の時に地元(シェルバルト領)に戻って研究に没頭すると言っていた時には心配してたけど変わるもんだ。
「どこの方ですか?」
と、言ってもある程度歳のいったロリコン貴族なら全力で阻止しよう。そう心に決めていた。
「レイモンド様・・・なの。」
レイモンド・・・様か・・・
ってだれだっけ?
「誰だっけって顔してるね? イッセイ。」
うっ。さすが母様。嫌な所突くなぁ。
俺が困った顔をしていると、父様もため息混じりに。
「王族だよ。レイモンド様はな。」
「そう。この国の王子様。ソフィアちゃんのお兄様なのよ。」
父様の後に母様が続く。
そう言えばソフィーに歳の離れた兄がいるって言ってたっけ。見た事もないからスッカリ存在を忘れてた。
「えーっと、確かソフィーより10以上離れていた筈ですけど?」
「あぁ。今、19歳だな。」
姉様の10上か・・・まぁ、普通かな。
「しっかし、姉様もよく接点が持てましたね。」
「レイ先生が色々教えてくれたから・・・。」
「何でも、卒業後に一度学園にいらっしゃったらしい。丁度、お前が入学する歳だったかな?」
「そうね。あの年は主席と主賓が両方行方不明になったから学園が大変だったみたいね。それで代理で来たみたい。」
「で、初の生徒会の挨拶であたふたしてた私を優しく教えてくれたのがレイ先生。」
あー。あの時か俺と叔父さんがエルフの里に行く羽目になったせいだ。
と言っても里に行かなかったとしても入学式に間に合ったかは答えられないけどね。
と、思っていたが姉様の肩にはあ○しん○イメェがものすっごい悪い顔をしていた。取り敢えず親指を立てておく。
グッジョブ。○イメェ。
で、その後レイモンド様とは音信不通になってしまい。
姉様はやさぐれ自分一人で生きていくと豪語してたと・・・。
更に諦めていたレイモンド様から求愛されて今度は困っていると・・・。
はぁ〜。ただの惚気かよ。
急に身体から力が抜けていった。
「では、姉様はその求愛をお受けになられるのですね?」
「一応は前向きにご返答を返す予定です。」
それならば尚更婚約に意味は無いな・・・。
「で、イッセイはどうするの? ソフィアちゃんとエリーちゃん。それともベネッタちゃん? 誰にするの? 全員ってこともあるけどイキナリ3人は早いわよ。」
「ヘ?」
何で俺の話になるんだ?
しかも、何でエリーとベネッタが出てくるの?
「イッセイとその周りを見ていればかなり仲がいいことは分かります。」
「しかし、王家や上の貴族と繋がりが強くなり過ぎる。必ず邪魔する貴族も出てくるはずだ。」
「大丈夫です。そう簡単にはそうはなりません。」
俺は力いっぱい否定しておいた。
父様は何も聞いていなかったけどな。
「カレンとイッセイの幸せは家族で守ろう。」
なんでやねん。俺の話出てないじゃん。
しかし、父様の宣言で姉様は顔を赤らめ、母様は大はしゃぎ。
水をさすと悪いのでそれ以上は何も言わないことにした。
そして、
−−バンッ。
「我ら家臣一堂誠心誠意を持ってお二人に使えさせて頂きます。差し当たって本日は豪勢に致しましょう。」
「おぉ、セルビア。流石はセバスの弟だ。空気が読めるな。」
何故か話がトントン拍子で決まり。そんなにビックイベントだっけ?
明日、皆で王城へ挨拶に行くことに父様と母様はその足で領へと戻ると言っていた。
なので、久しぶりに家族揃っての夕食を取った。
何でか知らないがエリーは王城へ泊まった。
明日が怖い。
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次話投稿は、金曜日の15時台を予定しております。
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