89話 退屈な時間と久しぶりの来訪者ですか?
図書館に入院して早1ヶ月が経った。
最近はこう思う。
俺、学園に通う意味あるのかな? っと、
誤解しないで欲しい。
学園が嫌になったとかじゃ無い。むしろ好きだ。
色々な生徒と交流が持てて更に自分の知識も高められる。
それになんと言っても平和だ。
いざこざがあったとしても、所詮は子供の戯れ。
ほのぼのと見れるので、とても平和だ。
それなら、何故? と聞かれれば、
俺が学園に戻っても必ずなんだかんだで、イザコザに巻き込まれる運命にあるらしく。結局長期で行けなくなる。
最近は、「いい加減アホくさいので退学しようかな?」などと思っている。
退院して学園も図書館も通えば良いではないかと、言われそうだが先日の戦いで俺の下半身はヴィルと同じ黒いクリスタルで封印されている。
ヴィルと違うのは足が封印のクリスタルで結晶化していて動かすことが出来ない。
しかも、何らかの影響で魔力も練れない。ついでに教会に行っても金○様にもアクセス出来ないという、とても積みに近い状態になっていた。
一人で歩く事が出来ない事が結構キツかった・・・。
訓練やら何やらやっていたお蔭で何とか上半身だけで動く様になったが、1ヶ月なんてあっという間に経ってしまった。
そして、何よりも思い知らされた。
長期の入院なんてのは始めてだったので最初は期待していたのだが、何もしない時間がこんなにも退屈なものだと知らなかった。
おかげで本だけは読む時間がたっぷり出来たので、伝記やら魔導書やらを読み漁って過ごした。
知識の整理をおこなったと言えばいいか。
足りないところを補完したり不要な知識を省いたり・・・
おかげさまで今ではこの部屋が1番図書館の名前に相応しい感じになっていた。
トイレ? トイレは車椅子に乗ってトイレまで行っている。
○ビンなんて言うアイテムがあるらしいが嫌な予感しかしないので自分で行ってる。
車椅子? あぁ、俺の知識をここの研究室で作ってもらっただけだけど・・・。
簡単な絵を描いたらミサキさんがあっという間に理解して作製してくれた。
流石、鏡と交流があっただけはある。大分考え方がこっち寄りだ。
ミサキさん曰く、
「まぁ、そんなに難しい構造でもないしね。レース用ってわけでも無い。単純に腕の力で止めたり動かしたり出来れば良いってだけなら、こっちの世界の技術でも十分作成は可能だよ。」
って言われた。出来る人は違うなぁ〜。
他にもコンピューターも知ってたし。ゴムは無いからと言って木の車輪を複数の木の皮で作った合成木材をたかってきた位だ。そもそも他の建物がバリバリの西洋なのにここの施設はツルツルの壁にバリアフリー設計のためこの施設内だけまさに現代だった。
ま、施設の話はここら辺でいいだろう。
話を戻して先日の話から。
前回の襲撃は目撃者も居なかった為、凶悪なモンスターが折を壊し暴れた事故として処理された。
俺とソフィー、エリー、ベネッタは避難活動に貢献した事になり、その際に俺とエリーとベネッタは負傷したことになった。
ついこの前まで3人仲良く入院していたのだが、割と軽傷の2人はサッサと退院していった。
で、話を戻すと、
ここは色々表に出るとヤバい内容が満載のワンダーランドな場所なので国としても世間の目を向けたくない様だ。情報流出すると首どころか国自体が飛んじゃうらしい。
国が飛んじゃうって何の秘密があるのか分からないが聞きたくない事は確かだ。
それに王都の施設が襲撃があったとバレると非常に不味い。国民が要らない不安に駆られる。
と言う旨をいつもより更に青白い顔をした宰相のアレックス様が伝えに来てくれた。
相変わらずこの人、いい人過ぎる・・・過労死しなければいいが。
いつもの事なので2つ返事で頷いておいた。
−−コンコン。
部屋の扉が叩かれる。
この時間なら皆じゃないな。
「はーい。どうぞー。」
「おーい。イッセイ。今日も来てやったぜ。」
「イッセイ君。お、お身体大丈夫ですか?」
俺の病室に遊びに来てくれる様になったのは、学園の風紀員であり同級生のアレク君とローザリッテさんだ。
(何度か来てくれる内に『様』付けはやめてくれと言われた。)
「やぁ。二人ともいらっしゃい。」
俺も歓迎する。
初めは子供の甲斐甲斐さなんて自己満足の塊みたい。位に思って、適当にあしらっていたのだが兎に角熱心に通ってくれる事に心を打たれた。
今ではすっかり仲のいい友人だと思っている。
「どうだ。魔力は戻ったのか?」
アレク君が気づかってくれる。
「いや。まだです。魔力の存在は感じるのですが自分の中には入って来ないと言うか・・・。」
さっき言った、魔力が全く練れなくなってしまった現象。
ミサキさん曰く、自身のポーションの副作用だと言っていたが本当にそうなのだろうか?
今までだと感覚的に部屋の中に魔力という箱を倉庫番の様に綺麗に整列していくこんなイメージで勝手に蓄積されていたのだが、今はその感覚、というか手応えがない。
迷宮組○なみの深い井戸に石を投げ落としたけど、返事が帰ってこないとかそんな感覚。
途中で消えちゃったんじゃない? と、疑ってしまう。
「そうなのですか・・・。」
残念がってくれるのはローザリッテさん。
この子、素でメチャクチャ心配してくれる。
ちょっと、過剰な位にね。だが、とっても良い子だ。
「おいおい。私達も紹介してくれよ。」
後ろの方から声が聞こえてきた。
聞き覚えのない張りのあるいい声だ。
「おっと、この人を忘れてたぜ。」
ガハハと笑うアレク君。プロメテと被るんだよなぁ。
見た目も○ィズニー版のヘラ○レスみたいだし・・・、
プロメテは完全にランプを擦ると出てくる赤い○ブー(大臣の方)そのままだ。
「お兄様。お待たせ致しました。」
入ってきたのは数名の男の子。そんな中、ローザリッテさんがお兄様と呼ぶ人物は一人しか居ない。
公爵家の跡取り息子アレス様だ。以前、ソフィーにちょっかいを出して来て俺に返り討ちを食らった男。
ヒョロっとしたもやしのイメージしか残っていない。
確か領地に謹慎させられていたんだっけ? 学園では見なかった筈だ。
「イッセイ君。久しぶりだな。」
現れたのは肌は小麦色に焼け、健康以外の表現が見つからない男の子だった。
「アレス・・様?」
「あー。久しぶりに会った奴は皆そんな反応するんだよな〜。」
アレク君は腰に手を当てて高笑いしていた。
いや、まぁ、見間違えたけどさ。
「君にはお礼をしたいと思っていたんだ。」
お礼? 何のだ・・・あぁー。お礼参りって事か。
"説明しよう。"
"お礼参りとは、他校の生徒との喧嘩や諸々お世話になった先生方にキッチリ清算しに行くことを指す。
近年では内申書に響くのでそんな無駄なことはやらない傾向にあり、ほぼ死語である。"
「おわっ!?」
「ん? どうしたイッセイ。」
「いや何も。」
頭に何か変な説明文が流れた。
空耳か? ってえぇー!
目の前で頭を下げているアレス様がいた。
「君のおかげですっかり目が冷めた。」
スッキリした顔をしてニッコリ微笑むアレス様。
何だろう凄くいい顔だ。
「農業は最高だ。今、新しい農作物の栽培に着手していてな・・・・・・」
そして、雄弁に農業について語りだした。
・・・10分経過
「・・・で、ベネッタの領地で取れる草の実を我が領でも栽培を進めようと思っている。」
はぁ、やっと終わった。
10分間位ずっと喋りっぱなしってのも凄い。
半分以上は理解出来なかったけど。
「はぁ・・・お兄様。そんな話をしに来たのですか?」
「おぉー。すまんすまん。楽しい農業の話になったら止まらなくてな。実は今日はお願いもあって来たのだ。」
「お願い・・・ですか?」
「あぁ・・・。俺を慕ってくれている3人組が居たのだが・・・。1人行方をくらましてしまってな。」
俺は頭の中の記憶を呼び起こす。
洗礼の儀式、入学試験日・・・。あぁー。あの3人組か。
「捜索願なら国にお願いする事をお勧めしますが?」
「それは、既にやっているんだ。」
「では、何を?」
「詳しくはコイツ等から聞いてくれないか。」
アレス様の後から現れたのは、先程思い出した3人の内の2人だった。なんかこう元気がないな。
「イッセイ君。いや、さん。急に来てすまない。だが、手を貸してくれ。」
「アイツはカッケー奴なんだ。」
「は、はぁ・・。とにかく話を聞かせてください。」
「あぁ。すまない。俺達の仲間が姿を消す前までの間、アイツはあの男とつるんでいた。」
「あの男?」
「そう。あれは君が復学してきた日だったと思う。」
友達を思う彼は一言一言思い出すように語り始めた。
お読み頂きましてありがとうございます。
次話は火曜日の投稿予定です。いつもどおり15時頃の投稿になります。
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