86話 助けに来たのはエンジェル達ですか?
ヴィルがピキピキと音を立てながら封印されていく中、大声で叫ぶ。
「うるせえな。資料が手に入ったら帰りますだ? この場所をこんな感じで焼き尽くして罪の無い人を殺しまくって関係無いだと。調子いい事言ってんじゃねーよ。」
ヴィルの言葉でハッとさせられる。
今のこの状況はコイツの作り出した責任だと言う事を。
「そんなの決まってるじゃないですか。虫けら共が我々を嗅ぎ回っているからお灸を据えただけですよ。」
「テメエ等が可愛がってた亜人共がいたにも関わらずか・・・。」
ヴィルは叫ぶだけ叫ぶと言葉を発しなくなった。
完全に封印されてしまったらしい。今は黒い宝石の中に閉じ込められた様になっている。
「やっと黙りましたか、虫けらなどに尻尾を振るゴミが1つや2つ消えた所で誰も困りはしませんよ。それより貴方達が邪魔するせいでここもそんなに持たなくなってますけど? その方が悪いんじゃありませんか?」
無邪気な子供が悪びれもなく口を開くように自分の都合だけを口にする。
なん・・だと?
さっき、モンスターに食われてた人達は回復剤を作ったり、モンスターに襲われ難い魔導具などを研究していた人達だ。
他にも人族も亜人も関係なく使える道具や魔法を研究していた人もいた。
中には過激な研究をしている人もいたが全てはこの世に存在する人達に役に立つ研究をしている人が多かった。
それを虫けらやゴミだと。
「・・・アクア。セティ。」
自分でも驚く位に低い声が出てたと思う。
それだけ頭に来ていた。
−−ビキビキ。
どれだけの魔力を注ぎ込んだのか分からない。
だが、俺の体の周りに創造された水の槍は氷の刃となり敵を殺そうとするただ鋭利な形へと形成されていった。
「ゴミはお前らだ!」
氷の槍を【外来種】目掛けて投げつけると風の力で速度をブーストする。
音速を超えた槍が叫び声の様な音を立てて真っ直ぐ飛んでいった。
−−キィイイイイイイイイン。
−−チュン
「なっ!?」
甲高い音がなったかと思えば次の瞬間には氷の槍は【外来種】の身体に無数刺さり壁に張り付けにしていた。
これは音速に合わせて氷が瓦解し破片が慣性のまま飛んだからである。
頭がズキズキ言い出した。
魔力切れを起こし始めたようだ。
無意識に出したとはいえざっと見ても大小3~40の氷の槍が無数に外来種に向かって飛んでいった。
奴もこの攻撃に対処できずそのまま張り付けにされた様だがヴィルを使っていないためダメージが入った気配が無かった。
「人族にしてはなかなかやるじゃない。」
張り付けにされながらニヤリと笑みをぶつけてくる。
正直不気味だ。
「まだ自己紹介がまだでしたね。僕の名前はブラフ。残念だけど君たちの攻撃は効かないんだ。イッセイ君。」
いきなり名乗りだした【外来種】。
氷に刺さった身体を・・・
−−ズブズブ・・・・
身体に通して抜けてくる。
−−ドスッ。
「でも所詮は人族だね。やはりあの魔剣が無ければ僕らは無敵、ここは何とかなりそうだ。だがあんな一撃が放てる人族が居ると目障りだ。死んでもらうよ。」
地面に落下するように着地したブラフは氷で剣を作ると、こちらに向かって構えてきた。俺は魔力切れの頭痛で動けない。
「ふー。でも、結構痛かったよ。だから君にも味あわせてあげる。」
--ブシュ・・・。
体に異物が入ってくる感覚。ひんやりと冷たい。
体の中から凍らされる気分だった。
肩の辺りをゆっくりと刺してくる。
痛い・・・
痛みで意識が飛びそうになる。
掠れる目に映るブラフは俺の肩を笑顔で氷の剣を刺している。
「!?」
--ブシュ・・・。
−−ガキイン。
「あぁ・・・。」
肩に異物が抜かれ肉が外に引っ張られる感じがある。
その後、金属がぶつかる音が聞こえてきた。
目を開けると大きな木の根っこが俺とブラフの剣の間に入り、ブラフに襲いかかっていた。
エリーの魔法だ。
「ロア・フレイム!!」
続いてベネッタの火の魔法がブラフに襲いかかる。
驚いた様な声を出しながらも涼し気な声でアドけるブラフの声がした。
「うわっ。暖かそうだね。でも、効かないよ。」
「ふん。別に関係ないわ。その場からどいてくれれば良いもの。」
ブラフがベネッタの魔法で気を取られている間にウネウネと動く木の根が俺を突き飛ばす。
--バシン!!
ヴィルの飛ばされた辺りに弾き飛ばされた。
もっと優しく運んでくれない。結構痛いよ。
どうやら2人が助けに来てくれたらしい。
魔力切れで意識が朦朧としているが、2人は時間稼ぎしてくれている。
「イッセイ君。大丈夫!!」
朦朧とする意識の中、見上げるとソフィーがいた。
俺の傷口に回復薬をかけてくれた。
「ぐうぅぅぅ・・・。」
体が治ろうとしているのを感じる。
無理に治ろうとしているので痛みを感じる。
「何で戻って来たんだ・・・。」
「何でって、イッセイ君が心配だからだよ。」
どうやら俺が1人で戦うのが不憫だった様で助けに来てくれたみたいだ。
嬉しいけど危険だ。
多少、痛みのお蔭で意識がはっきりしてきた。
魔力切れもちょっとは回復してきたみたいだ。
「・・・ありがとう。逃げてくれ。」
「ううん。まだ、2人も戦ってるし私もここにいる。それとそうだこれを返しておくね。」
ソフィーが差し出してきたのは、ヘイケだ。
他の皆は無事に外に出れたんだな。
肩がメチャクチャ痛いけど。体を起こしてソフィーにヘイケを着けてあげる。
「イッセイ君?」
「ソフィー。どうせ僕が何か言っても引かない気ですよね。ならばこいつで守ってください。ヘイケ。」
ソフィーに着けたヘイケに魔力を流す。
俺の魔力に反応したヘイケがソフィーを守る盾に変わってくれた。
続けて、ヴィルを包む封印に魔力を流す。
切れかかっていた魔力が更に吸われていく。
また頭痛が増してきた。
「クソッ。何だ。どうすればいい?」
うんともすんとも言わないヴィル。
封印を壊す方法が分からない。
「クソガキ共がまだ逃げてなかったんですか? っと、姫様。逃げてなかったんですか?」
瓦礫の後の方から声が聞こえる。
この声は、腹黒毒製造機ツンデレDXのウサミミの人。
逃げたんじゃなかったのか。
「ミサキさん。そんな事よりイッセイ君が大変なの。」
「おっと、そうですね。ちょっと待っててください。」
腹黒毒製造機ツンデレDXマークⅡのウサミミは俺の方を見ると、
「魔力切れのを起こしやがって無理しすぎデスよ。とりあえず、これを飲むデス。」
相変わらず優しいのかそうじゃないのか分からないウサミミさんは試験管の様なビンを取り出すと俺の口にぶっこんできた。
中からドロッドロの液体が口を通過していった。
(昔のネ○ターみたいな喉に引っかかるジュースみたいな感じ)
味が無味だったのが逆に怖い。
「ごぇ、うぇ。ゴホゴホ。こ、これは?」
「試作品のマジックポーションデスよ。即効性を重視した優れ物で丁度臨床実験したかったんデスよ。で、これは何ですか?」
ヴィルを見て不思議な顔をしていた。
「封印を施されては何にも出来ないただの飾り物デスね。」
コンコンと封印されたヴィルを叩くウサミミさん。
確かにこのままだと置物だ。
「さて、そろそろ頭痛も治まったと思うのデスが、どうデスか?」
「おっ、体が動く。どころか頭痛も気怠さも消えている。っつ・・・。」
魔力は戻ってきたが肩の傷はまだまだ時間が掛かる。
調子に乗ったせいでちょっと傷口が開いた様だ。
「全くクソガキが無理するなデス。だけど、今の魔力ならこの置物の呪いも消せるでしょう。もっとも月の精霊が居ればなお早いのデスが・・・」
月の精霊居るんだよなぁ。
カズハの存在を思い浮かべた。すると、
「お呼びですかイッセイ様。」
カズハが出てきて俺に抱きついてきた。
「・・・・・・・!!!???」
いっだあああああああああい。
カズハ。そこ怪我してる方だから・・・。
腹黒(省略)ウサミミが突然カズハが出てきた事に固まってしまっていたが、バレたものはしょうがない。
「すまん。コイツの呪いを解いてやってほしい。」
「はい。それと、イッセイ様の傷も癒やします。」
カズハの月の魔術が俺とヴィルを包み込む。
回復薬より効果が高い治癒効果があり、傷が少しずつ癒えていくのを感じる。
・・・痛痒い。
そして、ヴィルも固まっていた封印が解け始めているのか中でモゾモゾ動いている。
宝石の中で剣が勝手に動いているのって絵的に微妙だ。
「結構難解な呪いですね。少々お時間ください。」
どの位掛かるか分からないが、解ける目処はたった。
その間、2人のフォローでもしよう。
エリーとベネッタは初めてにしては良いコンビだった。
ただ、相手が悪い。実力差がはっきりしている。
2人の攻撃をさばいているブラフが遊んでいるように見える。
「キミは手を出さないほうがいいデス。」
腹黒(省略)ウサミミが身を潜めて俺に言う。
「何故でしょうか?」
「今、キミが敵の攻撃対象から外れてるからデスよ。」
それなら、今奇襲を掛ければ相手は怯むんじゃないか?
その考えが知られたのだろう。
「はぁ。本当にクソガキですね。状況整理が何も出来てない。」
「何ですか。仲間が戦ってるんですよ!」
「だからこそデス。今はこいつの呪いを解くほうが先決デスよ。貴方が生身で行ったってクッソ役に立たない。3人で墓に入るのがオチデス。」
「だからって・・・」
「そんなに仲間が信じられませんか?」
腹黒(省略)ウサミミが痛いところを付いてくる。
そう言われると何も言い返せない。
「イッセイ様は悪くありません。こんな呪いを解けない私の責任ですわ。」
カズハまで気を使ってくる。
「きゃあああ。」
ベネッタの声が聞こえた。押され気味なのかもしれない。
気になるがじっと耐えた。
「そろそろ。遊びは終わりかな。」
「まだよ。変態小僧。」
ブラフマの舐めてる声にエリーが威嚇で返す。
「ふふっ。女の子の肌は柔らかいからね。切り刻むのが楽しみだよ。」
戦闘が一層激しくなった音が聞こえる。
エリーとベネッタの悲鳴が上がる確率が増えてきた。
拳を固めて耐えていると、
「お待たせしました。」
「ふう。やっと出られた。すまねえカズハ。」
「いいえ。ヴィル様遅くなって申し訳ございません。」
「イッセイ待たせたな。」
カズハの頭を撫でる。丁度良い肩のほうも動かしても大丈夫なくらいは回復していた。エリーとベネッタの声が悲鳴ではなく掠れてきているが、まだ生きている。カズハが間に合ってくれたお陰だ。だが、急がないとまずそうだ。
俺はヴィルを掴んだ。
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次話は金曜日に投稿予定です。
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