84話 懐かしの『あれ』ですか?
活動報告にも書かせて頂いてますが章を分けました。
間話も入れてありますので、宜しければどうぞ。
https://ncode.syosetu.com/n1686ez/79/
本編に特に影響はありませんので、飛ばして頂いても問題ありません。
今日は、王都魔導研究所【通称:魔導図書館】へ行く日だ。
先日のベネッタの特訓に付き合ってからまだ3日と経っていない。手続き等に結構時間がかかると思っていたので、鍛えながら待っていれば良いやとのんびり構えていたのだが意外とあっさりと見学の許可が下りた。
因みにこれはベネッタのおかげではなく、国が見学許可を出してくれたからだ。
あの日(ベネッタの特訓に付き合った日)の夕方、宰相のアレックス様が血相を変えて屋敷に来た。そして、俺はこってりと絞られた。
「もう少し自重しろ。ベネッタが危うくモルモットにされるところだったんだぞ。」
っと、物騒な話しを聞かされて顔が青くなったものだ。
だが、その後褒められもした。将来有望な者を発掘した功績と言うことらしい。
その功績が認められて俺達は王都魔導研究所への見学許可が下りたのだ。
「イッセイ君。一緒に回りましょ。」
「イッセイ。私と行こうよ。向こうにエルフ縁の品物が置いてあるって。」
「ソフィー、エリー。勝手に動いたら駄目ですよ。ここではいい子にしててください。」
「「はーーい。」」
じゃれてくる2人に困っていると懐に隠しているヴィルが呟く。
いつもは面倒臭がる癖に今回はやけにノリが良かった。
武器だから持っていけないと言ったのだが、ナイフみたいに小さくなるから護身用に持って行けと言われた。
(ふぁぁあ。つまんねえ。早く目的の場所へ行こうぜ。)
いい子にしてろよヴィル。もう少しだからさ。
(あぁ。女とデート気分のお前に言われたくねえよ。)
誰がデート気分だ。誰が。
(あぁ、うん。お前はそういう奴だったな。)
等と軽口を叩いていると俺を右に左に引っ張っている、ソフィーとエリーの2人はエスカレートしていて俺の腕がもげそうになっていた。
「いだだだだだ・・・・」
「姫様頑張れー。」
「エリンシアさん。負けんなー。」
お前ら!! 応援してんじゃねえ、この2人を注意しろ。
「おいおい。お前達遊びに来たんじゃないぞ。ちゃんと見学の感想文は出してもらうからな。各自気になった物はしっかり見ておくように。」
一同「「「はーい。」」」
と、言う具合に学園のクラス全員で課外学習で見学に来ていたのだ。
理由は、俺とベネッタが研究所の連中に目を付けられない事と、とある王族の姫が俺とベネッタの2人きりで行くことに頑なにNGを出したからだと聞いている。
まぁ、皆で行ったほうが楽しいからいいけど。
「今日はこの王都魔導研究所にお越し頂いてありがとうございます。私はここの研究員でミサキと申します。このクッソ忙しい時期にわざわざお越し頂いてありがとうございます。何かあったら質問してくださいね。面白い質問ならどんどんお答えします。クッソくだらない質問はシカトしますからねー。」
ウサミミがピコピコ動く白衣を着た眼鏡美人が、場を仕切っていた。ウサギの亜人なのだろうが初めて見たな。しかし、メチャクチャガラの悪い。
ミサキさんの腹黒トークに流石の先生も顔を引き攣らせていた。
子供達は無邪気なもんで「はーい」と意味もわからず返事していた。
「はーい。みんな良い子ですね。チッ。じゃあ断れよ。」
黒っ!!
その後も舌打ちしながらも設備やら研究場所やらを熱心に案内してくれる腹黒ウサギのミサキさん。ただ、悪い人では無いようだ。
その後、モンスターの研究、魔法の研究。生活に役立つ魔道具の開発や回復剤の開発を見学して回る。
街で見かける品物も多く親近感が湧いたり。参考になったりと意外と刺激が多い。
特に気になったのは、モンスターの研究箇所を見学時にモンスターの解剖見学で驚いたソフィーに抱きつかれたのだが、思ったよりプルルンが育っている事だった。
この子の絶対いい女になるよ、将来の旦那さんは羨ましいね。
その後もほのぼのと周り、残すは1箇所だけとなった。
俺が求めている聖剣についての資料保管場所だ。
(チッ。勿体つけてねーで早く行けよな。まだかよ。)
ヴィルも流石に興奮気味だった。
「はーい。ここから先は厳重保存区域となりますので、先にお昼にしますよ。いっぱいお金払っていってね〜。」
(くっそ。こんだけ待って昼からかよ!!)
毒を吐いてくるうさみみさんは俺達を食堂に押し込むとそそくさと出ていった。
ヴィルはショックが隠せないようだ。
残された子供達は猛獣の如く食堂の入り口に殺到していた。
こういう時やたら1番を狙うのは性なのだろう。
1番を手に入れた子が優越感に浸った顔をしていた。
俺はいまいちあの輪に入る気になれないので、席だけ確保して落ち着いたら買いに行こうと子供達の動向を見守っていた。
ついでにサッとメニューを見て何を食べるかも考えておく。
やたらと軽食が目につくのはやはり研究所さながらかな。自席で食べながら仕事する人も多いのだろう。
後はステーキだのスープだのが目立った。同級生達はそんなのを頼む子も居たが、ここでフルコースでも食べるのか? と疑いたくなる。
あー。適当な軽食でいいか。
こういう場所でモリモリ食べる気にもならなかったので、適当に済ませようとしていた。
「イッセイ君。一緒に食べよ?」
「おや、ソフィー。どうぞ、と言っても僕も買いに行くからちょっと待ってて。」
「・・・とう・・・きたの。」
顔が真っ赤のソフィーは俺の横に座る。そして、何か言っているがうまく聞き取れない。
「えっ? ソフィーいつもより声が小さいから何も聞こえないよ。」
ツーっと差し出されたのは、バスケットだった。
ん? くれるのかな。
中を開いてみるとサンドイッチとちょっとしたオカズが入っていた。焦げてたり、形が不格好だったりするが手作り感があってむしろ美味しそうだ。
もしかしてソフィーが作ったのかな? 姫様が? 弁当を? いやいやそんなアホな、でも花嫁修行にあるのかも王国だって変わるもんだからね。姫様がご飯覚えたって何も不思議じゃない。で、将来のための味見役が俺ってことか、納得。一応聞いてみよう。(0.3秒)
「僕に?」
−−コクコク。
真っ赤な顔を俯かせて何度も頷いてみせるソフィー。
初めて作ったから恥ずかしいのかな?
まぁいい。せっかくだし頂こう。
「いただきまーす。」
食べ物に感謝を込める意味で手を合わせる。
ソフィーが不思議そうに俺の行動を見ていたが、気にせずサンドイッチにかぶりついた。
酸味の効いた果実これはカボースだな。と、油の乗ったモンスターの肉こっちはまさかロックロースの肉か? ちなみにカボースとはその辺の森や山に自生している普通の木の実で年中酸っぱい実を付ける。バーでお酒に入れて飲んでる人がたまにいるくらいであまり料理には向かない食べ物だ。
そして、ロックロースとは豚に近いモンスターで硬い皮に包まれていて倒すのも厄介な上に割と少食で穏やかなモンスターなのだ、とても怠惰な性格なので普段は寝てばかりいるモンスターで外敵も少く狩りの対象にもあまりならない。
肉も脂身だらけでこれまたあまり料理には使われない。
そんな人気のない食材ばかりを使っていた。使っていたが、
しかし、何だこれは!? 絶対に出会わない筈の2つの食材が出会った。奇跡の一品。味の宝箱や~!!
って位に美味し。はっきり言ってデラ美味し。
溢れる肉汁をパンが吸ってくれるので手は汚れないし、味が付いてなお美味い。
「フォフィーおいふぃいふぉ(ソフィー美味しいよ。)」
「そう・・・良かった。」
嬉しそうな笑顔のソフィー。
その笑顔を見ているとこっちも癒やされた。
手とか握ったほうが良いのだろうか?
何だか相手が緊張しているとこっちも緊張しちゃうんだよなぁ。
ドキドキしながらもソフィーの手に向かって徐々に近づけていく。
「なーに、勝手にイッセイとご飯してるのよ。」
−−ドッキーン!!
心臓が口から飛び出すかと思った。
顔を上げるとお盆いっぱいにフルーツを持っているエリーが立っていた。
「はい。アーン。」
そして、エリーは俺の隣に座ると切り分けられたフルーツを口に押し込められた。
うぉ!? 何じゃこりゃ。メッチャクチャ甘い。
口いっぱいに広がった甘みが口だけじゃなく鼻の方にも広がっていく。全身が甘みで満たされるようなそんな感覚。
俺は驚いた顔をしてエリーを見る。
「何これ? なんて言うフルーツ?」
「これ? 何処にでもあるフルーツだよ。ある調味料をかけただけ。」
何だと!? この芳醇な蜜と花畑にいるような淡い香りがただの調味料の力だと!?
エリーの力を侮っていた。
俺がワナワナと戦慄している頃、エリーはソフィーに向かってフフンと鼻を鳴らしていた。
−−ピキッ。
「どう言うつもりかなぁ?」
ソフィーが黒いオーラを纏いユラユラと揺れながら立ち上がる。
「そんな、みすぼらしい食材でイッセイの気を惑わそうなんて100年早いんじゃないの?」
「何ですって! これは貧しい村でも生き残れるように考えられた伝統の味の食べ物なのよ。貴方こそ世界樹にいるモンスターワールドハニーで作られる蜜を塗っただけでしょうが。自分所の特産品を売り込みたいなら商人を紹介するけど?」
「何ぃ!」
「何よ!」
−−ガシイッ。
手と手を組み合いプロレスの立会みたいになった2人は、俺の頭上で戦いを始めた。この2人仲がいいのかよくこんな感じでじゃれ合っている。
「姫様?」
俺がソフィーのバスケットの中身とエリーのフルーツを美味しくモシャモシャ食べている所にベネッタがやってきた。
「あれ。どうしたんですか?」
「えぇ。貴方に用があって来たのだけど。どうしたのこれ?」
ベネッタはひどく驚いた様子で俺の上で戦っているソフィーとエリーを見ていた。
「あぁ。これ? 友情の確かめ合いですよ。」
「そ、そうなの?」
「えぇ。この2人はとっても仲が良いので。」
上の2人からは「そんな事無いわよ」とか聞こえるが本当に嫌なら相手にしなければ良いのだ。それなのに喧嘩するのは心の何処かで互いに求めあっている証拠何だと思う。
「それで、僕に用とは?」
「え。あぁ、お昼を作って来たんだけどどうかなって。」
ありがたい申し出なんだけど。ちょっとお腹いっぱい・・・って、クンクン。何だか懐かしい匂いがする。
「頂いても良いですか?」
「良かった。結構食べてるみたいだから断られるかと思った。」
実際は断ろうと思ってたのだけど、何か非常に気になる匂いがした。
「こ、これは!?」
まーるく平べったい形のせんべいのようなものだった。
−−バリン。ムシャムシャ。ゴクン。
あぁー。神様ありがとうございます。異世界に行くと大体あるものなのにこの世界では見なかったから無いのかと思ってた。
「ちっちょ。ちょっと。何で泣いてるのよ。」
「ベネッタ。もしかして草の種か何かじゃないですか?」
「そうよ。良く分かったわね。当家が面倒見ている領地で最近見つけた物なの。麦より多く取れないしパンみたいに焼いても大きくならないのよ。だから、こうして焼いて食べてるの。珍しいから持ってきたんだけどまさか知ってるとはね。」
あぁ、こっちではまだ炊くって方法が確立されてないのか。
「この種、買わせてください。足りなければ準備します。」
金色の割符を差し出した。
「えぇー。別にこれってそんなに有名じゃないよ。」
「良いんです。先物買いです。」
「分かった。この前のお礼もあるし届けさせるわ。」
よっしゃ。お米ゲットだぜ。
多分品種改良とかされて無いから美味しくないかもだけどそれはおいおいで良いか。
今はこの手元にあるせんべいを美味しく頂こう。
その後もベネッタとお米談議をしばらくやってしまった。
お読みいただきましてありがとうございます。
次話投稿は金曜日になります。
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