73話 ついに見つけた鏡の手がかり
俺が決意を新たに敵を葬ることを決めている中、周りの様子が少し変だった。
「皆、どうした?」
「い、いや……」
「兄ちゃん。怖いよ」
担ぎ屋の親子は俺から距離を取りつつ互いに抱きしめあっていた。
そして、俺は何故かそれが気になった。
「……何をそんなに怯えている?」
「ゔゔゔ……」
ショーンは俺と目を合わせようとせず父親の中に身体を隠している。
そして父親の方もショーンを抱きかかえるようにして俺に対して警戒心を向けてきた。
何故か分からないが俺もこの二人の態度に苛ついた。
何となく俺たちの間で流れた気まずい空気がを破ったのはエリーだった。
ーーバシィ!
「ッーー!?」
いきなり頭を殴られた。コイツいきなり何をしてくるんだ。
エリーは結構戦士寄り(脳筋)なので殴られると痛い。
「エリー。何するんですか?」
「っ!! イッセイ。あんたオカシイよ!」
妙に突っかかってくるなぁ。俺が何したって言うんだ?
「何がです?」
「アンタ分かってないの? さっきから凄い殺気を振りまいてるわ」
「???」
殺気を振りまいている。それがどうした?
「それがどうかしましたか? さっき現れた敵に対して決意表明ですよ」
「だからって普通の人の前でそんなに強い殺気を出したら体調だって崩すでしょ。ちょっとは考えなさいよ!」
怒鳴ってくるエリーに対しても怒りを覚える。そんな事関係無いだろうっと。
「そんなのーー」
「何で関係無いって思うの? 貴方は優しい人よ」
イラつく気持ちを胸にエリーを見て文句を言おうとした。
しかし、俺はいつの間にか真っ白な世界に立っていた。
そして光の向こうからエリーではなく『桜の形の髪飾り』を付けた黒髪の少女が歩いてきた。
どこか懐かしい気持ちにさせてくれる少女は俺の事を涙を流しながら俺を睨みつけていた。
「貴方は何かを殺すためにここに来たの? 私を探すためだったんじゃ無いの?」
あっ…。
黒髪の少女の言葉に胸の奥にあった何かが目覚める。
何処か暖かくって甘酸っぱいものだった。
「鏡……なのか?」
俺はこの子を知っている。
さっきまでずっと覚えていた筈なのに今は思い出せない。
ーーバチコーーーン!!
「君、私との約束忘れたでしょ」
「イッテェ!!」
……感動的な再会とはならずに鏡にいきなりキレられ。殴られた。
「情けない。私の事を追いかけてこっちに来てくれたんでしょう? 助けてくれるんじゃ無いの?」
殴られた(?) お陰か分からないが先程まで感じていた怒りは消え失せ色々と思い出した。
そうだ……。俺は鏡を助けるために追いかけてこの世界に来たんだ。
「そうだ。鏡を探して色々と調べていたんだ」
「そう、そうよ。思い出した?」
そうだよ。何で忘れてた……?
「大体、そんな『敵を殺す』とか、変な熱血君は君に似合わないよ。イッセイ君」
はにかむ鏡の笑顔は収まらなかった怒りを一瞬のうちに消し去ってくれた。
ちょっと待て『お前を○す』は熱血主人公じゃない自爆大好き某ドMのガン○ムパイロットだ。俺はそんなの目指してないしそこまでする相手も居ないだろ!
とりあえずツッコんだが俺の心に日が灯る。今までモヤのかかっていたのが薄れていく感覚があった。
「ありがとう鏡。で、こん……ごぉ!? 鏡、す、透けてるよ!?」
そして、鏡を見ると彼女が薄くなっているのが分かった。
「あー、時間切れだわ。……全く面倒をかけさせないでよね」
笑顔で手を振って鏡が消えていく。背後に光った眩しい光に吸い込まれていった。
「いやいやいやいや、ちょっと待ってくれ。行かないでくれ。色々話したいことが有るんだああああああ!!!」
「……私、ずっと待ってるよ」
俺の叫び声と鏡の言葉は眩しい光に吸い込まれていった。
・・・・
「ーーーーセイ! イッセイ!!」
眩しい光を避けるように手をどかすと、目の前には見慣れた銀髪のエルフの少女が居た。
「……エリー?」
「エリーじゃないわよ。急にボーっとして、ってアンタ大丈夫。顔真っ青だよ」
「え? あぁ……」
力なくその場にしゃがみ込む。
さっき見たあれは何だったのか……。
「……兄ちゃん。これ」
チラリと横を見ると担ぎ屋の息子ショーンが飲み物を差し出してくれた所だった。
「あ、ありがとう」
俺がお礼を言うと父親の後ろに逃げていった。
すっかり嫌われてしまったな。
自分の先ほどの行動のせいだと思いながらも何となく悲しい気持ちになった。
「アンタ、本当に大丈夫? 殺気を出したり、抜け殻みたいになったり」
「え、あぁ……大丈夫ですよ、それよりさっきなにか見なかったですか? 強い光とか、鏡……とか?」
「光? 鏡って顔を写すアレ? そんなの今無いよ。アンタやっぱり大丈夫?」
俺の顔を覗き込むエリーは心配そうに俺を見ている。
見ているが『何いってんだコイツ』って顔をしている。
「い、いや……見てないならいい。何でもないです」
俺はエリーから目をそらし鏡の情報が無いか探した。
あの出来事を思い出す。
やはり、夢でも見ていたのだろうか?
どこを見ても鏡の手がかりは無かった。
「イッセイ。どう落ち着いた?」
エリーは面倒見がよく何度も俺に話掛けてきた。
面倒ばかり掛けている事に少々気が引けそうになる。
っと、エリーを見ると今まで付けて居なかった髪飾りを付けていた。
しかも、その髪飾り『桜の形の髪飾り』だった。
「エ、エリー。この髪飾りはどこで見つけたんですか?」
「えへへ、この髪飾り良いでしょ」
「そんなことより。どこで手に入れたんですか?」
「そ、そんな事って何よ。……ムカつくんだけど」
「エリー? 聞いてます? どこで手に入れたんですか?」
「ふんっ」
記憶の中で鏡がしていた髪飾り。それを今はエリーが何故か身につけていた。
俺はその髪飾りの入手先を聞きたかっただけ。少々強引に話を進めようとしたのは分かっている。
だが必要な情報なのだ。情報が何よりも大事だと分かっている。俺と死線を幾度と超えてきたエリーなら分かってくれる筈。
そう思っていた時期もありますた。
(タイプミスじゃないよ。)
しかし、出どころを聞いても何故かエリーがめちゃくちゃ機嫌が悪くなり。今では口も聞いてくれなくなった。
どぼじて?
仕方がないので焚き火に戻りエリーの機嫌を取る方法を考えていた。
だが、全く答えが出ずに途方に暮れているとショーンが俺に話しかけてきた。
「……兄ちゃん。もう少し姉ちゃんの事考えてやれよ」
「えぇーー考えてるよ。どうやったら機嫌よくなってくれて情報をくれるようになるか、ってね」
ショーンにバチンとウィンクを決めてやった。
ショーンは絶句していたがジッと見ている。これは俺に憧れの眼差しを送っているに違いない。
しかし、ショーンの心境は(何いってんだコイツ。しかも「決まった」みたいな顔がムカつく。駄目だ早く何とかしないと)と、思われており当然の如くイッセイは尊敬どころか共感も全くされていなかった。
「……姉ちゃんの髪飾りはオイラ達が空き家で見つけたものをプレゼントしたんだよ。兄ちゃんに見せたかったんだって」
と、教えてくれた。
なんだエリーやっぱり俺に見せたかった(情報提供したかった)んじゃないか。しかもショーンから貰ったならそう言えばいいじゃないか……。なぞなぞがしたかったのか?
じゃあ、ショーンに聞けばいいか。
「ショーン。髪飾りはどこで手に入れたンです?」
「ちょ、ちょっとどうしたの急に」
俺に両肩をガッチリホールドされたショーン驚いていたが情報元を逃がすような真似はしない。
俺は落ち着いてゆっくりと諭すように話し始める。
「髪飾りを見つけた場所って何処ですか?」
目を逸らさない様にしっかりと見つめる。
「ちょ、ちょっと、落ち着いてよ兄ちゃん。先ずは姉ちゃんの髪飾りが似合ってる事を褒めてーー」
「それは後で良いや。ショーン今は髪飾りの手に入れた場所が大事なんだ。僕をそこに案内してくれないか」
至って真面目な顔で話しかける。だが、ついに鏡の情報が手に入るかもって考えるとテンションMAXになってきた。
ショーンの肩から手を離すと俺は出かける準備を始めた。
「……兄ちゃん。そういう所が駄目なんだと思うよ」
美少女で強い銀髪のエルフ。助けられて彼女に憧れた少年はその視線がある男の子に注がれている事を知っている。しかし、当の男の子は美少女のエルフにも一切なびく事はなく、寧ろ本能に忠実であった。
少年はため息を1つ付くと報われないエルフの少女を思って呟いた。
・・・
「ここだよ。髪飾りはこの辺で拾ったんだ」
朝、ショーンには髪飾りを拾った場所に案内してもらった。
因みに城のギルドにはショーンの父親とエリーに行ってもらった。
念の為オジサンの護衛も兼ねてって事でお願いしようと思ったがエリーから切り出された。
それは、それは、恐ろしく冷たい目で無表情のまま見つめてきて低い声で城下に行くと宣言されたのだ。
後で何か美味しいものでも食わせよう。そうしよう。
エリーはさておき、今はココである。
「なんて言うか……」
目の前で見上げた家は苔や植物が絡みつく様に生えており明らかに放置されてから時間が大分経っている様に見える。だがこの家は確かに先程夢で見た家だった。
ログハウスだが外国の金持ちが好んで住むような特殊な形をした家だった。こんな実用的じゃない奇抜なデザインはこの世界には無いはずだ。俺……と言うか同じような知識がある者が見れば必ず分かるだろう。だが、あの時見た家と比べるとあまりに時間が経ちすぎている。それが俺の心に焦りを覚えさせた。
そんな色々な感情が入り混じり立ちすくんでいる俺にショーンが話しかけてきた。
「な、兄ちゃん、珍しい形だろ? 遺跡か神殿か分かんないけど神々しい形をしてるんだ。ま、中に入れないのが残念ではあるんだけどね」
ショーンがある程度家に近付くと金色の粒子が壁の様に現れショーンがそれ以上近づくのを拒むように立ちふさがる。
害は無いようで、『ポコン、ポコン』壁を叩くショーンは慣れているのか壁で遊んでいた。
しかし、俺はこの前見た夢の真似をする。
粒子の集まる壁に触れると夢の中で女の子が言っていた言葉を言う。
「えりな……」
ーーパシン。
鏡の名前を呼ぶと壁として立ち塞がっていた光の粒子は弾けて空に消えていった。
これで入れるようにはなった。実際にショーンが無くなった壁を何度も確かめる様に手を出し入れしている。
「すげぇ……、すげぇよ! 兄ちゃん」
絶賛大興奮中である。ショーンはすかさず家の中へと足を進めていくが俺はと言うと……。
案いざ入ろうとした時に俺は俺は緊張で足がすくんだ。
だって、ずっと探してきた鏡の情報を手に入れられるのだ。
そう考えると色々怖くなってきた。
「入らないの?」
立ち尽くす俺にショーンが聞いてくる。
ハッと我に返った俺がショーンを見ると彼は中に入れるのが嬉しいのか好奇心に満ちた満面の笑顔だった。
その笑顔を見たおかげで俺も緊張していた何かが解けた。
「入るよ」
そう言ってショーンの後に続く。
・・・
大抵人の住んでいない家は風化し廃墟と化すものだが、家の中に入ると思ったよりは傷んでいなかった。かび臭くもなくついさっきまで人が居たような気配さえあった。
誰か居るのかと警戒して部屋を見て回ったが特に誰か居る訳では無かった。
「なんだか変な遺跡だね?」
ショーンが納得のいかないような顔をする。
訳を聞くと遺跡っていうのは古く朽ち果てているものだと思っていたが、ここはそれっぽく無くてどうリアクションすればいいのか迷ってしまったらしい。
確かにここは時間が止まって居たかのようだ。
先程も言ったとおりついこの前まで人が住んでいたような気配を感じる。
「思ったよりしっかりしてる」
一通り全部見た俺はショーンにそう言った。
「だね。ちょっと直せば拠点にも出来そうなくらい」
「確かに……」
王都からも近すぎず遠すぎず人の目にも付きにくい。しかも、光の粒子をコントロール出来れば防衛もバッチリである。そう考えればここは拠点にするには最適な場所だった。
「別の場所を見てくるよ」
そう言ってショーンは部屋を出ていった。
俺もこの家がどうなっているか調べてみる。
テーブルに置かれた皿や燭台の汚れなどから本当につい最近まで誰かが生活していた気配が残っていた。
他の部屋を見ようと部屋の外の廊下に出ると俺を強く呼ぶ様な気配を感じた。いや、強い魔力と言っても良いかもしれない。部屋の扉から光が漏れているのだ。
惹かれるままに部屋に入っていく。
普通なら警戒し中に入るのを戸惑うものだが俺は躊躇なく部屋に入ろうと決めドアノブに手をかけ中に入る。
部屋は一通りの家具とベットが添えつけられて居たが質素と言うのがイッセイの第一印象だった。
「無趣味な人だったのかな?」
部屋を一回りしてからベットに近づく。多少風化仕掛けているがそこに人が寝ていただであろう独特の形が残っていた。
何かの拍子で拠点を移したのだろうか。掛け布団は直される事も無くそのままの状態を保っていた。
「特に収穫無し……か……」
俺は一人掛けの椅子に腰を掛けると背中を預ける。椅子は久し振りに動いたのかキシキシと音を立てた。
特に何も無い質素な部屋、何かがありそうな気配を感じただけにがっかり感も強くなった。
「ん?」
諦めかけていたときため息混じりにベットの下を見ると何かが挟まっている事に気付いた。
ベットを持ち上げて引っ張り出すと開かないように止め金で止められた本だった。
「本?」
止め金と言っても鍵ではなくストッパー程度の回転式の細工が施してある程度だった。
一見すれば大した細工ではないがそれは元いた世界ではと言うことだ。少なくても今まで行った街では見たことが無い細工だった。
何となくこれが俺の探すモノだと直感した。
表紙には『ニホン語』で【日記】と書かれていたからだ。
・・・
『拝啓 坂本一生様
これは、あの時一生君が私の後にこの世界に来てくれた事を前提に書いています。』
日記の表紙の裏に書き記されていた。
大分力が衰えている人間が書いたよれた文字で書かれていた。
これを見ただけで目頭が熱くなった。
あぁ・・・間違いない。
鏡だ。俺が探し恋い焦がれる鏡の文字だ。
そう思うと俺がここまでやってきたことが無駄でないと分かり一気に視界が歪んだ。
だが泣いている暇はない大事な手掛かりだ先に読まないと。そう自分に言い聞かせると泣きそうになる気持ちを抑え続きを読む事にした。
1ページ目をめくると一文だけ書き添えられている。
『いつか一生君に会っても良いようにこの日記には記録を残す事にします。』
変な表現だと思った。まるで会えないことが分かっているかのような曖昧な表現で彼女は記録として日記を書いていた。
この文を見ると泣きそうだった気持ちが一気に元に戻った。続きを読まねばと使命感の様なものが強くなったからだ。
『あの日。謎の雷に包まれた私は白くて広い部屋へと誘われました。そこで、世界の人々を救うよう依頼を受けたのです。
『転生』と言う生まれ変わりによって私はこの世界の平和を脅かす存在と戦う必要があるそうです……
ーーですが、私は何故か話に聞いていた時期から500年前に飛ばされています』
「………はぁ!?」
一瞬何が書いてあるのか分からなかった。
驚愕とはこの時の為に有るのだろう。
俺はショックで過呼吸気味になった。
鏡が行ったのは500年前だと?
確か金○は鏡が転生した時代に飛ばすと言っていたはずだ。だが実際に鏡がいた時代とは全く違う時代に飛ばされている。意味が分からないままだと頭がおかしくなりそうなのでそのまま続きを読み進める。するとそこには鏡が冒険をした事や出会った人の事等が簡素的ではあるが要点にまとめて書いてあった。
それなりの辛いこともあったようだが楽しい事もあったようで俺が転生していれば一緒に行きたいような事などが書き記されていた。
どこを読んでも500年前の出来事ばかりだった。
何の為にこの世界に来たんだよ……。
俺は椅子でうなだれる。今この瞬間、鏡がこの世界にいないと悟ったからだ。
手に持つ日記を投げ出しそうになるが何とか思い留まれた。泣かない様に目頭を抑えて何とか堪える。
そして、ゆっくり深呼吸して心を鎮める。
少し落ち着いたので、気を取り直して日記の続きを読んでいく。俺にはそれが義務なんだと感じたからだった。
・・・
続きを読んでいくと話が段々とキナ臭くなっていった。
初めは人族が魔族や亜人族と戦争を初め世界の情勢が慌ただしくなったことから始まる。この戦争で初期の頃は人族が優位に立っていたようだ。
連戦連勝で盛り上がる中、戦利品は珍しいものが多く大層な金になった事と捕らえた捕虜も価値が高いと噂されるようになると欲に目の眩んだ各国は余剰とも言える戦力を戦争に投入する様になった様だ。
略奪が行われ次々に捕虜や奴隷奪った物資が人族に運び込まれる姿は鏡にとっては目に余る出来事だったらしい。彼女の表現では『人族と魔族・亜人族どちらが悪なのか分からない』だった。
しかし、それも人族の劣勢へと変わっていく。
魔族と亜人族に新たな王が現れた。不思議な力を使うその勢力は魔族と亜人族を力でねじ伏せると兵として従え人族に襲いかかってきた。
人族の持つ兵器や魔法では太刀打ち出来なかったらしい。
その特異な力から【外来種】と呼ばれ恐れられる様になった。
「外来種が500年前にも居た!?」
そんな実家で読んでいた歴史書にはそんな表記は無かったし、金○もそんな事を一言も言ってなかった。と頭で反芻するが兎に角続きを読むようにする。
個体数は多くはないが奴らが出てくると人族はなす術を失った。しかも戦術眼も高かったようで人族が落とせない戦いには必ず顔を出したそうだ。
【外来種】の力は強大で人族との戦いを僅か一年で互角に持ち直した。
そうさせられたのは何かを施された魔族と亜人族の力もあった。理性を失った魔族と亜人族は殺戮の限りを尽くす死兵だった。
人族だろうが同族だろうが見れば片っ端から狩りに来る奴等はモンスターそのものだった。
鏡の日記はいちいち何かを想起させる表現だった。
そういった出来事の積み重ねもあるが人族はこの語に及んで人族間でも争いを起こしており人族は総人口の7割の人口を失った。
鏡はこの頃になると国には属さずレジスタンスとして全国各地でゲリラ的な活動を行っていた様だ。
この頃から鏡の各国に対する印象は良い事は書かれていなかった。人族の動きが怪しくなってきたからだ……。
レジスタンスは壊滅近くまで追い詰められていく。
人族から裏切り……売られたのだ。人族で唯一戦果を挙げているレジスタンス。
各国としても名目上無下にしたくない反面、面白くはない。要は何処にも属さない野良犬は駆逐しようという事だ。
【外来種】、魔族、亜人連合どころか人族からも追い詰められたレジスタンスのメンバーは決死の作戦を計画する。
シンプルな作戦はレジスタンスのメンバーが【外来種】、魔族、亜人連合に決死隊を結構するという簡単な作戦だったようで、鏡の日記から俺と会えない事への詫びが書かれた後で消した筆跡のあとを見つけた。しかし、レジスタンスのメンバーが決死隊を結成することは無かった。
出撃を控えるレジスタンスの前に【神】と名乗る者達が光と闇を司る神が現れたのだ。
14名神はレジスタンスのメンバーに力を貸した。神の力によって特殊な武器や力に目覚めたレジスタンスのメンバーを中心に人族は勢力を取り戻していった。
教会の神話にある『ユグドラシルの奇跡』である。
神の力を授かったものを【勇者】と呼ぶようになった神話である。
この時、鏡は神の1人から力を授かり聖剣を使う【勇者】となった事が書かれていた。
勇者の力とは【外来種】の特殊な攻撃を跳ね返す力があり、魔族の使う魔法攻撃の耐性も高かったそうだ。
神の力を授かった14名は『人族最後の希望』と呼ばれ反撃の中心となっていった様だが、この頃から鏡の日記には人族としての戦いが辛い様な事が書かれていた。人族の醜い部分ばかりが目に付くようになり色々と考える事が増えた様だった。
【勇者】のおかげで人族が優勢になりそのまま無事に【外来種】を撃退する事に成功し、大戦は人族の勝利で幕を閉じた。
『外来種を撃退し、奴らの世界に押し戻す事は出来たけど、倒す事は出来なかった。
なんで、なんで私の聖剣だけが不完全だったのよ!!!
このままだと私の身代わりになったアイツに顔向けできない。
外来種!! 次にお前らに会ったら八つ裂きにしてやる』
よほど悔しかったのかそのページの日記は涙の様な痕で滲んでいた。
そこからは内容が所々端折られて書かれていた。
俺を探して旅をしていた事、増長する人族の行いを見逃がせなくなっている事、それが元で仲間が徐々に離脱して行った事、人族相手に戦いが起こった事、年老いて人族との戦いに疲れ始めた事、そして……
『今、人族の軍勢に囲まれています。私の命も残り少ないでしょう。
……この世界に一生くんは居なかった。いくら探してもヒントすら見つからなかった。もう疲れたよ。
だから旅の途中で見つけた秘術を使うことにする。
術が成功した暁には外来種もこの世界の神も全て滅ぼしてやる!!』
このくだりには明らかにこの世界に落胆と怒りを表していた。
あの温厚な鏡が神を滅ぼすと言っている。神と言えば金○達だがこれは一回会いに行かないとダメだ。
更に日記の続きを読む。
鏡が何かしようとしている事が書かれているがよく読み取れない。
文章は乱れつつあり途中読み解けないグシャグシャにした文字等が目立つ様になってきたがーー
最後の一文。
『次は一生くんに会えますように……』
これだけはハッキリと読み取れた。
「ぅ………くぅ…。ぐっ、ぐす。っ……」
日記を抱えてその場に崩れ落ちる。
この一言は効いた。
今まで堪えていた悔しさと悲しみが体を支配する。
気づけば俺は、床を何度も拳で打ち付けていた。
割れた床に拳を突き刺し木屑が刺さろうが手を裂傷させようがこみ上げてくる感情のままに拳を打ち付けていた。
ーーごっ。ごっ! ごっ!!
「うおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」
何時までも。
何度も何度も何度も。
「兄ちゃん。なっーー! 何してるの!!」
怒りのままに地面を打ちつけている俺に気付いたショーンが俺に駆け寄りしがみついてきた。
「ねぇ。ちょっと、止めてよ。ねぇ?」
"邪魔すんなよ。"と、ショーンを振り払うような仕草にもめげずにしがみついてきた。
文句を言おうと思ったが俺の怒り以上に悲しそうな顔のショーンを見て力が抜けてしまいその場にへたれこむ。
手を見ると手の革はめくれ骨が見えていたが俺はそれを他人事のように冷めて目で見る事しか出来なかった。
お読みいただきましてありがとうございます。
次話は火曜日投稿予定です。
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