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【書き直し中】好きな子を追いかけたら、着いたのは異世界でした。  作者: 縁側の主
一部 二章 森を護りし一族と亜人の勇者
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65話 アリシャの正体

「少し窮屈かもですけど皆さん我慢してくださいね」


 馬車の御者席に座ったアリシャが俺達を見てそう言った。

 俺の身元確認が終わると、『あれよあれよ』と言う間に3人ともシェルバルト家の馬車へ乗せたれた。かなり焦っっていたのか詰め所から出ると目の前の馬車が横付けされておりほぼ人目に付く事無く馬車に詰め込まれた。


 ま、俺達の事は世間に公表しにくいしな~。


 一年間行方不明だった国王と辺境伯家の子息。それにエルフ族の少女。

 行方不明の期間も問題だが何よりメンツが濃すぎる。

 娯楽の限られているこのご時世、このメンツでうろつけば格好の噂の種になる。



 ・・・


 屋敷に着くとカサリナ母様が出迎えてくれた。


「イッセイ君。無事 ……かどうかは分からないけど、取り敢えず帰ってきてくれて良かったわ」


 俺のことを上から下まで見たカサリナ母様が言う。

 確かに今まで着ていた服はボロボロでその上から貰った特産品の火鼠のコートを着ていたので貴族の格好としては宜しくないのだろう。ホコリや垢まみれってのもあってどこからどう見ても長旅をしてきた冒険者の様だった。


「はい…、ご無沙汰しております。父様は執務室でしょうか?」

「焦らないで、まずは着替えていらっしゃい。レオも久しいわね無事かしら?」


 カサリナ母様はレオン父様(俺の父親)の正妻で俺とカレン姉様以外の兄妹の母親だ。確か辺境伯である父の親(上位貴族)で王国の剣と呼ばれる武人の公爵様の娘だったはずだ。王家にも顔が利くのでレオ叔父さんに対してもこんな感じだ。


「あぁ。心配かけたな」

「まぁ、私よりもニル(王妃様の愛称)の心配をした方が良いわよ。半年ほど前から国内全域に捜索命令を出してたから」

「ぐっ」


 王妃様は叔父さんを好きすぎて有名人だからなぁ…。

 この国(ガブリエル国)では、貴族であれば多夫多妻は認められている。そんな中、今政策の王族だけが一夫一妻という異例の措置を取っている。

 昔はレオ叔父さんにも側室の后様が居たらしいのだが、一切手を出さなかったそう。

 もっとも、2人が幼馴染で昔から好き合っていると言うのは物語になるほどの有名な話だ。

 宰相様やお城の文官は他の貴族には跡継ぎの件で苦言を言われているらしいが、一夫一妻制を他の貴族にも一切強要しないので国の貴族たちは何も言わず静観している。

 そんな、最愛の人が心配していると言われればそりゃ叔父さんも言葉に詰まちゃうよね。


「それから貴女はイッセイのいい人かしら? 何処で出会ったの? 誰から声をかけたの? ねぇ、ねぇ……」

「えっ、え…っとーー」


 面識の無いエリーがカサリナ母様にイジられてタジタジになっている。

 そして、エリーは別に俺のいい人では無い。


「カサリナ母様。詳しい経緯は後ほど話しいたします……」

「あら。ごめんなさいね。私とした事が」


 おほほと笑うカサリナ母様は、手を叩きメイドの皆さんを呼んだ。

 メイドさん達はエリーとレオ叔父さんに振る舞う人と何故かカサリナ母様を高台に乗せる部隊がいた。


「じゃぁ。御免遊ばせ」


 高台に乗せられたカサリナ母様は笑いながら屋敷の中へと消えて行った。


「こ、個性的なお母様ね」

「…ごめん。エリー。悪い人じゃないんだけど」


 こんな感じでサバサバしている性格で誰とも仲良くしてくれるいい人ではある。

 俺やカレン姉様の事も本当の子供の様に扱ってくれているしね。


 でもちょっと天然なんだよなぁ。


 俺は軽くため息を付くと屋敷の中へと入っていく。


 ・・・


 一度各人が席を外し体の汚れを落とした所で夕飯となり食堂に集まった。

 俺は父様の執務室に行き事のあらましを一通り説明しておいたので、目の前に座る2人の存在に戸惑うことは無い。こちらの状況を聞いたがマリーダ母様(俺の母様)とカレン姉様は王都の方へ行っている様でジョシュア兄様とリナマリア姉様も一緒に行っているらしい。久しぶりに会えると思ったのだが残念だ。

 席順は上座にレオ叔父さんとレオンハルト父様。父様の隣にカサリナ母様が座り、下座には俺とエリーが座っていた。

 飲み物のグラスを上に挙げ父様が乾杯の音頭を取る。


「レオ叔父上。先ずはご帰還おめでとうございます。そして、エリンシア=ウィンズロッド姫との新たな出会いに、乾杯!!」

「「「「乾杯」」」」


「この一年間何処に行かれていたのですか? 国を上げて捜索隊も編成されておったのですぞ」

「ううむ……」


 乾杯が終わると父様が直ぐにレオ叔父さんに話しかけ…いや、あれは説教だな。

 レオ叔父さんと父様の2人の会話はこちらには聞こえないが、質問をしている父様の顔や酒を煽りながら話をしている叔父さんの顔を見れば何を言っているのかは分かる。執事のセバスが父様達に張り付いているから熱が上がれば自動的に冷やしてくれるだろう。

 あっちは、あっちで勝手にやってて貰おう。巻き込まれると面倒だし、今はそれよりもこっちだ…。


「で、イッセイ。正直に言いなさい。貴方、エリンシア姫の事はどう思っているの?」

「彼女? エリーは相棒ですよ。彼女は世界樹に認められた勇者ですからね。期待してますよ」

「あのねぇ、そういう事を聞いているんじゃないんだけど……。って、この話はまだ早いのかなぁ~」


 カサリナ母様が食事会が始まって直ぐにこっちに絡んできた。父様たちの声を逸らす意味も有るんだろうが、顔を見る限りだとこの話がしたかった様だ。

 大体、エリーを目の前にこの会話は無いだろう…。前居た世界で異性の女の子の前でこんな話しをしてる奴見たこと無かったぞ。

 正直話をしても良いのだが、エリシャから「坊ちゃま。それを本人の目の前で言ったらエリンシア姫様が大変傷つきますので言わないでください」と、釘を刺されたのだ。


 とは言え、等のエリーと言えば…。


「何これ!! すっごい美味しい…。って、辛ぁ!! けど、旨ぁ!!」


 目下、カナリア母様の手料理に餌付けられ(・・)中である。

 実は、カサリナ母様は俺とかなり味覚の相性が良い。元々、俺と同じく辛い食べ物が好きな方だったが、新しいジャンルの料理を開発したいと言い出し中華っぽい料理を作り始めた母様だが、当初はこの料理あまり家族に受けは良くなかった。

 理由は、『とても母様の味付けはかなり辛い、だけ。』だった。母様の調理方法は、唐辛子に似た成分を出す虫から抽出した『辛子もどき』と塩で味付けした油っぽい料理。それが、母様の調理方法だった。

 オリジナルでここまで考えたのは賞賛に値するが、母様もイマイチ味のピントが合ってないとは感じていたらしい。色々壁にぶつかっていた。

 そこで俺がこっそり助け舟を出したのである。


 流石に味噌は無いのでコクを出すのは難しいが、酒や野菜を煮て水分を飛ばすやり方。

 酒を日に晒し作った酢、レモンの様な酸っぱい味の木の実、山椒に似たピリッと刺激のある木の実などを見つけてアリシャを返してカサリナ母様に提供した。

 もちろんアリシャには事前に中華っぽい料理を作って食べさせ味も覚えてもらった。

 アリシャになんでこんなのが作れるのかと聞かれたが知らん顔で押し通した。


 そして出来たのが、カサリナ母様のオリジナルの中華となっている。まだまだ荒削りだが大分中華っぽくなってきていたし、他の家族の反応も良かったはずだ。


「でしょ。エリンシア姫もこの味の良さが分かるって事は信用出来る人みたいね」


 おい母様。自分の好みの味で人を信用するんじゃない。

 全く、人が良いんだか悪いんだか良く分からない人だ。


「レオ叔父上。貴方はこの国の王なのですぞ!!」


 バンッとテーブルを叩いた際に皿やお酒の入れていたグラスがカチャカチャ音を立てて揺れていた。

 どうやら話し合いは熱を帯びたようである。

 セバスが父様に落ち着くように言い聞かせていたがどうも収まる気配がない。

 カサリナ母様がスッと立ち上がると父様を連れて一度部屋を出ていった。


 叔父さんが疲れた表情で酒を飲んでいた。

 この人、この国王様だよね? なんでイチ貴族にキレられてんの?


 とも思ったが、


「ははっ、従兄弟とは言え子供を一年も連れ回してどういうつもりだと怒られてしまたよ……」


 叔父さんが凹んでいた。

 そして、父様は俺を無断で連れ回した事を怒ってくれた様だった。


「叔父さん。僕は一緒に旅が出来た事は後悔してないよ」


 元気の無い叔父さんの肩を掴むと叔父さんは肩を揺らした。


 ・・・


 それから10分ほどしてからカサリナ母様が父様を連れて戻ってきた。幾分反省したのか若干父様も凹み気味である。叔父さんの隣に座るが気不味い空気が流れていた。やれやれ…。


 俺は、すかさず立ち上がると父様の近くまで行く。

 俺の姿を見た父様がぎこち無く笑うがこの話はしておいた方が良いだろう。


「父様。先程ご報告が漏れている内容がありました」


 俺の言葉を聞いた父様はまだ有るのかと顔を怖貼らせる。


「王都にあったあの魔法陣がエルフの里にもあったのですよ」

「何?」


 魔法陣の話をした途端、父様の態度が変わった。

 先程まで心労がかさむから後にしてって顔じゃなく。食い入るように俺を見る。

 一瞬何か有るのかと思ったが話は進める。


「それで、破壊したは良いものの仕掛けられていた罠に掛かってウリエル国の森林にまで飛ばされてしまいまして……」「動いていたのか!?」


 俺の話を遮り起動していたかを確認してきた。

 ここまでの食いつきにいささか引いた俺は、


「…起動はしてましたね」

「で! 体に異常は出なかったか?」


 いきなり立ち上がり俺の肩を揺さぶる父様。

 目がギラッギラしてて。怖いッス。


「え、えぇ。特に何も…」

「………そうか」


 本当は俺の中で何か声を聞いた気がするが確かでも無いし特に伝えなかった。この時、俺は何故叔父さんが軽い嘘をついたのか気になったが父様は何もなかったと聞いて椅子に座り直したのを見て自分の判断が間違っていないと思った。


「そうか…。それは良かった」


 どうやら心配してくれていたようだ。


「……父様ありがとう」


 本当(・・)の父親を知らない俺は素直に嬉しかった。


「で、エルフの里はどういう所だったんだ? 噂には時の流れがこの世界と違うと聞いたことがあるが」


 どう説明するのが良いのか。エルフの里の事を説明するのが難しい。実は数年位歳を取っていなかったとは決して言えないので口籠る。エリクシールの件もあるし。


「エルフの里は外界との時間の流れが違い、かなり遅く進みます」


 って、おぉーい。そんなにキッチリと説明するんじゃーない誰だよ。まったく……

 そう思って説明した人を見るとアリシャが嫌悪した様な顔をして説明していた。


「アリシャ、何故その事を……」

「アリシャさん。やはり貴女は。」

「はい。エレンシア姫様は流石にお気付きですね……。実は私はハーフエルフなのです」

「ハーフエルフだと!?」


 驚いた。


 それは、父様が急に大声を上げたからだ。アリシャについては別にそんなに驚く必要はないと思うけど。

 思い返せば、アリシャは昔から良く気づく子だった。

 何処にいても何をしてても彼女には筒抜けだった。と言うか俺のプライバシーは無かったと言っても過言ではない……。むしろアリシャがハーフエルフだと聞けば納得だ。

 風の魔法を使って色々やっていたのだろう。俺がやってた事の逆バージョンだ。

 俺以外の皆が驚きのあまり言葉を失っていたと思ったが、やっぱりこの人は違う。


「あー。そうだったんだ。もっと早く教えてくれればいいのに」

「カ、カサリナ?」


 父様が素頓狂な声を出したが、カサリナ母様は話を続ける。


「え? だって別にエルフ族とは戦争している訳でもないし、そもそもエリーちゃんは良くてアリシャが駄目な理由はあるの?」

「だが、ハーフエルフは邪悪だと…」

「レオンって昔から頑固よね。そういう所、アリシャが邪悪か考えれば良いでしょ」


 確かに。いくら父様でもアリシャを傷付けそうなら抵抗するよ。


「いや。まぁ、そうなんだが……」


 父様も母様達には弱い。カサリア母様に詰められていてシドロモドロになっていた。

 どうすればいいのか分からない状態になっている。


「それにレオ達は、エリシードに会ったのでしょ?」

「あぁ…。だが、どうし……なるほどな」

「何故、エリシードが出てくる?」


 あらぁ? ここに居るお3方はエリシード王をご存知?

 奇妙な接点に首を傾げる。しかも、エリシード王の名が出てから父様がやけにカリカリしている。


「この子、エリシードの子よ。多分ね」

「「「!!?」」」

「……」

「え?」


 俺達全員がアリシャを見た。アリシャは目を伏せてジッと黙ったままだ。

 この話の流れで1番動揺していたのはエリーだ。

 落としたスプーンに気づかず何度も皿の料理をすくおうとしていた。


「……はい。エリシード=ウィンズロッドは私の父です」

「ほらね。目元がそっくりだもの」


 皆が固まっている中、カサリア母様だけが満足そうな顔をしていた。



 ・・・



 その後も話が大脱線しながら何とか旅の報告は無事に終わった。エリーとアリシャが微妙な空気を醸し出していたが、エリーはアリシャと話がしたいとの事で空気を読んだ俺達は話半分の状態だが今日はお開きとした。

 そして、俺は数年ぶりに自室で寛いでいた。


「ふぅ。なんて言うかここはこんなだったですかね」


 少しだけ小さくなった椅子に腰掛けて背中を預けると、"キィ"っと軋む音がした。


 ホッとした反面でドッと疲れも押し寄せてきた。

 どうやら楽しかった旅も実はどこかで無理をしていた様だ。緊張の糸が切れた為疲れがどっと吹き出した。


「あまり収穫も無かったな……」


 もちろん成長と言う意味では物凄く価値があった冒険だった。新しい仲間のエリーも加わりこれからも心強い。しかし、自然と口から出たのは鏡の事。


 実は、エルフの里に行ったのも鏡の情報が無いか探したかったから。

 ……いや、実際には収穫はあったのかもしれない。鏡と戦かう筈の敵が現れたからだ。

 金○様は鏡が戦う運命にあると言っていたので、この世界の何処かに彼女が転移または転生しているはずだ。


 沈んでいく夕日をジッと眺めていると、


「ふぉふぉふぉ。何を思い耽っているんじゃ?」


 バッカスが俺の肩に乗り声を掛けてきた。

 別に感傷に浸ってた訳じゃない。ただ、沈む夕日が何時もより綺麗に見えて見とれてただけだ。


「うん。ちょっと…夕日が綺麗だと思ってね」

「ふむっ、夕日の美しさに気づくには少々早い気がするんじゃが…、お主本当に子供か?」


 バッカスは俺に何かを感じたようだ。いや、感じていたけど黙っていてくれた。が正解か…。

 何れは皆にも話さないといけないと思っていたのだが、キッカケが掴めずここまで来た。今がちょうどいいのかもしれない。


 意を決した俺はバッカスを見ずに言う。


「バッカス。皆を呼んでくれる?」


お読みいただきましてありがとうございます。

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