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【書き直し中】好きな子を追いかけたら、着いたのは異世界でした。  作者: 縁側の主
一部 二章 森を護りし一族と亜人の勇者
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50話 エリシード王様の秘密


「称号は、【森の勇者】です」


 エリーの一言は、謁見の間の空気を完全に止めた。


「はっ? エリー‥なん。え? いや、エリンシア姫。何を言って…えぇ、本当に? ゆう…勇者、ゆ。うぇ?」


 あまりの事に俺は思わず取り乱してしまった。

 確か勇者は過去の出来事から人族からしか発現しなかったはずだ


「ふふっ」


 鼻で笑ったのは首に付けてるヴィル。

 辺りを見渡すと叔父さんとエルダさんの2人は俺の反応を見てニヤついていた。

 何そのサプライズ。正直要らないんだけど…。

 まぁ、実際エリーが勇者だって事には驚いたけど潜在能力は高そうだったから加護が何も無いって聞いたときは俺達に隠してるのかと思っていた。


 そして、どこまで知っていたかは分からないが恐らく加護を得る(こうなる)事は、犯人達は知っていたのだろう。

 エリーの話を聞いてから皆がバツの悪そうな顔をしている。


 逆に事情を全く知らされていなかったエリーの両親であるエリシード王様とエレンハイムさんは驚きを隠せない顔をしていた。


「え? 勇者? エリンシアが? なんで?」

「私のエリーが勇者? う、うぇー? なんで、エリー何で」


 とか、若干俺と言ってることが被ってるし…。


「お、王? 母様?」


 戸惑っている両親にエリーもどう接して良いのか分からない様子。


「お、おぉ…。すまない。ちょっと何を言っているのか分からなかったからね。あっ、何か証拠とか見せられる? 技とかでもいいよ」


 エリシード王がエリーに対して返した返事はとても淡白だった。と言うかまだ状況が飲み込めていない感じ。エレンハイムさんにいたっては口をパクパクさせている。

 後は、王様が呼んだ王子や姫様方も驚きを隠せない様だった。


 ま、いきなり自分家の一番下の妹が「勇者になりました。」とか言われて理解がついていけないだろう。


「はい」


 エリーは返事を返すと膝まづいて世界樹に祈りを捧げた。

 すると、世界樹から光の粒子がエリーの頭上に降り注いぎ眩い銀色の光が部屋を照らし俺達全員は光に吸い込まれた。


 目を細めエリーを見ると彼女の姿だけははっきりと見える。

 それ以外は強い光で何も見ることが出来なかった。

 神々しいを通り越して恐ろしさを感じ冷たい汗が頬を伝った。


 --ギン


 目を開くエリー。その目は金色に輝き、見ている全てを見透かしている様な強い力を感じる。

 瞬きせずに見開かれた目は、神経に負担があるのか目の周りに無数浮いていた。


「世界樹とリンクしました。これより過去の事象を追っていきたいと思います」


 エリーはそう言うとエリシード王を凝視し無言になった。

 その光景は神が献身的な信者に微笑みかける様にも罪人に罪を与えるような審判の目にも見える。

 その様なプレッシャーのかかった場の空気に一同は固唾を飲んで見守る。


「エリシード王。貴方様は…」




 ・・・




「ふぅ。取り敢えずは一段落と考えて良かったでしょうか?」

「そうだな。取り敢えずは…だな。で、お前あいつ等(・・・・)を助けるんだろ?」

「はい。そのつもりです」

「まぁ、アイツ等なら直ぐにはやられないと思うがなぁ…」

「処遇についても後で(・・)王様に聞いてみるしか無いですね」

「あぁ、後で(・・)な…」


 世界樹と見事コンタクトを取ったエリーは無事にその力を見せる事に成功し、里内…いや、世界で初となる人族以外の勇者誕生という事で認定を受ける事となった。

 その際、エリシード王は過去の重大な出来事が発覚し、エリーとエレンハイムさんとエルダさんは2人の国外出動から儀式の未達成の経緯説明をエリシード王は過去の出来事について元老院から事情聴取を受けている。

 内容はどうあれ(ほぼ)久しぶりの家族水いずらずで過ごせているようで何よりだ。

 そんな中に俺達が入る訳にもいかず、外出するにも元老院から『何かあると面倒なので外出は控えてくれ』と言われており、あてがわれた部屋に戻り適当に寛いでいた。

 俺は荷造りをしながらこの里を出る準備をしていると、部屋に吊るされているハンモックに寝転がり酒を煽っている叔父さんが『クツクツ』と笑い声を漏らしながら話しかけてきた。


「しかし、あの初な(うぶ(な))エリシードが他種族との間に子供とはな。これは良い土産話が出来た」


 他人の不幸を喜ぶ叔父さん。とても失礼だ。


 とは言えこれがエリシード王の召喚の主な理由だった。

 エルフの世界では『純血至上主義』とか言うDTが『処女至上主義』と主張する様な位どうでも良い事にポリシーを置いている。

 その為、女性が他種族の子供を産むのはモチロン、男性にも種を外に配出する事をキツく禁じている。

(それでは種の絶対数が減りエルフが枯渇してしまうではという意見があるが、エルフは妊娠期間が他の種族と違うのだ。 と言うのはまた別のお話)

 それは当然、王族であっても他種と子を成すことは禁止されている事である。


 だが、そこは所詮は男と女だ。

 ガチガチに決められた制度の中に入ればいるほど、その規律を守っていればいるほど、外に出た時はその(たが)が外れる。

 簡単に言えば、地元では真面目で夜遊びもしない人が県外や海外では人が変わったように遊び呆けるといった具合である。


 当然、行為自体は規制されておらず避妊さえすれば何処でナニをしていても気付かれないのだ。

 エリシード王は過去に準じた戦争でとある女性と懇意になった。そして、その戦場に留まっている間は世話を頼んでいたそうだ。


 優しいイケメン、家督も申し分ない。


 いくら一時の夢だったとしても男女の関係に成るのは時間の問題で必然だった。

 誤算だったのは相手が懐妊していたらしい事実を隠されていた事。


 と、言うことが世界樹にて赤裸々に暴露されたのだ。


「実の娘の口から自分の過去の過ちを暴露されるとかどんな拷問ですかね…」


 俺としてはその場で自殺したくなる案件だ。

 エルフ族にメディアが発達していたらこう書かれていただろう。


『夜の狩人エリシード王。放った矢の命中率は100%!?』


 きっとこう書かれたに違いない。


 実際にエリシード王も話が進むにつれ青から黄色、黄色から緑と多色に渡って変化し、話が終わる頃には黒に近いマーブルの毒々しい顔になっていた。


 よほど、他種族の血を混ぜるのは良くない事のようで、王妃全員の視線は冷ややかな目で、エレンハイムさんですら虫を見るような目だった。


 何だろうか、多夫多妻がOKで他種族のお手つきがNGの差がわからん…。


 エルフに対して謎が深まった。


「今度会いに行くとか言ってましたが、居場所は分かるんですかね?」

「さぁな。ま、エルフだし何か手があるんだろう」

「そうですね。出来れば良い方に話が進めば良いんですが」

「それこそ王次第だな」


 俺も「ですね」と言いながら苦笑いを返す。


 --コンコン


 ドアをノックする音が聴こえた。

 一応、警戒するが気配は一緒に旅をしてきた兵士Aさん事、エイワーズさんだ。


「どうした?」


 叔父さんがこっちを見て確認してきた俺は知り合いだと伝えると叔父さんが警戒を緩めた。

 部屋に入ってきたのはやはりエイワーズさんだった。


「失礼します。お食事のご用意が整いました」


 どうやら食事の案内だったようだ。

 叔父さんは警戒を解いてエイワーズさんに近づいた。


「わざわざすまん……な…。ぐふっ」


 突然叔父さんは声をつまらせる。

 変な雰囲気を感じた俺は体を起こしポケットの石に触れる。


「叔父さん!!」

「慌てるな。貴様…どういう‥つもりだ」


 叔父さんの脇腹から赤い血が滴っていた。

 エイワーズさんがナイフを抜く。すると、ギラリと音がするような鋭利で毒々しく紫色に光るナイフが姿を表した。よりにもよってフルチングか…


「人の国の王様。すみません。お許しを…」

「なっ!?」


 --ドシュ


 そうエイワーズさんが告げると、手に持っていた武器を自分の首に刺した。


 壮絶な光景だ。しかも叔父さんを失うかもって思ったら目の前の視界が揺れて世界が狭くなっていく。更に足もガクガクと痙攣しだした。


「れ、レオ叔父さん!」


 何とか声を大きく出す事で吐き気と目眩を誤魔化す。

 叔父さんはそんな俺を見て悟ったのか、


「騒ぐな! ワシは大丈夫だ。それよりこっちに来てコイツを治療しろ。急げ次が来るぞ!」


 刺された場所を抑えながら入り口にもたれ掛かると叔父さんは壁際に滑り落ちた。

 少しでも壁になろうとしてくれているらしい。


 未だに手がプルプル震える俺は、自分で自分を殴りつけた。


「うおおおおおおおお」


 --ガスッ


「がはっ」

「何やってんだ。お前…」


 殴りつけた頬が意外に効いた。

 一番近くで見ていたヴィルは呆れた声を出してきた。

 分かってる。めっちゃスポ根だった。けど…


 おかげですっかり手の震えは止まっており視界もバッチリ。吐き気も消えていた。


 現状を確認すると自決を計ったエイワーズさん。フルチングの毒が回り虫の息だった。

 そして、扉を防ぐ陽に座っている叔父さん。こちらも腹部から大量に出血しており、更に毒の影響で重体だった。


「アクア、カズハ、バッカス」

「「お呼びですかイッセイ様」」「ほっほ呼んだかな」


 各々が返事をしながら出てきてくれたが、あんまり時間がない。


「アクアとカズハは叔父さんとエイワーズさんの治療を担当してバッカスは…」

「入り口を固めればいいんじゃない」

「お願い」


 まずはバッカスの力で二人を寝かす台と入り口を固めてもらい、アクアによって体内の毒の強制洗浄と減った血を補填する。そしてカズハの光の力で傷の殺菌、消毒をおこない。最後に刺し傷についてはバッカスに木の細い繊維を作ってもらい魔力を使って接合していった。


 簡易的ではあるが手術をしたのだ。

 殆どが精霊の皆の力のおかげではあるが、魔力と真横で指示を出していたので俺も消耗していた。

 治療と言ってもできる事は限られているしおれ自身も知識がある訳ではない。

 見様見真似で出血している所を洗浄、殺菌、血の補填を繰り返しただけである。

 それでも冒険者が現地で行う応急処置よりましだろう。


 なにせ彼らは薬草をくっつけたりポーションをぶっかけたりするだけで消毒はモチロン縫合も特にしないのだから…。


 叔父さんとエイワーズさんの容態を見ると二人共顔色が先程よりも幾分も良くなっていて、息も安定している。どうやら死ぬことは無さそうだ。


 俺は地面に落ちているフルチングを拾いあげるとヴィルで斬った。

 ナイフに封印されていた魔力や怨念が一気に解放され床にはただのナイフが残る。


「くっそー。完全に油断した…」


 後悔の念が頭を過る。

 リリコさんから取り上げた際にさっさと処分すれば良かったのに、もたもたしてる内にエルフの軍が来てしまい証拠として奴らに渡してしまったのだ。


「だが、出処は分かっている」


 エルフの軍。そこからどういう経路でエイワーズさんに渡ったかは分からないが上流はそこだ。

 俺の中で沸々と煮えてくる感情が沸き起こる。


「い、イッ…セイ……」


 怒りに任せ感情のまま行動しようとしていた俺の腕を叔父さんがガッシリと掴んだ。同時にモヤモヤとしていた感情が一気に飛散した。


「…はっ?! お、叔父さん目が覚めたの?」


 まだ弱い握力だが俺の腕をしっかりと握ってくれた。


「何かありますか?」

「……」


 体力が減っているせいか、叔父さんがなにか言っているがよく聞こえない。

 俺は叔父さんの口の近くに耳を近付け話に耳を傾ける。


「……エリシードはな」


 --ゴクリ


 この状況で王様の事を話すとは何か重要な情報かもしれない。俺は叔父さんの話に集中する。


「…あいつは」

「うん。王様は…?」



「あいつ…包茎なんだぜ」



 知るかよ…。

 どうでも良いよそんな情報。


 なんだよぉ。てっきり何かまずい情報を持ってたから狙われたかと思った…。

 いや、本人からしたら結構嫌な情報か? まぁいいや。


 気の抜けたような顔をしてたのがバレたのか、叔父さんは「クククッ」と笑い。


「…焦り…すぎ‥なんだ…よ」


 そう言われた。

 しっかり見透かされてた訳である。


 すっかり頭が冷えた俺は叔父さんを見ると納得したのか叔父さんは、「腹が減った何か無いか」と言ってきた。


 そう言えば夕飯を食べ損ねてたっけ。


 --ドンドンドン


 扉が叩かれ俺は警戒する。


「何か大きな音がしましたが大丈夫ですか!」


 扉を叩いたのはエルフ軍の人間の様だった。


「特に問題ありませんよ」


 返事をしつつ念の為、魔力探知を使い外の様子を伺う。

 案の定、部屋の外には武装した兵士達が数名この部屋を囲んでいる。


「ここを開けてください。世界樹を護りし皆様をお守りせよと第一王妃様よりご命令です」


 なんと、エレンハイムさんからの援軍か…って、アホか。

 コイツ等自分達で今敵だと言い出した様なものだ。

 良すぎるタイミングとエレンハイムさんの名前が出たことだ。

 こういう場合、絶対にエリーが橋渡し役になるはずだ。

 まぁ、そんな事を気にしなくても外にいる奴らの殺気が凄い。

 もはや隠す気が全く無いのか扉越しにいるここにも殺気が届いている。


 殺るか…。


 と、体からドロっとした感情が湧いてくるが首を振って落ち着きを取り戻す。

 下手に問題を起こすわけにいかないのだ逃げる算段をする。


 --ドン! ドン! ドン!!


 扉を叩く音がかなり大きくなってきた。

 全く開かない扉に痺れを切らしてきたようだ。


 こんな事もあろうかとバッカスには入り口を中心に周りの壁も大分硬い功績に補強しているのだ。


「逃げるにも方法が思いつかない…」

「何だそんな事か? 奴らも今回の件に賭けてるって事だろ」


 ヴィルに話しかけたが特にいい案は思いつかない。


「??? どういう事?」

「…そのままだ。奴らここに戦力を集中させている可能性が有るってことだ」

「って事はここさえ上手く逃げれれば…」

「そうだ。たまたま、捕まっている勇者達が暴れてたら逃げやすくなるよな?」


 随分具体的なヒントをくれヴィル。

 …ヒントって言うかやれって事だよな?


「うーん…。しかし、そうしたらそのまま逃げれないとマズイよね」


 ぼんやりと宙を見ながらヴィルが言っている事をシュミレーションする。


「まっ、エルフの里には2度と入れねえだろうがな。でも、別に良いだろこんなしけた村、たとえ滅んだって誰も困らねえよ」


 ヴィルが返事をくれるが言い方が物騒だ。

 何だろうコイツ。いつもより言い方がきついぞ…。何かエルフの里に嫌な思い出でもあるのか?


「まぁ確かに…って、幾ら恨みがあるからってそんな理由で里を滅ぼしたらダメだろ!!」

「はぁ!? お前…、バカなのか? …ったく、まだまだ修行がたんねーな。ちょっと下の方に気配を向けてみろ」


 え? ヴィルの言われた通り意識を下の方に向けると…


「っ!?」

「気づいたか、戯け者が」

「あぁ…。ごめん。あれがある」


 この気配、つい最近ヴィルが封印されていたあの場所で感じた雰囲気と一緒だった。

 そう、王国の洞窟内で見たあの封印の陣と同じ気配がした。

【外来種】の何かが封印されている場所だ。


「ヴィル。これじゃ、逃げてる場合じゃ…」

「さぁそれはどうかな? 大分深い位置に有るみたいだからな」

「とにかく今はこの状況をなんとかしないとだ」


 悩みのタネがもう一つ増えた。

お読み頂きましてありがとうございます。

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