49話 世界樹からの贈り物(称号)
「さっさと武装解除しろ!!」
俺達は今エルフの軍勢に囲まれ弓で威嚇されている。
囲んでいるその数ざっと数えて20人。俺達が勇者達2人を無力化した辺りからこっちの隙を探っていたのかもしれないな。
魔力探査してたけど全然気づかなかった…。
何か特殊な対応でもされているのだろうか?
風のように現れたエルフ兵達は瞬く間に死角の無いポジション取りを行い。
俺達6人を必ず誰かを狙えるような配置取りしてきていた。
叔父さんが周囲を警戒しだしたので俺も警戒を始める。何時でもヴィルを発動出来る様に用意する。
「おぉ。エルフの同胞達よ来てくれたのか!」
エルダさんが警戒しているエルフに近寄ろうとする。
「よせ!!」
叔父さんの怒号が飛び首根っこを抑えられエルダさんがつんのめった。
「何をする!」--ドスッ!!
「へっ?」
つんのめったエルダさんの足元に矢が刺さる。
「…エルフ軍。どういう事かな?」
「動くなと言った」
怒ったエルダさんの主張にエルフ軍が返してきたのは殺気だった。
そしてその殺気は俺達にも飛ばしてくる。それも、姫であるエリーに対してもだ。
コイツ等、味方じゃないの? そう思ったがエルフの世界にも色々あるようだ。
そして、エリーも負けていない様だ。
「どういうつもり?」
怒りを露わにするエリーがエルフ軍に噛み付くが、エルフ軍の奴らは表情一つ変えなかった。何だコイツ等? 表情も無く動きもないまるで死人だ。
表情もなく視線もこちらをジッと見るだけだが。殺気は濃いのを撒き散らすエルフ軍。一触即発の雰囲気の中、エルフ軍の後ろから声が聞こえてくる。
「おや。無能者のエリンシア姫じゃないですか。当てられていた賊の討伐任務は無事に完遂出来たようですね。では、ネズミはこいつ等ですか?」
エルフの兵士達の間から顔を出したエルフは指揮官のようだ。
そいつがニヤリといやらしい笑みを浮かべ、エリーを見ていた。
エルフでも珍しくおしゃれヒゲを蓄えたイケメンで、銀を貴重とした鎧に身を包んでいた。(他の兵達は銅の甲冑を来ている)
って言っても、指揮官っぽい人が着ている甲冑の銀は普通と違って虹色の光っている。
もしかして銀は銀でも『ミスリル銀』ってやつだろうか?
エリーにこっそり聞いたら「そうだ」って言われた。
パクって帰りたいな…。
それよりも…くそっ。ここの種族は全部(男も女も)イケメン揃いかよ!
言わずもかな弓を構える兵士達は男女問わずイケメン…もとい整った顔の持ち主が多かった。
そっちの世界にご要望をお持ちの方からすれば、完全にご褒美だ。なにせ、ネタには事欠かない位凄い美形ばっかりなのだからだ。
強いて言うなら皆美形だからある意味個性が無いって所か。けっ、贅沢な悩みだ。
ま、あれなら誰がどうくっついても絵(同人誌)にはなりそうだ。
話がそれたが、ミスリル銀装備におしゃれヒゲのイケメン指揮官がこちらに近づいてくる。
コイツ、今エリーを『無能者のエリンシア姫』と呼んでいたがどういう事だ?
今回彼女は力を手に入れたと聞いたが?
俺と叔父さんはエリーをかばうように前の出る。
丁度俺達と胸を付け合わせるかと言う距離まで詰める。
「おやおや。エルフの軍が出てくるとはそこまでの事かな?」
「ふっ。人族の王よ。ここではそのような威嚇は意味がないぞ。ネズミと姫をこちらに渡して貰おうか」
叔父さんは身の毛のよだつほどの殺気を放ちイケメンエルフと視線が『バチバチ』になっていた。
「…失せろ。姫の御身も捕えた者達も貴様らに渡すつもりはない」
慣れていると思っていた俺ですら今の叔父さんには心底怯えた。
顔を見なくても気配だけで鬼のように怒っているのが分かったからだ。
目の前のエルフ軍兵も表情は変えないが顔色は悪い。
「…ふっ。良い殺気を放つ。だが悪いな宰相命でな連れて帰らねばならん。ネズミと無能姫を引っ立てろ!」
イケメンエルフの号令で周りを囲む兵達が一斉に動き出す。
俺がヴィルに手を掛けようしたが叔父さんに止められた。鷲掴みされた肩が砕けそうだ。俺に八つ当たりするのは止めてよこのゴリラ!!
「お待ちください!!」
俺が必死にゴリラの握力から逃れようとしていた時、このピリッとした空気を引き裂くように声が通り、俺達とエルフ軍双方を立ち止まらせた。
皆は声のした方を注視する。
そこに立っていたのは、顔を真赤にし肩で息をしているエルダさんが額に今まででありえないほど青筋を立てて、立っていた。
「お待ちください。アムラス殿、エリンシア姫様の御身は神官員であるこのエルダが命を掛けて保護致します」
エルダさんはイケメン指揮官の前に立ちはだかると両手を拡げて通せんぼする。
まさかの行動に俺達はともかくアムラスと呼ばれるエルフの指揮官も戸惑っていた。
「エルダ。君は里の関係者だろう」
一瞬だけ呆けたアムラスは、直ぐに視線を鋭く戻すとエルダさんを睨む。
「関係ありません。姫様こそ里を救う救世主なのですから」
「馬鹿な!? 宰相様のご命令だぞ? それに以前この無能姫からは何も能力を引き出せなかったではないか」
エルダさんのすました顔にアムラスが反論する。
あぁ…。この顔されると相当腹立つんだよな。
「関係ありません。私は姫様を信じております」
「貴様…。家族がどうなっても知らんぞ!?」
「関係…ありません…」
流石に最後の一言には戸惑いを隠せない様だったが覚悟は聞き取れた。
アムラスの説得を頑なに拒むエルダさんに無表情だったエルフ兵もざわつき始めていた。
「なんでこんなに動揺しているのです?」
俺にはそうなる理由がよく分からなかったので確認してみる。
そうしたら緊張した面持ちでエリーが答えてくれた。
「エルフは純血を重んじるのは知っている?」
「えぇ、まぁ…」
と、もとの世界のエルフ設定って大体そうだった。
ハーフエルフは許さない。他部族の排斥する傾向がある。男性は草食系、女性は胸が絶望的、子孫が出来にくい。というのが概ねの設定だった。
その変わり容姿端麗、ミスリルという特殊な素材を扱える、弓の扱いに長けている。
というメリットも持っている設定が多かったかな。
その設定がここと一緒とは言えないが…。
「概ねは…」
「ちょっと、エロガキ!! 何処見てるのよ」
おっと、残念なお胸を見ていたのがバレたようだ。
エリーがこちらを睨んだまま黙ってしまった。
「だから系統とか家族ってやつも気にするんだ。エルフってやつはな…」
叔父さんが残念そうな顔をして教えてくれた。
過去に何かあったのだろうか?
「だから、家族の話を出して否定するって事は里を追われるのと一緒なんだよ」
「なるほど…」
そういう事か個体の絶対数が少ないから家族=里の生活に直結する訳か…。
もっと簡単に言えば人口の少ない村みたいなものだ。隣人との境界が曖昧で村全体が親戚みたいなものだと思ってくれれば楽だと思う。
!!?
エリーが俺と叔父さんの間をぬってエルダさんの方へと進んでいく。
「エルダ。ありがとう。私、王の御前に出て説明するわ」
「ひ、姫様…」
「いい? これは命令よ。拒否は許さない」
エリーの凛とした顔がエルダさんに注がれる。
「…ははっ、姫様の仰せのままに」
その顔を見た瞬間エルダさんは一歩下がると膝を付いた。
すっげー…。
俺もエリーの迫力に気圧される。
そして、慈愛に満ちた笑みをエルダさんに向け膝を折り彼を立たせた。
うわ…、本物のお姫様みたいだ。
「エルダ、ありがとう。私のためにあなたの家族まで危害を加えるつもりはないわ。私が王の前で宣言すれば…全て終わるから。…それから、イッセイ。私れっきとしたお姫様だから」
やべぇ。また口に出していたらしい。
お口にチャックのジェスチャーすると、にこやかに手を振った。
エリーがため息を付いてしたを向いた。
しかし、なんと言うかエリーはその家族に裏切られているのが皮肉だ…。
ニヤリと笑うのはエルフの軍長アムラスだ。自分の策が勝ったと誤解してるのだろう。
「懸命な判断ですよ姫」
「ここで宣言なさい」
「何をでしょう?」
精神的優位に立ったと思っているのだろう。
エリーの話を若干ナメた目線を送っていた。
「エルダ本人と彼の家族の身の安全についてよ」
「あぁ、なるほど…。宜しいですよ」
アムラスは、俺達に背を向けると自分の部隊の皆へと宣言を口にした。
「聞けい!! 我が部隊の同胞達よ。我がここに宣言するのはエルダとその家族の身の保証である」
指揮官の宣言に背筋を伸ばす部隊。なんと言うか最後まで生気を感じない連中だな。アスラムはこっちに振り向くと一言。
「これでよろしいですか?」
「良いでしょう。では、王の前へ行きましょう。イッセイ、レオ様一緒に付いて来て頂けますか?」
エリーがこちらに笑みを向ける。作り笑顔感がハンパない。
「心得た」
「僕も問題ありません」
そう言うとエリーは安堵した顔をしていた。
・・・
里に戻ると直ぐにエルフ族の王。すなわちエリーの父、エリシード様への謁見する事になった。名目は宰相による命令での強制召喚ではある。
と、言ってもこっちも色々終わっているので反論などは出来るだろう。
アスラムが勇者2人を王座の前に跪かせ、エリーがその後ろに跪く。
その後エルダーさんが続き、俺と叔父さんはエルダーさんの後ろで膝を付く。
「痛いな。女の子は優しく扱いな!!」
勇者ゴリ…リリコがいきり立つ。
頼むから面倒は起こさないでくれよ…。
あの人達、普通にしてても問題起こしそうだから心配だ。
「エリシード王のおなーりー」
エリー、エルダーさん。アスラムが頭を下げる。
それを見て叔父さんと俺も頭を下げた。
玉座の前の段の下に立つ兵士が透き通る声で号令をかけると、玉座の脇にある袖幕から王様とその王妃と思しきエルフ達がぞろぞろと玉座の間に現れる。エレンシアさんも居るので王妃様達だろう。
そして、王様が玉座に着くと同時に王妃達も脇にある玉座に着いた。
「宰相のおなーりー」
続いて呼ばれたのあの目付きの悪い宰相だ。
俺がこっそり顔を上げて覗くと宰相は偉そうな顔をしながら歩いてきた。
「面を挙げろ」
自分が到着した事で進行役を受け取った宰相のボールズさんだっけか? が、ドスの効いた声で命令してくると俺達は全員顔を上げた。
「…では、報告を聞こうか?」
宰相ボールズが口を開いたがエリシード王が。
「…待て、その前にこっちだ」
エリシード王が片手を挙げると、袖幕からエリーに似ている…のか? 6人のエルフの男女達が現れた。
確かあれは…エリーの兄弟姉妹達だ。
一番上が長男でエルザード皇子、続いて長女のエアルベス皇女、次女のエルミア皇女、次男のエルサリオン皇子、三女で双子のエフィルディス皇女とエフィルロス皇女。…子孫が出来にくいと言う設定は眉唾だったらしい。
エレンハイムさん以外の王女席に座るエルフ達は妙に怪しい行動を取り挙動不審になっていた。
「子供達。お前達も今から話を聞け」
「「「「「「はい」」」」」」
どうやら王妃様方のお子さんにも今回の話を聞かせたいらしい。
この中の誰かの子供だろうに何とも惨たらしい事だ。
「宜しいのですか」
「何、こいつ等も王族だ。里で起こった事は知らねばならぬ」
「…これは少々出過ぎた真似を」
エリシード王は不敵に笑うと、宰相のボールズさんが頭を下げた。
2人の間に何か壁の様なものがあったけど…。
「…では勇者2人の話を聞こう」
ボールズさんがこちらに振り返り話を進める。
すると、エルフ軍の兵士が魔道士ギルとゴリ子が若干強引にひざまずかせられ頭を押さえつける。
「痛ってぇな。勝手に人の頭さわんな!!」
リリコさんが抵抗するがエルフ達は無視をして話を続ける。
「貴様等の愚行について依頼者の名を告げよ」
宰相の自身たっぷりのハリのある声が謁見の間に響き渡る。
「…」「…」
リリコさんとギルさんは何も喋らない。何故なら喋れば自分達が死ぬ呪いが掛かっていると、犯人は思っているからだ。
宰相のボールズさんがギルさんに近づき頭を掴んで小声で話す。
「貴様らドブネズミの話しが我々の王の耳に届く事を誇りに思え。最も口が開ければの話だがな」
捕まえていた頭を突き飛ばす。宰相さんのニヤけた顔が嫌な感じだ。
因みに宰相さんがグルなのは知っている。
そう、エリーはヴィルを使った事で2人の【ドルイド】の呪いを解く事に成功したのだ。
これによってギルさんとリリコさんは言葉の制限は消えたので自由に発言できる。
ギルさんがニコニコしながら頭を上げた。
「そこに居る…」
話そうとするギルさんに宰相のボールズさん…いや、ボールズが笑みをこぼす。他にも王妃様が何人か口元を隠す仕草をしていた。
目の色からして関係者には違いなさそうだ。
ギルさんが目の前にいるエリーを居抜き指を指そうとした所で……。
「宰相殿と第2〜6婦人方でございます。」
クルリと体を反転させたギルさんは宰相と王妃様達がいる玉座を指さして言った。
玉座の間には静寂が広がった。俺達と王様、エレンハイム様を除きそれ以外にここに参加している面々が左右を確認していた。
当事者達は笑顔のまま表情が固まる。だが、目は一切笑っていない。
皆、笑っているギルを睨んでいた。
蛇に睨まれるってこういう事を言うんだろうか、特に婦人たちの視線がこええよ。
宰相のボールズは睨みこそしているがその表情は何処か余裕すら感じた。何か隠しているに違いない。
膠着状態が続くと思われた中、王妃の一人が動いた。
「あらあら? 何処にそんな証拠があるのかしら」
左から数えて5番目の玉座に座る王女様がギルさん相手に小馬鹿にした様に話始めた。
「呪いによって操られていたので真実は話せないとお思いでしたか? 確か貴女様からは人族の盗賊を使った呪いを受けましたね。って、その際世界樹を穢したんでしたっけ? オット失礼」
--ピシッ
空気が更に冷え込むのが見えた。内容を暴露された王妃が「何ってるの! アイツは打ち首よ!!」っと、必要以上に騒いでいたので怪しさ満点だったが他の王妃に捕まって一度壇上から袖裏に隠された。
リリコさんも宰相と王妃達を睨んでおり、他の王妃達も身に覚えがある為、顔が『ヒク』ついていた。
この混沌とした重い空気の中、エレンハイムさんとエリシード王と叔父さんだけが笑っている。
謁見の間は勇者対エルフの王妃でにらみ合いの膠着状態に陥ってしまった。
「王。進言をお許しください」
だがそれも、エルダさんの大きな声で空気が変わった。
「申し開いてみろ」
玉座に肘を着いたエリシード王。腕に頭を乗せてニヒルに見下してくる。
くそ、普通にカッコイイ。
エルダさんも身じろぎしたのか、
「あ、ありがたき幸せ。今回の件、エ(ル)ンシア姫は無関係だと私は証言致します」
噛んだ。姫様の名前を普通に噛んだ。
だが、エルダさんの言葉は力強くフロア内に響いた。気付いた人は居たかもしれないが皆スルーしていた。
何故なら。
「何故そう言える?」
『ズズズッ』っと音が聞こえそうなほど王様から放たれた殺気が鋭かった。まるで闇に吸いこれる様にだ。
エリシード王はエルダさんに問い直した。
視線は先程と打って変わって非常に厳しい表情を浮かべている。
エルダさんが向こう側の人間のため王様の対応は冷たい。
エルダさんが気まずそうな顔をしていたが頑張って声を絞り出す。
「こ、今回姫様は世界樹の加護を受けられました」
「な‥に?」
エルダさんの言葉に王妃様達はバツの悪そうな顔をしていた。
エリーが加護を得られる事を知っていたのだろう。
「前に加護を貰いに行ったエリンシアは何も得られなかったのでは無かったのか?」
エリシード王は既に怒気を隠していない。しかし、エルダさんは話を続ける。
「申し訳ございません。王妃様方の命令に屈してしまい姫様の加護の儀式を執り行っておりませんでした。しかし、今回儀式を行い姫様は特殊な加護を取得致しました。しかも、エルフ族始まって以来の快挙にございます」
やや興奮気味に話すエルダさん。貴方殺されかけてるって知ってる?
エリシード王は面倒になったのかエルダさんを無視して、
「エリンシア。お前から報告しろ」
と、言った。
今日一番の見せ所を失ったエルダさんはガックリと項垂れた。
ゆっくりと口を開くエリー。
「私が受けた加護は【自然魔法☆】の加護です。それと、世界樹より新たに称号を得ました」
エリーが作った一泊に皆が固唾を飲んだ。
「称号は、【森の勇者】です」
お読み頂きましてありがとうございます。
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