48話 エリーの覚醒
・・・ エリー side ・・・
ちょっと困ったことが起こっていた。
問題は祭壇に着いて、礼拝を行った際に起こった。
私が礼拝をすると世界樹が銀色に輝き、私の体に入り込んだ。
そして、私は今世界樹内で起こった…いや起こっている事を理解した。
今この時もこの里には、我々を裏切った者が堂々と闊歩していること、それに…恐ろしい計画のために暗躍していること等が分かった。
はぁ…。ここまでは、良かったんだけど…。
目の前に、地面に膝を付き涙を流しながら私に祈りを捧げてくる人がいる。
「おぉ…エリンシア姫様。 あなた…いえ、貴女様こそが聖女様に相応しい」
神に祈りを捧げる様にしゃべるのは、私達の案内役(自称)として追従していた神官エルフのエルダだ。
今までの私達への態度はどこか疑心気味で、監視されている様な感じ悪い視線だったのだが、私に起こった効果のあと180°態度が変わったのだ。
向けられた目は、キラキラしていて…なんと言うか純真無垢な子供の様な目だった。
私は、ため息を付いて苦笑いする。
「これからも我々里の者たちをお導きください」
DO☆GE☆ZAする様に祈りを捧げてくるエルダさん。
はっきり言ってDO☆GE☆ZAってのは、実際目にするとドン引きするものだ。
自分の口が『ヒク』付いているのが分かる。
レオ殿に助けを求めようと視線を送ったら『ヒュ~』って口笛を吹かれた。いや、それどういう意味ですか?
暫く様子を見たが、レオ殿は全く助けてくれる気配を感じなかった。自分で処理しろと言うことか…。
「あの…。エルダ…さん。そういうの「エリンシア様は世界樹の生神だ」」
聞いちゃいねぇ。
と、こんな風に一層面倒臭くなったエルダのせいで忘れていたが、私に世界樹の加護…。いや、加護というか私の中から溢れる新しい力が備わっていた。
【自然魔法☆】
読んで字の如く、自然を操る魔法だと頭の中に説明があった。
簡単に説明すると地面が隆起したり、木や草が自由に伸び縮みさせられるって事。
こんな風にね。
「おぉ。エリンシア様。我らが…」「いい加減にして!!」
私の怒りに呼応するように世界樹から私の力に呼応した幹が現れると意思を持ってエルダの体に巻き付いた。一応この幹は私の魔力によって出来た幹なのだが、これが私の新しい力だ。
「むぐむぐ…」
しつこいエルダを世界樹でグルグル巻にしてやったのは良いんだけど…。
何でこいつはこんなにも幸せそうなのか…。
悦に浸った顔が無性に腹が立ったが、取り敢えずイッセイに合流しよう。
・・・ イッセイ side ・・・
「……随分と変わりましたね」
神々しさ(?)が増し、謎の光に包まれたエリー。
気になるというか、どうしても目を引いてしまう。
芸能人オーラってこういうのを言うのだろうか。
…それと、何故か木の幹などで簀巻きにされ、引きづられているエルダさん。
しかも、エルダさんは完全に恵比須顔になっていた。
こういう趣味の人なのだろうか?
エルダさんとエリーを交互に見比べる。
「何よ。あんまりジロジロ見ないでよ」
なんと言うか女子力というか、艶が増したエリー。
そうか、エリーは大人の階段を登ったのか…。
「貴方、勘違いしてるわよって言うか大人の階段って何?」
「なっ!? 何故それを…」
俺が思っていたことを平然と述べるって、さてはこいつ相手の心を盗み見る力を手に入れたか? エリーを探っていると叔父さんが、
「いや、お前。思いっきり声に出してたけどな。因みに今もな」
教えてくれた。
どうやら心の声を口に出していたらしい…。結構恥ずかしい。
「えぇ…っと……、随分変わりましたね」
「こいつ仕切り直しやがった」
「仕切り直したわ」
「んんーーん(仕切り直した)」
あーーーー何も聞こえない。
それよりも、
「なんと言うか大人っぽくなりましたね」
エリーを見て思ったことを口にした。
なんと言うか今のエリーには、さっきまで無かった余裕が溢れている。
「!!? え、え…っと、あ、ありがとう」
顔を真赤にして、目を左右にキョロキョロさせるエリー。声がどんどん小さくなっていく。
??? 何をこんなにキョドっているんだ?
「叔父さん? エリーはどうしゃちゃったんです?」
「あぁ…うん? うーん、どうしちゃったのかな? 何か良いことでもあったんじゃ無いか」
叔父さんが俺を残念そうな顔をして見ていた。
ん? 何で?
「へぇ~、良かったですね。で、結局上では何があったんですか?」
「え? お前分かったんじゃないのか?」
「え? 何がですか」
「はぁ…。自分の娘も何でこんな奴が良いんだか」
「え? 何か言いました」
「何も言ってない…」
叔父さんはこっちを向いていない。
荷物を取りに行ったようだ。いや、俺の質問は?
「まぁ、これで姫様はこの世界樹の最高神官になって頂けます。早速里に戻りましょう」
うぉ。ビックリした。
いつの間にか簀巻きから回復したエルダさんが鼻息を荒しながら話しかけてきた。
見た目が暑苦しくて面倒臭さが3倍はアップしている。
なるほど、エルダさんが近寄ってきたから叔父さんは黙ったのか。
で、エリーは世界樹の神官になれそうなのか。
だが、まだ問題は山積みだ。
「ちょっと待ってくれませんか。彼等を助けたいんです」
俺は捉えた勇者2人を指差すとエルダさんは興味なさそうに視線を送る。
「ケッ、姫様を陥れた輩共ですか? そんなクズ共はさらし首にして人族の街に塩漬けにして送りましょう。なんと言ってもこれからは我らエルフの時代ですから」
この人のクズっぷりが気持ちよくなってきた。
勇者リリコはエルダさんの言葉に顔色を青くしたが、魔道士ギルは達観した様子で俺達のやり取りを見ていた。
…今思ったけどリリコさんって今回初陣かなにか?
「しかし、彼等は誰も殺していない、寧ろ操られているのですよ。そんな人達を自分たちの都合で黙殺しようって言うんですか?」
ここでこの人達を殺しても真実にはたどり着けないので、俺は説得を試みた。
「ハハハッ。それこそここから先はエルフ族の問題ですぞ。人共はさっさとそいつ等を置いて世界樹から出て行って頂きたい」
何だこいつ。
だんだんイライラしてきたので、語尾が強くなる。
「ささ、早急にお引取りください」
手を払うようにジェスチャーしてくる。
イラーーーーーーーーッ。
エリーが加護を受けれた瞬間何でか知らないが強気になりやがった。
もうエルフ達を放っておいて帰ろうかな。
我慢も限界に近くなってきて態度が隠せなくなってきた。
やっぱり、こいつ。いっぺん泣かすか。
ーーゴキン。ゴキン。
拳を鳴らす。
次に何か言葉を発したら俺の右手が光って唸るぞ。
「こ」「エルダ!! 謝りなさい」
偉そうに何かを言おうとしていたエルダさんを遮り、怒号を上げたのはエリーだった。
「姫様。何故私が謝らねばならないのです? 姫様のお陰でもう人族などにへいこらする必要も無くなったのですよ」
「エルダ…。貴方全然分かってない。分かってないのよ」
「はぁ? 姫様何がですか?」
「この国に蔓延っている闇があることに気づいていない。いえ、ここに居る皆が騙されているの」
エリーが自分の身を抱くようにして震えていた。
エルダさんもエリーの姿を見て戸惑っていたが、
「それでは尚の事、王にご報告が必要ではありませんか?」
エルダさんが正論を言った。
確かにエルフの里で起こっている事なのだから会議でも何でもやって解決すればいい。
…って、言えたらめっちゃ楽だ。
そうなったら目の前の2人は間違いなく処刑される。
それにエリーは何かを掴んでいる。そして、この2人は必要なのだろう。
そういうつもりなのかもしれないが、チャンスが有るなら乗せてもらう。
「待って、エルダ、少し待ってほしいの。この里の問題はイッセイ達なくして解決できない。世界樹がそう教えてくれた」
「な、なんと世界樹が!? 何故こんな人族風情に…」
納得の行かない様子だが、世界樹の意思という事で下がるエルダさん。
俺達に向かって憎悪を含む顔を見せてくるが、世界樹の意思じゃあしょうが無いよなぁ……ふぇ!? 世界樹の意思。
「ちょ、ちょちょ…。エリー…さん? 世界樹の意思って何ですか?」
俺はエリーに説明を求めた。
・・・
「え、エリー。お、おめでとう。これで一人前として扱われそうだね(↑)」
やべ、声が上擦った。だって、しょうが無いよなぁ。
エリーから受けた説明は、光栄というか歯がゆいと言うか…。
何れにしても今里の中で暗躍する闇に対抗するには俺達が必要だと世界樹は判断したらしい。
「うん。ありがとう…」
エリーは何処か煮えきらない顔をしていた。
「でも、エリー。お願いだ。里に戻るのは少し待ってくれないか? 僕はどうしても彼等を助けたい。」
「分かってる。彼等がエルフ族による呪いによって苦しめられているのが今なら分かるわ」
「それも世界樹の力?」
「そうね。で、エルダならこの状況がどうなっているか診断出来るわ」
「なっ、姫様何を仰っているのですか。彼等は世界樹に傷付けたのですよ…ブツブツ」
「エルダ…。ここまで来られたのはイッセイとレオ殿のお陰よ」
「うっ…。そうですが」
「お願いエルダこの通りよ…」
「ひ、姫様!?」
エルダさんに頭を下げるエリー。
ギルさん、リリコさんも含め俺達全員がエリーの行動に驚いた。
・・・
「ふぅ…。ようやく見えた」
「粗茶ですが、どうぞ」
トントンと肩叩くエルダさんに折れた世界樹から取れた葉で煎じたお茶をだす。
精霊のセティ、カズハ、マーリーンが拾い集めてくれた物だ。それをアクアの出してくれた水で出したのだ。
「あぁ…。ありがとうござ!? ってこれは!!」
「落ちていた世界樹の葉を煎じたお茶です」
「ブウウウウウウウウウウウウウウウ」
おわっ! 汚え。こいつ吹きやがった。
「せ、せ、せ…」
せせせ?
エルダさんが青い顔をしてお茶のコップを見ていた。
腫れ物を扱うような雰囲気だが、コップは手放さないという不思議な光景だ。
「世界樹の葉だと!!」
エルダさんが赤い顔をして怒りを露わに俺を睨んできた。
青くなったり、赤くなったり…。信号みたいだ。
「えぇ。王妃様から自然に落ちた素材は僕達が貰える事になっていますから」
それを聞いたエルダさんがガックリ肩を落としていた。『世界樹の葉を人族なんぞに』なんて聞こえてきたけど、ドンマイ。
まぁ、気持ちは分かるがこれを使うと魔力が回復するしな。
「それよりも二人の事何か分かりましたか?」
話を進める。このまま付き合ってても意味ないし、この人はそういうエルフなんだと割り切ったほうが色々楽だ。
それにこの人もあんまり気にしてないようだし。
「…えぇ。とても残念ながら同胞の力によって彼等は呪われております」
地面を殴り悔しさを見せるエルダさんの説明によると、呪いの名前はエルフ族の禁呪【ドルイド】と言う加護の術らしい。
ドルイドとは、贄を器にして対象に呪いをかける術らしく、贄にするモンスターや人などの意思を持つ生物の怨恨の強さによって呪いの力も変わるらしい。
今回の贄はジャングルマウンテン内でもかなり高位の死刑囚を使われた様だ。
「はっきりと見えたのは数名のバーサーカーでした。恐らく里で処刑された賊の頭などが使われたのでしょう」
うーーん。これは厄介だ。
怨恨も賊などをやっていた奴らの恨みは強い。
賊になるって事はまともじゃないし、恨まれる事も多い。
怨恨の連鎖も呪いの増幅対象になるらしい。
「なかなか厄介ですね…」
「だめね……。私の力ではまだ呪いは解けないわ。ごめんなさい。」
世界樹の力を使った治療を施していたエリーだがどうやら限界らしい。
魔力をありったけ使ったのか、顔色が悪い。
「俺を使ってみろ。」
ペンダント姿からムクムクと大きくなったヴィルだった。
悲しむエリーに声を掛けたのだ。
俺以外の人間に触れることすら嫌がるヴィルが自らを売り込むとは
明日は隕石が降るかもしれない。
「ほぉ。いい度胸だ。俺に喧嘩を売るって事はどういう事か教えてやろうか?」
知らん顔しようと思ったのだが、また口に出していた様だ。
ここは笑って誤魔化そう。ヴィルの指示通り地面に突き刺し少し離れる。
エリーは地面に突き刺したヴィルを拾い上げると、
「これが聖剣ヴィルグランデ…。凄い、これならいけるかも」
エリーは刀身を頭上に掲げるとヴィルを見上げていた。
ヴィルも自身から蒼い波紋を発生させ神々しく輝いていた。
ヴィルは自分が認めた者以外が触って来た場合、魔力を吸収する特徴がある。
(エネルギーを吸い取っている訳では無い)
そのため、知らずに盗もうとしたり不用意に触ったりする輩は尽く魔力枯渇で動けなくなったりする。
「聖剣ヴィルグランデよ。我に力を貸し与えたまえ」
エリーがヴィルを構え天に掲げるとヴィルは神々しく光輝いた。
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