34話 イッセイ改造計画
「それに今日、こいつが潜った洞窟の魔方陣は転移陣の1つだ」
ヴィルがそう言うと今度は宰相殿が嬉しそうな顔をして陛下を放り出した。
そして、父様が宰相殿に文句を言いながら陛下をキャッチした。
宰相殿は聞いていない。その顔を見る限り知的好奇心が勝ったようだ。
不謹慎だが、何か面白い。
陛下を抱いた父様がヴィルに声を上げる。
「城の中にあったのは封印では無く転移陣ですと!!?」
と、父様。
最悪の展開を想像してだろう。驚いた顔をしながら手で顔全体を洗う仕草をしていた。外国の刑事さんとかがそんなリアクション取ってたな。
「あれは何の効果が有るんですか!?」
と、宰相殿。
危険かどうかではなくどういう効果が有るのか気になるようだ。
この人、さっきからキャラが崩壊してるんですけど…
「あぁ。あれか? あれは【転移陣】だ。何処かと繋がっていて、奴等はそこから物資や兵を送る事が出来る」
宰相殿は、『ふんふん』と頷きながら自分の中にある古い知識をヴィルから聞いた新しい知識に置き換えている。
興味のある事は最優先事項のようで子供の様な無邪気さを出していた。
「なるほど…。これが残っていたら王都は敵に攻め込まれていた可能性が大だった…と」
宰相殿は国が滅ぶ可能性があったにも関わらず、随分軽いノリで記録係の人に伝えていた。
…そう言えば、この人ずっとココに居たよなぁ。
先程から存在を消しつつ記録を取っている人だ。
この世界の歴史の真実に触れている訳だが、内容は下手に触れ回ると自分たちの命に関わる可能性がある大きな内容だ。
知れば知るほど陛下や父様の様になるのが普通なのだが、この人は宰相殿と違う意味で冷静だった。この分野の人達って皆こんな感じなのだろうか?
記録係の人を見ていたが存在を消している様だった。
「そ、その…。転移陣とやらは完全に沈黙したのでしょうか」
ん? 父様が何か言っている。
「うん? さっきも言った通り完全に沈黙しているが?」
「そ、そうですか…」
ヴィルの言葉納得したのだろうか返事を聞いたら黙ってしまった。
??? 何だ。
父様の今の行動、何か気になった。
父様に声をかけようとした瞬間、目の前を宰相殿が通り過ぎた。
「と、なると亜人族には何か税金が緩和されるようにするなど優遇措置を取らねばなるまいな…ブツブツ。あぁ。イッセイ君。この後、細かいことを決めるから付き合ってくれよ……ブツブツ」
…凄いな、片時も仕事の事を忘れないのか。流石というか、ブラック臭が漂ってくる。いや、この人自身がブラック臭の発生源なんじゃないかと思う。
父様を見たが、父様は気絶した陛下をソファーに横にしていた。
さっき気になった何かは、父様からは感じなかった。
俺の思い過ごしか…
何となく今日はここまでの空気になってきた。
陛下は倒れてしまったし、宰相殿も仕事モードに入ってしまった。
俺も後少しだけ付き合えば解放されそうだ。
父様は扉を開けて外に居る人を呼びに行った。
やべっ、外の人何処か行ったんだ…。
と、思ったときには父様の怒号が扉の外から聞こえてきた。
うまく聞き取れないがストレスが溜まっていたんだろう。結構大きい声だ。
しかし、話を聞いている俺ですら苦笑いしか出来ない。
俺のせいじゃないけど外の兵士さん達、何かごめんなさい。
宰相殿と話す、今後の話しだ。
どうやら、今まで話の内容を諸国と共有するようだ。
内容は封印として守られてきた転移陣の話、それの破壊の方法。それに伴い、ヴィルの存在と【カイザー】の再来について発表することになった。発表の方法は教会に頼むとの事だった。
一応、俺の存在は隠蔽される。
しかし、突拍子もない話をどうやって説明するのか宰相殿に聞いてみたが、それ用の資料をこれから作らないといけないらしく。
作業量を想像したのだろう。宰相殿はどんよりとした顔をしていた。
ど、どうやら聞いてはいけない事だったらしい…。
心の中でお祈りもし上げるしか無い。
宰相殿からは少し内容をまとめるから待ってほしいと言われたので、待ち時間の間ヴィルと会話していた。
さっきの話しに出なかったが確認したいことがある。
確認したいことは、封印されていた筈の転移陣が何で動いていたのかと言うところ。転移陣がマザーゴブリンに魔力を供給していたらしいのだ。
「…ヴィル。あの魔法陣は生きていたんだろう?」
「あぁ。今は生きていたな。ただ、ヤツラが使った形跡は無かった。ヤツラの特有の魔力にワシが気づけない筈がないからな」
ヴィルは俺がした質問に答えるが、かなり曖昧な返事だった。
「今は?」
「あぁ。ヤツラも魔法陣を使うには【転移者】という魔道士が必要なんだが、そいつらは前回の対戦で殲滅している…筈だ」
「筈? 随分曖昧じゃないか?」
「……ワシが知っているのは、アーサーだけだ。他の勇者共が打ち漏らしている可能性は…ある」
……なんということでしょう。
敵を完全に押し返したんじゃなかったのか?
「他の勇者が打ち漏らしたって……。初代様がきっちりと確認とかしたんじゃないの?」
「…アーサーは、そういうの全然やらねぇ奴だったからな」
初代様ってダメなやつなの?
「まぁ、結構な数の魔法陣が有ったからな。【外来種】は片っ端から自分の拠点に魔法陣を作っていたんでな。地底も含め世界中虱潰しに歩いた訳じゃねえ」
おい…。マジかよ。
かなりの確率で残っているんじゃねーか。
「……」
俺はリアクション出来なかった。
「…う、う~~ん」
「へ、陛下。ご無事ですか?」
「あ、頭が痛いけど大丈夫…」
・・・
「話はどうなったのかしら…」
目を覚ました陛下は侍女に入れてもらったお茶を飲んで一休みしていた。その間に宰相殿が陛下に今までの話を説明してる。
おっ、話が終わったようだ。
「聖剣ヴィルグランデよ。本当にここにあった封印は完全に消えたのですか?」
「あぁ、この国の魔方陣はワシが潰したからな。もう二度と使えねぇよ」
陛下と宰相殿は目に涙を溜めて喜んでいた。
父様もホッとした顔で胸を撫で下ろしていた。
国の驚異が去ったのだから当然といえば当然か。
ヴィルはその魔力を吸った事で喋れるようになったんだった。
俺から魔力供給しないとダメなんじゃ無かったっけ?
(お前からは継続的な魔力供給は受けないとダメだけど、あれくらいの強い魔力を受けれれば動くことは可能だ)
おぉ。ツッコミに対するフォローが早いな…。
待てよ。強い魔力を受けれるのだとしたら、他の魔方陣を破壊してヴィルの力を強くする事は出来ないだろうか?
「ヴィル? もしかして、他の魔方陣もお前吸い取れないか?」
「まぁ、ワシなら全く問題なく出来るだろう」
あっさりと言いきるヴィル。
しかもチョット偉そうなのが気になる。
「だがな、問題がいくつかある」
「問題?」
今、問題は無いと言ったばかりだと思うのだが?
実はアホの子なのか?
「お前。今、ワシのことアホだとか思っただろ?」
「えっ? そ、そんな事、全然…」
何だ。急に…
…何でバレた?
「イッセイ君」
宰相殿が俺を呼びながら手招きしてきた。
なんだろう? 顔を近づけると…
「全部、声に出てたから…」
と、言われた。
エェー。マジか俺。
顔に出てたとかのレベルじゃねーし。
本人の意志とは関係なしにセキュリティ0かよ…
俺は、バツが悪そうにヴィルを見る。
すると、心なしか赤く黒い波動が出ている様な気がする…
かなりお怒り、でいらっしゃりますね…。
「些か聞きたい事があるが、まぁ良い…。今の問題はそこじゃない。問題はお前だよ。ワシが魔方陣を潰しをやるにしても、お前に実践経験も実力も全、然。足りねえ!! それに今のお前は長旅に耐える体力もねぇ。旅をする知識も皆無だ。足手まといはお前なんだよ!!」
…めっちゃお怒りでした。
しかし、ヴィルの言う通りなので何にも言えない。
今の俺は長旅がまだ出来ない。短距離的な活動であればまだしも長距離を移動する体力がまだ付いてない。
それよりも知識が皆無なのだ。いや、馬車に乗ってとか、食料を買うとかは知っているんだ。
でも、細かい事…サバイバル技術がや食料確保、危険回避などは無理だし、今の俺はガキなので大人には相手してもらえない。しかし、裏道もある。要はそういうスキルが俺には全く足りないのだ。
これまで皆に教わってきたのは、あくまで魔力の量を増大させるのと使用方法がメインで、後は戦闘スキルだったもんなぁ…。
精霊が裏社会に詳しかったらそれは、それで嫌だけど。
そういう人との対話、交渉、時には騙すことも必要だろう。
そういった知識や経験も必要だとコイツは言っている。
だから、俺はもっと強くならなければいけない。
・・・
「そこで、さっきの話しに戻るがトカゲどもが沸いてる山か谷があるところがいい。今のこいつを鍛えるのにもってこいだ。で、後はこいつを鍛える人間だな。商人と取引が出来る奴が良いが裏に精通している奴であれば尚良いのだが?」
ヴィルが好き勝手言っているがそう簡単に首が縦に振れる筈もなく三人とも固まっていた。父様も勇者で加護を持っているが、ヴィルに今の話からすれば『だから何だ?』と返されるだろう。
つまり、ヴィルは国王陛下にマフィアを紹介しろと言っているようなものだった。
・・・
数分時間をくれと言って部屋を出ていった宰相殿が戻ってきた。
宰相殿の態度などから紹介人物に目星が付いたようだ。
よっぽど俺たちが求める人材を出したくないのだろう。
顔から明らかな不満を感じる…。
最悪、冒険者ギルドで雇った人でも良いと思うんだけどなぁ…。
要は俺が慣れれば良いだけなのだから。
「…イッセイ君。ここに書かれているのは、この国の掃き溜め、クズの溜まり場だ。十分に注意してくれ…」
「ほう。良いじゃねーか」
ヴィル。今は黙っていなさい。
宰相殿は、「グヌヌ」と言ってメモを渡すのを拒否っている。
--バンッ!!
「その話し詳しく聞かせてもらおう!!」
部屋のドアを勢いよく開けて入ってきたのは…誰だ?
筋骨隆々の毛むくじゃら男性は、皮の腰巻きと布だけをあてがって扉の前に仁王立ちしていた。ヘ◯クレスかな?
パッと見たイメージは山賊か海賊そのものだ。
冒険者ギルドの関係者か? 俺が警戒していると蛮族風味の男は、陛下に駆け寄りおもむろにキスを見せつけられた。
「!!?」
ビックリした。だって、誰も止めないんだもん。
しかし、陛下の言葉で更にビックリした。
「アナタ。やっと戻ってきてくれたのね」
「!!!」
俺は二人の熱いキッスを見て凍りついた。
父ちゃんと母ちゃんの抱擁を見た感じだ…。
父様に誰か聞こうかと思って見てみると宰相殿が、
「おかえりなさいませ。国王様」
「えっ!?」
「イッセイ。頭が高いぞ。この方はレオボルド=ララ=ガブリエル国王陛下だ」
「ええっ!」
国王陛下の後ろから父様の声がして慌てて膝付く。
蛮族だと思っていた毛むくじゃらの男性は破顔し筋肉を見せてきた。すっごい暑苦しい…。
「お前がイッセイか。ニルとソフィアからたくさん話しは聞いていた。ずっと会いたかったのだ」
一介の国民である俺が陛下に直々に会いたいなどと言われる事は普通はない。
しかし、ソフィーが話をしていたという事と先程からこちらに向かって筋肉を見せつけてくる不可解な行動を照らし合わせると…。
恐らく、一発殴らせろ的なアレだろうか?
「は、はは。あ、ありがたきお言葉です」
「そう固くなるな。レオンもアレックスも必要以上に堅苦しいのはよせ。イッセイ君が固まっておるだろうが、イッセイ君。なんならワシを『パパ』と呼んでもよいぞ」
威厳のある者がその威厳を崩すのは信頼している。と、聞いたことがあるが…。
甘ったるい声で『パパ』とか言われてもきっついだけなんですけど。
「叔父上。流石にそれは…」
「叔父上えぇぇ!!?」
「なんだ言っておらんのか?」
「…まぁ、はい」
「はっはっは。マリーダも悪いやつだな。甥っ子イッセイに俺の事を教えないなんて」
衝撃の事実。話を聞くと母上の家は公爵家だったようで母上の父上の兄弟がこの叔父さんと言うことだった。父上も母上も何で教えてくれなかったんだろう。って言うかパパって顔かよ。
俺が叔父さんを見ていたら俺と目があった瞬間、フロント・ダブル・バイセップスを決めてきた。…ウザい。
が、実力は本物らしく今まで王国内で発生していた5ランクを越える魔物の討伐に出ていたらしい。ギルド資格も持っていて当然の5ランクらしい。
今回戻ってきたのは怪我をした兵士の輸送と物資の調達に戻ったのだとか、女王に会いに来たら俺達がいて丁度良くヴィルが「こいつを鍛えてぇ」的な会話を耳にして乗り込んできたらしい。
ヴィルはレオ叔父さん(パパと呼ばなかったら泣かれてちょっとウザかった。)が、実力はかなりのものだと気づいたらしくこれで俺が強くなれると興奮気味だったのに対してして、レオ叔父さんは「安心しろパパが守ってやる」って言って、違う意味で興奮していた。
その後話しはトントン拍子で進み俺は1ヶ月間ヴィルと叔父さんと一緒に魔物退治の旅に出ることになった。
お読み頂きましてありがとうございます。





