136話 帰ってきた相棒と新たな敵
ずっと夢の様な所に居た。その夢? 現実? いずれにしても俺は霧雨が降る世界の中から、もう一人の俺が暴れるのを”ジッ”と見ていた。いや…実際にはもう一人居たは居たんだ。
イゴールと名乗る執事の格好をしたフランケンの様なツギハギの男が…。
そいつは、もう一人の俺の勇猛さを喜々として語っていた。
正直どうでもいいし、ウザかったけど俺はここから動けないので聞くしか無かった。
と、言うかお前どこかで会ったか? 昔倒したはぐれのサイクロプスと公爵領で倒したトカゲスライムに似ている気がする。何で顔を隠す? 肯定って意味か? ん?
しかし、イゴールの説明が無くても見て分かる。もう一人の俺の戦う姿。
いや…。あれは、『戦う』などという品のある言葉では無かった。
それに、あれは勇猛というよりは全てを無に帰すため暴れまわっている獣だ。
少し前の俺なら吐き気を催し目を逸らす所だが、故郷を潰された今となっては……
で、完全に嫌なことをもう一人の俺に任していた訳だが、ここに来て目を覚ましたのには訳がある。
目が覚めると、目の前には首の無い騎士がまさに今、俺に向かって剣を振り下ろしていた。
俺はその剣をヘイケ作った盾で簡単に弾く。
どうやら単純な思考回路しか与えられいない様でアホみたいに何度も何度もヘイケを殴りつけていた。
だが、その姿は俺の心に深い悲しみを広げていった。
「…父様」
首なしの騎士が着ていたのはシェルバルト家の領主が着る白金の甲冑だった。
この姿が俺の父様の最後とはあまりに不憫だ……。
もう一人の俺に任せれば、一瞬で肉塊にしてくれただろう。
だが、父様の最後は息子である俺がきっちりしなくてはいけない。それが俺の目覚めた理由だった。
タイミングよく優夫(もう一人の俺命名)が笑みを浮かべながら近寄ってきた。
「目覚めたか我が同胞よ。下品なアイツの気配は完全に消えた」
俺が父様と戦っている中にも関わらず優夫は両腕を広げて俺を歓迎してきた。
って、ハグする気は無いけどこのタイミングで言う? 父様に斬られる可能性があるのにする訳無いだろう。馬鹿じゃねーの。
胸の中で悪態を付いた俺は、優夫の言葉に違和感を感じた。
『あいつを消す』とはもう一人の俺の事だよな? 元々そっちを探してたんじゃ無かったっけ? 何だか矛盾している。そもそも、コイツ等仲間じゃなかったっけ? 何を企んでいるのか本気でわからん。
と言うか、あのハゲのおっさんは世界樹に居た宰相のボールズだよな。
確か俺が殺しちゃったはずだが…亡霊か?
ボールズが手を上げると父様のアンデットモンスターは剣を胸に当て静止した。
跪く形で見上げると優夫(別名:シバ)がゆっくりと俺に向かって歩いてきた。
「私の声を聞け。我が同胞よ」
改めて聞くと優夫の発する凛々しい声が俺の心を打つ。
今まで聞いたことがないクリアな音で、言葉というより歌に聞こえる。
心地良いその声は頭の中を駆け回り耳を傾けてしまう。
(やめろ。奴の言葉に耳を貸すな。)
頭の中で声が響く。声の主はもう一人の俺だ。
もう一人の俺が語りかけてくるが、どうしてもシバの声に耳を傾けてしまう。
「お前には、先程我らと戦っていた力が眠っている」
そんなの知ってるわい。とは言えずその後に続く言葉を待っている自分が居た。
(やめろ。耳を傾けるな。)
(傾けるなと言ってもどうすれば良いんだ!)
(俺の言葉に集中しろ)
(無理だ。あいつの言葉は直接頭に響く)
「お前が望めばその力を開放してやろう」
そう言って手を差し出して来た。優夫に後光が指しているように見える。
人は神と対峙した時こういう奇跡が起こったと言っているのだろう。
何かから救われると勘違いしてしまいそうな程に透き通った声は心に安堵を与えてくれた。
(おい! その手に触れたらアウトだぞ)
(分かってる。くっ、頭では抗うつもりだが体が言う事を聞かない。)
(うわっ、お前手を握りそうじゃねーか!!)
うるさいなー。
体が勝手に動くんだよ…。それより俺を止めるのを手伝えよ。
成すがまま、体は素直にシバと手を握ろうとしていた。
あっ、このままだとヤバいわ……
抗う術が全く無くこのままだと時間の問題と言うところ。
手がぶつかるまで残り数cmと言うところで何か飛翔体が接近してきた。
--シュカッ!!
「っ!?」
飛翔体が差し伸べてきたシバの手を切った。
それで、魔法が解けたように俺は手を引っ込める事が出来た。
「クッ。貴様!!」
「薄汚え気配が集まってるから来てみれば、ヤッパリお前か」
「このシバによくも傷を付けたな」
「知るか。頭を狙ったのに上手く避けやがって」
この軽口と【外来種】の慌てよう。あいつが帰ってきた。
俺は名前を呼んだ。
「ヴィル!」
「よう。久しぶりだな」
「あぁ。助かった」
「全く土産話が沢山あるって言うのに暇のねぇ奴だ」
「……」
「ま、終わったらゆっくりと話そうや」
「分かった」
目の前で首無しの騎士が居て、【外来種】が居ればおおよその察しは付くってもんだ。
俺は地面に刺さったヴィルを手に取る。
しっくりくる掴み心地が妙に懐かしかった。
「シバ様。おのれ!! 戦えアンデットよ」
ボールズの命令で父様のアンデットモンスターが再び動き出す。
「あれは、お前の親父さんか?」
対峙したアンデットモンスターに気づいたのだろう。
ヴィルが話しかけてきた。
「うん…」
「…そうか、強くなった所を見せてやれ」
ヴィルに励まされ気合が乗った。
普段こんな事を言うやつじゃ無かったので少し驚いた。
「うん!」
優夫がいつの間にか魔法陣へと戻っていた。魔法陣の上でボールズに指示を出している。
ボールズが気持ち悪い程崩れた顔をしてこちらを見ると、アンデットモンスターに指示を出していた。
「シバ様は魔剣もろともそいつを殺せとの仰せだ。容赦するな一気に片付けろ!」
その声を聞いてアンデットモンスターと新たに湧いたモンスター達が一斉にこちらに押し寄せてきた。
ヴィルが居ることで脅威となる事が確定したのだろう排除優先で動いてきている。
「お前とこうして大群相手に戦うのは久しぶりだな」
「へっ、俺が見張って無かったからってサボってたんじゃ無いだろうな」
「ぬかせ…」
「じゃあ。俺も新たに手に入れた力を見せてやるか」
久しぶりの相棒の感覚に感動した。
(おいおい。お前ら雑魚なのに大丈夫なのか?)
(うるせえな! 黙ってみてろ)
(お前誰と喋ってんだ? ……!? って、こ、コイツは!)
「ヴィル。今は戦いに集中しろ! …来た!」
先行はアンデットモンスター。
走りながら剣を振りかぶって来て、今目の前に振り下ろしてきた。その勇猛さと剣筋から父様の面影を感じた。
気づくと俺の頬からは涙が流れていた。
……父様。今楽にします。
−−ガイン…
「うおおおおおおおおお」
ヴィルと父様の剣が鍔迫り合いになったので気合で押し返し、弾く。
アンデットモンスターは一瞬よろけたが直ぐに体勢を立て直し、剣を下段からの剣戟に切り替えてきた。
あまりの速度に剣筋がよく見えない。
これは、集中力が必要だぞ。
(あぁ…。馬鹿右、右。み、左だ。)
集 中 力が必要だぞ!!
父様は【辺境での戦い○】の勇者だったので、こう言う所で荒れ果てた土地だと真の実力が発揮出来るのだろう。
攻撃が多彩で厄介なパターンが掴めないものが多い。
更にそこに他のモンスターも同時に襲いかかってくる。
アンデットモンスターの左右から俺めがけて攻撃を仕掛けてくる。
俺はヴィルやヘイケを使う事で何とか敵の攻撃を迎撃しているが流石に魔術無しはキツイ。
(※バッカス達が先生に斬られて連絡が取れないため魔術が使えない)
なので、今はアンデットモンスターを上手く利用している。
他のザコモンスターを奴の攻撃範囲に入れる事で、一緒に斬らせ。数をこなしていた。
「魔力を込めて俺を思いっきり振れ」
ヴィルが言う。
俺は言うとおりヴィルを振ると七色に光ったヴィルが、無数の剣となって四方八方に飛んだ。
−−グギャアアア
−−グオオオオ
−−!?!?!?!?!?
砂煙が上がっていたが徐々に晴れていき、ヴィルの新技の結果が見えてきた。
「す、すげぇ…」
俺の周りがクレーターになっておりそこに居たモンスター達は姿が消えていた。
「フッ。どうだ凄えだろ!」
勝ち誇った声を出すヴィル。
何故だろう。いつもはただのグータラ漆黒の剣が今日はやけにイケメンに見えるぜ。
「お前。何か失礼な事考えただろう?」
「いいや〜。何も考えて……うっ」
誤魔化そうと思ったがそれどころじゃない。
いきなり魔力切れの症状が出た。何でかと思ったが理由は簡単だった。
「ヴィル……これ、魔力…使い……すぎ…」
だった。精霊達が居なくなって著しく低下していた俺の魔力は今の技一発で完全に枯渇してしまった。
結局、不利な状況は変わらない。
その後は魔力の回復を待ちつつも父様……いや、アンデットモンスターの攻撃に巻き込ませる等、工夫して戦っていた。
だがモンスターも馬鹿ばかりではない。
ワーウルフ等知能の高いモンスターは俺の戦い方に気付き始めていた。
うーん…そろそろキツイ。
流石に体力も限界に近い。
もう一人の俺が暴れまわって消耗した体力もネックだった。
(そろそろ。1回交代しとく?)
(五月蝿い。父様とは俺がケリをつける。)
(おい。前来てるぞ…)
「し、しまった!!?」
もう一人の俺の戯言に付き合って戯れていたら、一瞬スキが生じてしまった。
そのスキを付いてアンデットモンスターの鋭い一撃が来た。
−−ギンッ。
何とか剣を受け止め鍔迫り合いに持っていくが、対応がギリギリだったので大分押し込まれていた。
当然、周りのモンスター共はそこを狙って来る。
絶賛、ワーウルフがよだれを垂らしながらこちらに近寄ってきていた。マズイ…
振り下ろされる爪が妖しく光った。
あぁ…。当たったら痛そうだ。
「フレイム」
「ギョワーー」
突然、襲いかかって来そうだったワーウルフが燃え上がり絶命した。
近くで燃えるモンスターって、……結構熱いのね。
「ウッドスパイク」
「ギャ!」
「ピギュ!?」
「グォ???」
木の幹や根っこで串刺しにされるモンスター。
魔法で生まれた木はそのままバリケードになった。
次々に倒されていくモンスター達。
これ程の火の魔法と木の魔法。使い手といえば、ベネとエリーあの二人しかいない。そして、
「イッセイ君。無事ですか? って離れなさい!! 光の束よ目の前の闇を払え。シャイン」
ソフィーの声がしたと同時に眩い光が発光し、アンデットモンスターを包み込む。
アンデットモンスターはブスブスと煙を上げて体が焼かれていた。
アンデットは光に焼かれるとこうなるのか……。
アンデットモンスターは相当ダメージを負ったのかヒザを付いて動かない。
って、ソフィーの攻撃で倒せるんじゃないか。
そう思った俺はソフィーに声をかけた。
「ソフィー。つ、追撃を」
「ごめんなさい。まだ、連発は出来ないんです」
そうか、そう上手くはいかないよな。
(おい。ソフィーにトドメを刺させるなら俺だって良いじゃねーか。)
もう一人の俺が抗議をしてきた。
(俺が見届けるって言うのが大事なんだよ。)
(どっちでも良いだろ。)
(良くねーよ。)
等とアホなやり取りをしていたら空から声がした。
「一旦ここに逃げておいで〜」
ブラフマの声が聞こえアンデットモンスターは反応を返し、魔法陣の真ん中の方へ逃げて行こうとする。
俺は直感でこのまま逃がすと大変な事になると思い追撃しようとした。
「ぐっ…」
が、体が言うことを聞かなかった。
「くそっ!」
悔しさのあまりの地面を殴りつける。
その間にソフィーが近くに寄ってきて、
「イッセイ君。エリーとベネが敵の後を追っています。なので、今はイッセイ君の回復を優先させてください」
「でも…」
「でもも、へったくれも無い。黙って従いな!」
全身がビリビリと逆立つような厳しい声。
この声を聞いただけで直立不動になってしまう。
声の主はメイヤード様だった。
「メイヤード様……。ご無事でしたか」
「なんだい? あたしが無事じゃ困るのかい?」
「い、いえ滅相もない」
俺は内心ヒヤヒヤしていた。
何故って? もちろん。もう一人の俺が先生をボコボコにした記憶があるからだ。
それを責められるかと思うと心も荒むってもんだ。
「冗談だよ。粗方さっきの件で顔を合わせづらいって所だろ?」
「仰る通りです…。」
「かかかっ。ソフィアのお蔭でこの通りじゃ。」
元気な婆さんだなぁ…。
(もう一人の)俺が複雑骨折にした両腕は前と同じくしっかりと繋がったらしい。”パンパン”と自分の腕を叩いてアピールしてきた。
「でもね。大事な愛剣を折られてしまってね…」
本当に残念そうな顔をしてくる。
メイヤード様を見ると顎を"クイッ、クイッ"っとソフィーに向けていた。要約するとこうだろう。
『大人しく言うことを聞けば咎めないよ』
察した俺は黙ってソフィーの近くにそっと座った。
直ぐに治療が施されるとあまりの気持ちよさについ身をソフィーに委ねてしまう。
俺だって相当疲れていたのだ。これ位許してほしい。
「ありがとうございます」
ソフィーからその話を聞いて安心した。
彼女の手から優しい光が発光し俺の体を包む。
全身に付いた傷がみるみる回復していく。
これがソフィーの治癒魔法か…これは凄い。
まるで優しさに包まれている様に温かい。
体だけでなく心も満たされる様だ。
すっかり寛ぎモードで前を見るとエリーとベネが追いかけているアンデットモンスターに迫る勢いだった。
だが、あと一歩間に合わなかった。
魔法陣の中心から何処かに消えたアンデットモンスターと入れ替わりで、魔法陣の上にいた男に阻まれたからだ。
「…ボールズ。やはり、生きていたのね」
「エリンシア姫様。お久しゅうございます」
少し離れた場所では、エリーとベネがボールズ(マーラ)と対峙していた。
エリーの言葉に優雅にお辞儀をするボールズ。
ベネは『誰?』って顔をしていた。まぁ、初対面出しな。
そんなベネを置いてけぼりで、エリーはますます熱くなっていた。
「ここで引導を渡すわ」
「姫様にそれが出来ますかな?」
「ほざけ! ウッドスパイク」
話が終わるとエリーは魔法を放ったが、威力が凄まじい。通常2〜3個の竹の子サイズのスパイクが突出する位だが、エリーが放ったのはその10倍は出てた。スパイクと言うよりは太い柱みたいだった。
「ぬぅん」
ボールズは手に持つ杖から魔力を発してエリーの魔法を無効化。逆にボールズが魔法を放つ。
ボールズの背中から触手が出てきて、エリーに向かい襲いかかっていった。
当然エリーも相殺の為魔法を放つ。
『大量の触手と巨大な木の根っこ』と言う、一見すると魔物大戦に見えなくも無い凄まじい魔法の攻防であった。だが、一日の長は向こうにある様だ。
エリーの魔法は押されていた。
「エリー!!」
「大丈夫です! イッセイ君は、動かないで」
俺がエリーの助けに入ろうと体を動かそうとしたが、ソフィーに抱きつかれて止められた。
ソフィが何故止めたのかは直ぐに分かった。
「フレイム」
どことなく鳥の姿に形象された炎の魔法がエリーに襲いかかる触手を焼いた。
「くっ。ぐおおおおおお」
触手を焼き更に炎が勢いよくボールズに襲いかかり。
バチバチと音を立てて火だるまになって燃えている。
エリーとベネが拳をぶつけ合っているのが見えた。
1話づつアップしてます。よろしくお願いします。
一部の最終話で今後の事を書きます。
よろしければそちらも合わせてお読みいただけると幸いです。