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132話 地底の兵士達

「がああああああああああ」

「た、たす…」

「ぎゃああああああああ」


 兵士たちは燃やされ炭になったり、土系の魔法でぺしゃんこにされたりしていた。

 2体の精霊…いや、コイツラはもう魔神だな。兎に角、兵士共が虐殺されていく。

 見た目も行動も、もはや正義の味方には見えない。どちらかと言うと悪魔と言われたほうがしっくり来る感じになった。

 まぁ、この辺は主である俺の好みでもある。

 ただ、間違いなく力は溢れ出すようになった筈で、反応や速度等も向上している。実際に戦う2人の姿を見ているとバッカスとプロメテは全力の半分の力も出していないようだ。


 チートを使うとこんな感じなるのだろう。敵が弱すぎてビックリする位だ。

 因みにバッカスは神々しい服装から、悪魔神官みたいに見た目になった。ハンマーにはドリルが付いていて、いわゆるロマン武器となっていた。まるで某勇者シリーズの武器かと思うくらいの代物だ。


 プロメテはあんまり変わってないな…元々が禍々しくて悪魔みたいだからかな。

 大きく変わったのは持っている爪が体の2倍位になっていた。まるで、某ゾンビーゲームのラスボスみたいな爪だ。


 半分とはいえ2人の力は強大で、次から次へと現れる兵士共を返り討ちにしていた。


 しかし、コイツ等いったい何処から湧いて出てくるんだ? バッカスとプロメテで既に数十人は屠っているはず。それなのに一向に減る様子はなく寧ろ数は増している。何処かに供給源があるはずでそこを止めないと一生相手をする事になる。

 これは、『もう一人の俺』イッセイの言葉だった。ヤツは意識を失いながらも『元を辿って湧き出るポイントを潰さないと』そう俺に語りかけてきた。


「おら。行けー」

「「オォー」」


「懲りずにまた湧いたのか雑魚共が」

「がはは。これはこれで、面白いではないか」


 魔神2人が向かってくる雑魚共を次々と葬っていく。


「がはは。ワシを倒せなければ王の所へは行かせんぞ」


 あれ、バッカス君? その言い方だと俺の方が悪者っぽくないかい? ま、まぁ良いか…所詮コイツ等は虫の様に直ぐ湧くし。殺しても直ぐ補充されてるしな。

 ある意味、モンスターの大量発生時より湧いている気がする。まぁ、2人が楽しそうに殺ってるからいいか。


 しかし、幾ら魔神が協力でも数の暴力とは凄まじいものだ。2人の目を盗んでこちら側に抜けてきた者が居たのだ。


 この建物に侵入してきた兵士が30名余り。

 バッカスとプロメテはこちらには気づかずに向こう側で遊んでいる。面倒臭いが俺が相手するか・・・。


 首を鳴らして一瞬で片付けようと魔力を溜めていたが、


「イッセイ様ここは我々にお任せください」

「私がご主人さまの敵を斬ります」


 そう言って目の前に現れたのは、アクアとカズハだった。アクアは竜に抱きつかれた様な鎧を着ており、一見するとモンスターに取り込まれた様にも見える。

 スケイルアーマーどころではなく取り付いた竜そのものが防具となっている一品だ。

 カズハも黒いゴスロリ服になっておりメイクも黒がメインになっている。清楚な少女がエキゾチックに変わったと言う何とも優等生を汚したような背徳感をくすぐられる仕様だ。アクアはまぁ、こんなもんだ。


 バッカスとプロメテに力を与えた段階で他の皆にも声を掛けた。この二人も俺の力を取り入れたのだ。


 更に俺の力を受け入れた者には等身大で活動できる魔力を与えている。そうする事で本来の力が使えるからだ。因みにプロメテは、2mを超えてるし。バッカスは160cm位。カズハは、153cm位で、アクアは140cm弱位だ。


「イッセイ様。酷い! 私にもっと(身長を)与えてください。」

「うん? それがお前の本来の姿だろ」


 俺の魔力で身長を伸ばせるならやっても良いが出来なかったので仕方がない。今からでも自分で背を伸ばす努力をするんだな。


「アクア。そこで遊んでいると良いですわ。その間に私が全部頂きますので」

「だ、駄目だよ。私だってイッセイ様の為に役に立ちたいのだから」

「ならば勝負しましょう」

「望むところだ!」


 カズハがアホな事を言っているアクアを戒めたが、苦笑いのカズハに向かってアクアが剥れた顔をしていた。

 そして、二人の間で勝負する話が付いた様だ。


「「イッセイ様。私に任せてください(ですわ)」」


 二人は俺に迫ってきた。

 どっちがどうって言うのも面倒なので俺は…


「2人に任せる」


 と、だけ答えた。


 するとまずは最初はアクアが動いた。

 こちらに一礼したまま気づけば兵士共が血しぶきを上げて絶命していた。

 ここに残っているのは残像だったらしい。

 向こうでは、”シュイン、シュイン”と鋭い音が聞こえてくる。

 時々、武器の三叉の鉾が伸び縮みして敵を切り裂いていた。どうやら三節棍の様な機能を兼ね備えているようだ。間合いの読めない兵士達は何故やられたのかも理解できずに絶命していた。


「ふん。カズハには負けないよ!」


 大きな声で宣言するアクア。

 どうやら今いる兵士達を殺す数でも競っているのだろう。余興としては面白い。


 俺の近くから動かないカズハを見ると彼女は詠唱中だった。

 ほほぅ。攻撃魔法は持っていなかったはずだが…


 彼女は武器が扇子から傘に変わっていた。

 前は十二単衣(じゅうにひとえ)の様な衣を着ていたので扇子だったが、今はゴスロリなので傘になっている様だ。

 コスプレ毎に武器が変わるって、ゲームみたいだな。

 そんな事を考えながら彼女を見ていると傘の先っちょで地面に魔法陣を描いていた。

 口でも詠唱しているので、魔法を2つ同時に使っている事になる。


「エビルサンダー」


 カズハが詠唱を終えると指をつき出す。

 長くて白い雪のような指がスラッと伸びてキレイだと思った。

 瞬間に禍々しい赤紫の紫電が波を撃つように地面を走っていく。


「ぎゃああああああ」


 様々な場所から断末魔が聞こえてきた。

 見えていなくても的確に進んだ魔法は、兵士達に当たったようだ。が、ここで終わらない。


 今度は地面で完成している魔法陣に向かって傘を突き刺し。


「デスビーム」


 突き放すような言い方で放つ魔法。

 カズハの妖艶な表情に一瞬ゾクッとした。

 そして、魔法も凶悪だった。


 魔法陣の上に光の粒子が集まったかと思うと"パゥ"という軽い音と共にネオンの様な残像を残す光線が建物もろとも貫通して飛んでいった。


 当たった兵士は融解している。完璧な破壊光線魔法だった。


「ぎょえええええ」


 兵士に混じって何処かで聞いた様な声も聞こえるが、まぁ無視だな。


「イッセイ様。如何ですか?」


 優雅にお辞儀するカズハ。

 ゴスロリ姿でも似合ってる。

 どうやら、討伐数(・・・)でも勝ったようなので、完全勝利宣言みたいなものだろう。

 俺は褒美に頭を撫でてやった。


「ご、ごら…。わざ…と…だろ……」


 カズハが開けた穴から黒焦げになったアクアが登ってきた。

 何ていうか残念な奴だなぁ…


 今回もアクアに救いは無かった。



 ・・・


 バッカス、プロメテ組はもちろんの事。ニューフェイスのアクア、カズハ組の出現によって起死回生の策も無駄に終わった地底軍は意気消沈していた。

 陽動で散った同胞と、軍の中でも部隊長クラスのみで結成された決死隊も謎の武器を振り回す子供(・・)と破壊力が恐ろしい魔法によって跡形もなくなってしまったのだ。


 このままでは犬死レベルではないと誰でも分かる。

 分かるからこそ兵士達は戸惑っていた。前にも後ろにも進めない。

 どちらに進んでも地獄なのだ。


 こんな状態ならとっとと逃げれば良いものだが、彼らにそんな選択肢は無い。

 自分が逃げれば家族や最愛の人がどうなるか知っているからである。

 地底の兵士達は皆、外来種に人質を取られている者たちばかりであった。


 取り敢えず半壊した建物を囲む兵士達。入り口に居るバッカスとプロメテから離れた位置で待機するしか無かった。それもその筈だ、先程の決死隊の壊滅によって指揮命令系統がほぼ麻痺してしまった。そこに士気の低下で誰も動けなくなってしまったのだ。


「貴様らそこをどけぇ!」


 建物を囲んでいた兵士達を割って来たのは碧眼で獅子のような男が冒険者を掻き分け前に出る。重鎧に背丈と同じようなバトルアックスを持っておりいかにも歴戦の勇者と言わんばかりだった。

 部隊長でも別格なのかその男が現れると兵たちは大いに湧いたのだった。



 ・・・



「建物の中に居る者よ。出てきてくれぬか」


 武装解除しながら近づいて来た為一応は何もしない。


「面倒だ。あんたがこっちに来い」


 別にそんな義理も無いのだが、面白そうなのでのってみた。

 プロメテとバッカスが適度にプレッシャーをかけながら随伴している様だ。3つの気配がこっちに近づいてきてるのが分かる。

 なかなか雰囲気作りが上手いじゃないか。


 客人はバッカスとプロメテの放つプレッシャーの中、俺が居るホールへと来た。多少警戒している様だがさほど辛そうでもない。

 それだけでそこそこの手練だと分かった。


 プロメテとバッカスが表に帰っていく。

 そして残されたのが、客人と俺とアクアとカズハ。

 客人は俺達の姿を見て一瞬驚いた顔をする。

 俺も客人の姿を観察する。どうも、その辺にいる兵士とは違う印象を持った。と言っても何処かの部隊長か貴族だろうと言う程度。お互いある程度値踏みが済視線を緩める。

 客人が一瞬微笑んだ様に見えた。俺を下に見たのか、予想通りの態度を取ってきた。


「なるほど。貴殿がこの騒動の主か?」


 先程より威圧感が強い。

 ただ、俺には涼しい風みたいなもんだが、試されているようで少々シャクだった。


「だとしたら?」

「…むっ。この気でも動揺しないとは…」


「はぁ?」


 本気でバカにされた気分だ。

 あの程度(・・・・)の威圧を耐えただけで驚かれるとは…


「何だ? 喧嘩を売りにワザワザ呼び出したのか」


 俺は殺気を隠すこともせずに出した。

 部隊長っぽい奴は顔を色を青くして具合が悪そうだった。


「す、すまぬ。試すような事をして…」

「もう一回だけチャンスをやる。次に間違えればお前達を全員殺す」


 兵士長っぽい奴は、俺の言葉に頷いていた。


「で、何だ?」

「我の名は、地底ベルゼブブ王国国王 バアル=ナナ=ベルゼブブ 3世だ」


 ふーん。まぁ、他のやつとは違うと思ったけど王様だったのか。で?


「だから…何だ?」

「うむ…。まぁ、挨拶しただけだ。要件は儂等を助けてほしい」


「…はぁ?」


 頭を下げてくるどっかの王様って、面倒くせえ『爺さん』で良いや。って、何で勝手に頭下げてんだ?


「おい。何で俺が助ける前提になってるんだ?」

「儂の命でどうでしょうか?」


「おい。人の話を聞け!」

「外の居る兵士達はほとんどが儂の国の民なんだ。皆が人質を取られていていやいや戦っておる。一方的であるのは理解しておる。だから儂の命…ぶへぇ」


 顔を蹴ってやった。

 顔面にヒットしたお蔭で爺さんは仰向けに吹っ飛んだ。


「何を勝手に吠えてんだ?」

「ぐっ…」

「てめえみてえな老いぼれの命なんて差し出されても嬉しくねえんだよ」


「…しかし、民」「まぁ、どの道アイツラは俺が殺す予定だ。だから邪魔をするな」


「おぉ…。ありがたや」


 俺にすり寄ってきた爺さん。

 蹴飛ばして離すと何度も土下座して頭を下げてきた。


 ちっ、関係ないって言ってんだろ…


「じゃあ。もう行け」

「はい。分かりました」


 急に従順になりやがった。

 威嚇して追い出そうとしたら誰か来た!


「バアル王」


 爺さんの知り合いらしく顔を見た瞬間に爺さんは破顔した。

 いやいや、色々おかしいんだけどな。こいつどうやって入ってきた? バッカスとプロメテは? 俺は警戒の色を示す。


 アクアとカズハをいつでも出せるようにしていた。


「おい。爺さん」

「おぉー。ガスぺ…」


「バアル王ご無事出来たか? なら死ね。この、裏切り者」


 --ガシュ


「がはっ」


 何とも急な展開だったが、爺さんが斬られた。

 ガスペとか言う奴が持つ獲物(斧)からは赤い液体が滴っていた。爺さんは結構な深手を負ったことだろう。

 爺さんが斬られたのは、実力不足だし死んでないから、まぁ置いといて。

 問題はこいつ。どうやって入ってきた?

 バッカスとプロメテは……居るな。


 と、言うとコイツは何らか(・・・)の方法でここに来た事になる。


「お前。何者だ?」

「本来ならまず貴様からと言いたい所だが既に分かっている。貴様イッセイ=ル=シェルバルトだな。私は、そこにいる裏切り者の王の部下だったガスペンだ」


 俺が聞いても特に緊張する事もなくフラットに返答してきた。そこそこの殺気で脅している(・・・・・)にも関わらずだ。この時点でかなりおかしい。

 寧ろ、逆に闘気を当てられた。

 ほほう。なかなか心地良いのを出すじゃないか。

 分かったことは、何処からどう見てもコイツは人では無い事だった。


「■◇】*【◎☓△▼)○☓」


 試しにあっちの言葉を使う。


「…何を言っているのか分かりませんね」


 ふうん。そっか、まぁいい。


「そうか。ならばいいや。そろそろ殺ろうか」


 アクアとカズハに命じて爺さんを外に出させた。

 今頃は撤退していると思う。何処に逃げたかは知らないけどね。

 そんな集団の中で数名が別行動を取った事も確認済みだ。恐らく上のやつを呼びに行ったのだろう。あえて放置した。

 もしかすると奴らの仲間が出てきてくれるかもしれない。出てきてくれたら真っ先にぶっ殺したい。


 こいつも時間稼ぎのつもりの様だし、俺もせいぜい楽しませてもらおう。


 今回、バッカスに創らせたのはメイスだ。斧も楽しそうだが武器が被っちゃうのは俺の美学に反する。

 なので、棒の先っぽに丸い鉄球の付いたメイスにした。

 お互いに獲物を持って対峙する。すぐ終わっちゃので俺からは襲いかからない。

 首元に乗っけてトントンしていたら俺の意図に気づいたのだろう。顔を曇らせたガスペンがこっちに向かってきた。


「うおおりゃああああああ」


 まっすぐ俺に向かって来ると頭を狙って戦斧を振り下ろしてきた。なんの迷いもない鋭い一撃だ。

 恐らくカスリでもすれば俺の体は裂けるチーズの様に気持ちよく割れる事だろう。

 当たればの話だが……


「貰った!!」


 "ドガン"床に当たった戦斧が激しい音と砂埃を上げた。更には、一度地面に叩きつけられた衝撃は反発し"バゴン"という音を立てて地面上で破裂した。


 ふむ。面白い技だ。2回の攻撃で対一相手に大ダメージを対多相手にもそれなりのダメージが見込まれるだろう。


 砂煙が晴れるとガスペンは驚いた顔をしていた。

 それは、カスペンが戦斧を振り下ろした場所に俺は無傷で立っていたからだ。

1話づつアップしてます。よろしくお願いします。


一部の最終話で今後の事を書きます。

よろしければそちらも合わせてお読みいただけると幸いです。

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